先憂後楽ブルース
レジスタンス
時計の針は、午後4時を指している。
俺は椅子に座って、エクトルの言葉の意味を考えていた。
あの後エクトルに詳しく訊こうとしたけれど、彼は話をそらし21世紀の遺物を自慢げに見せるだけ。
21世紀のことを話す彼は、とても幸せそうだった。
「うーん……」
モヤモヤした気持ちが、どうしても残ってしまっている。
「リーヤ、どしたデスか?」
ソファーに座って本を呼んでいたゼゼが、机に突っ伏す俺を心配してくれた。
「……なぁ、ゼゼはどうして、クロエ達と一緒にいるの?」
ずっと不思議に思っていたことを、ぼんやりとした気持ちで尋ねた。
「ゼゼも、リーヤと同じデース」
「え?」
ゼゼは呼んでいた本を閉じ、顔を上げる。
「ゼゼ、1年前に不法入国したんデス」
ゼゼは笑っているけれど、なんだか悲しそうだ。
「どうして?」
彼女の顔を見て、訊くんじゃなかったと、後悔した。
「ゼゼの国、あまりいいとは、いえなかった、デス」
無神経だっただろうか。
俺の悔いたような顔つきに気づいてか、ゼゼは慌てて笑顔を作る。
「あ、でも、ジーンがまとまったお金がたまるまで、ココに住んでいいって、言ってくれて。それでゼゼ、頑張ってはたらいて、今の家たてたんデスよ」
だからそんな顔シナイデーと、ゼゼの方が俺を励ましだした。
うわ、そんな気ぃ使わせてどうすんだ俺。
「リーヤは、どうして日本に来たんデスか?」
「へ?」
「家族は、どうしてるんデス?」
ゼゼは可愛らしく首を傾けて、不安そうに尋ねてくる。
「あぁ、大丈夫。家族はフツーに健在。…今は、父さんがちょっと病気になったりしてるけど…」
「大丈夫なんデスか!?」
「弟がついてるし、俺がいなくても特に支障なし」
俺がいたって、どうせ何も出来ないしな。
「リーヤ……」
父さんと母さん、どうしてるだろう。
いきなり俺がいなくなって、心配してる?
…弟は多分、喜んでるだろーな。
「リーヤ、元気だしてくだサーイ」
落ち込み始めた俺を気にして、ゼゼは立ち上がり俺の横の椅子に座る。
「つらいコトがあったら、何でも言ってくだサイ。チームのみんなが、助けてくれマス」
そう言って俺の肩を優しく叩き、元気づけるゼゼ。単純に嬉しかった。
「ありがとう」
ゼゼはまるで母さんみたいに、俺の頭を優しくなでてくれる。
「なぁゼゼ、チームって何?」
自分達はチームだと、ジーンが言っていた。ジーンだけじゃない、クロエもゼゼもその言葉を使う。
そしてそのチームが俺を助けてくれるという。
でもチームって?
「あぁ、まだ言ってなかったデスね」
ゼゼは感情の読めない口調でそう言った。
「ゼゼ達は、レジスタンス活動をする、チームなんデスよ」
「え?」
レジスタンス?
それって……。
「国家とタタカい、国家にアダす、チームデス」
そんな衝撃的なことを言いながら、ゼゼは綺麗に笑っていた。
彼女のこと、みんなのことを何も知らなかったことに、俺は今さら気づいた。
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