[携帯モード] [URL送信]

先憂後楽ブルース
高い高い城の頂上で



その後、他の二人の見張りにも話を聞いてみようとしたが、片方は国境警備中、もう片方は休暇をとっており運悪く会うことはできなかった。しかし3人の門番の中で一番ここで長く勤め、信頼のおけるロッツさんの話さえ聞ければ十分だろうと判断し、俺は諦めることにした。



「……うーん、ラネルは一体どうやって、あの部屋に入ったんだろうか」

俺は祭典のあった中庭をぶらぶらしながら1人疑問を口にしていたが、もちろん一人言ではない。アリスに話しかけていたのだ。

アリスが確認した時、全員が場内にいて場所を把握できた。そしてそのまま門を封鎖。あの建物の中の人間は1人もあの部屋に気づいていない。この状況で、誰かがあの部屋に入ることはできるのだろうか。

「例えばだけど、実はあの部屋じゃなかった、っていう展開は考えられないか? いや、俺が実際に誰か見てるんだけど」

しかしあの時の俺はかなり気を動転させていたのだ。左右上下の部屋と勘違いしていてもおかしくはない。

『ありえません。リーヤ様が倒れた場所と刺された角度を鑑みるに第7の客間以外考えられません。ちなみに両隣、すぐ上と下の部屋共に空き部屋で、事件当時も誰もおりませんでした』

「そっかぁー…。となるとやっぱり元々建物の中にいた人が怪しいよな。彼らの中の誰かが手引きして仲間を侵入させた、ってのはどうだろう」

『出入口の前には門番を、一階の窓はもともと封鎖されており二階から上は開閉可能ですが、窓があるのはステージ側のみ。あんな人だかりの中、誰かが侵入しようとすれば、いくら大衆の目がステージに向いていようとも気づくかと思います』

「だよなぁ。うーん、これも駄目かぁ……」

考えれば考える程、訳がわからなくなる。誰が犯人であろうと、その方法が説明できなければ意味がない。手詰まりの状況で俺はすっかり頭を抱えていた。


「リーヤ」

突然、後ろから名前を呼ばれ、振り返るとそこには美貌の男、テオドールが立っていた。横には背景と同化しそうなぐらい無口な護衛、アドニスさんもいる。

「あれ、王様がこんなとこで何してるの?」

「お前を探していた。ついてこい」

「え?」

何の説明もなく、言うだけ言ってすたすたと歩いていってしまうテオドール。何事か、と首を傾げながらも俺はおとなしくついていった。











彼に連れられて俺は城の中に戻り、いつも使用しているエレベーターに乗り込んだ。ぐんぐん上昇していくエレベーターの中でテオドールにどこへ行くのかと訊ねても、彼は内緒だと答えるだけておしえてくれなかった。どうも怪しいぞと訝しがっていると、エレベーターの扉が最上階で開き俺達はそこで降りた。

そういえば、この城の最上階に来るのは初めてだ。いったい何があるのだろうときょろきょろする俺を尻目に、奴は迷うことなく歩いていってしまう。俺はその後をおとなしく付いていった。

てっぺんかと思われたその階には、まだ階段があった。そこに立つ警備の男がこちらに向かって敬礼するも、テオは彼を無視して階段を登っていった。
階段を最後まで登ったテオドールは頂点にあった扉の前に手をかざす。すると扉が自動で開き、太陽の光が差し込んできた。

「うわっ…」

いったい何事かといったん目を庇った俺だが、そこに見えたものに言葉を失った。

「どうだリーヤ、ここがリリアハント城の展望台だ。素晴らしい眺めだろう」

「……っ」

眩いばかりの太陽の下に広がるのは、どこまでも続く城下町。この展望台からは美しく素晴らしいDBの町並みが一望できた。俺は勢いをつけて走り石垣から身を乗り出して、下の景色を思いっきり堪能する。

「すっ……」

「す?」

「すっっっげぇ! きれい!」

城の一番上から見る景色はまさに圧巻。子供みたいにはしゃぐ俺をテオドールが満足げな顔で見ていた。

「そうだろう。ここは難攻不落の城の司令塔だ。王都すべてが見渡せるようになっている。見ろ、これが俺の育った国、ディーブルーランドだ」

「……」

日本にいる時、ここDBは恐ろしい敵国というイメージしかなかったが、やはり実際に訪れてみると印象がガラリと変わる。日本は人々が地下で暮らす一面土ばかりの殺風景な土地だったが、ここは違う。山があり緑があり、大自然に溢れている。以前から日本への否定的な発言に違和感を感じていたが、その理由がようやくわかった気がする。DBは日本とは比べ物にならないくらい、大自然が豊かな環境が素晴らしい国だったのだ。

「……いい所だな、とても」

心地よい風を受けながら、一人言のように呟く俺。この景色をずっと眺めていたい、何度見ても飽きることはないだろう。

「でも、何で俺をここに連れてきてくれたんだ?」

「色々迷惑をかけた詫びだ。お前がこういうのが好きだってアリソンから聞いた」

「えぇえ!? マジで!?」

お前にそんな気遣いできたの!? という言葉はなんとか飲み込む。だが俺の言いたいことは顔にありありと出ていたらしい。

「お前、なんだよその反応…。俺だってこれくらいする。俺を冷血漢か何かと勘違いしてないか?」

「いや、そんなことは…ないけどさ」

しかし第一印象がアレで、しかも襲われかけたこともあるだけに『誰も頼んでねぇんだよ、余計なことしやがって』ぐらいのツンデレを発揮してくれるかと思っていた。まさかまさか、こんな素晴らしいプレゼントを用意してくれているなんて。

「ありがとう、テオ。すごく嬉しい。また来てもいい?」

「俺と一緒ならな。リーヤは1人にしていたら落っこちそうだ」

「落ちねぇよ、失礼な」

何度か落ちそうになった、というか落ちた経験があるのは内緒だ。むくれる俺から視線を移し、テオドールも景色を眺める。

「ここに来たいときはいつでも言えよ。しばらくは、俺も肩の力を抜けるわけだし」

「? どうして?」

「ラネルに狙われる心配がないから、だ。ラネルは一度見逃した標的はまず殺さない」

「ああ、そういう意味か。それ前にもちょっと聞いたんだけど。あれって本当に見逃してくれたの? 俺に邪魔されて失敗したんじゃなくて?」

「まさか、ラネルが失敗するなんてありえない」

そうは言ってもラネルが人間だと思っている俺としては、どんな完璧超人だとしても失敗することはあると考えている。今回は俺というイレギュラーもあったのだし、テオドールを諦めていない可能性もある。

「現に、ラネルが相手を威嚇射撃しただけで傷を負わすことなく去ったケースは何度かある。もちろん一度ラネルの標的となった事実はDBの人間に知れわたるから、そいつは悪いこともできず、更正するしかないわけだけどな」

「へぇ。ラネルってのは意外と融通がきくんだな」

……いや、ちょっと待てよ。威嚇射撃だけで立ち去るなんて、どこかで聞いた様な話だ。いや、聞いたんじゃない。実際に経験したじゃないか。

日本でダヴィットが襲撃された事件、あれは今の話にとても酷似している。あの時撃ってきた奴も、最初から本気で殺しにはきていなかった。まさかとは思うが、あれもラネルがやったというのか。
…いや、その可能性は十分にある。日本のセキュリティだってアリスとまではいかずともかなり厳重だったはずだ。しかしアリスを突破できるラネルならば、日本の包囲網を掻い潜ることだって可能だろう。
まだ断定はできない。しかし俺の推測が正しければラネルはあの時日本にいたことになる。

「……」

「リーヤ?」

すっかり黙り込んで思考を巡らせる俺の顔をテオドールが怪訝そうに覗き込む。俺は、ラネルを特定するための突破口を見つけられた気がした。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!