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先憂後楽ブルース
波瀾含みの祭典



そんなこんなであっという間にそのお披露目パーティーの日になり、俺は結局心の準備もできていないままDBの人達の前に出されることになった。前日の夜は緊張と不安でまともに眠れず、完全に寝不足でげっそりしていた。


「おはようございますアウトサイダー様。今日はこういった日にぴったりな晴天でございますね」

「そ、そうですね……」

朝っぱらからなぜか上機嫌なアリソンさんがやってきて、にこにこと微笑みながら今日の段取りについて説明してくれる。この人は要注意人物であり、俺の最も苦手とするタイプ、つまりアウトサイダー信者だ。

「アウトサイダー様がDBに来てくださったことを祝う大事な日ですから、晴れて本当に良かったです。祭典はこのリリアハント城の庭園で行う予定ですので」

「そうなんですか?」

「はい。今回は城にいる貴族のみしか出席いたしません。とても小規模なものですので、どうか緊張なさらずに」

彼の話を聞いて、ちょっとだけほっとする。城の中なら一番広い庭園だってたかが知れている。いや、それでもかなり広いのだが。

「アウトサイダー様にはテオドール陛下と一緒にご入場していただき、庭園に設置されたステージの上に上がっていただきます。そして陛下のお言葉の後にアウトサイダー様から我々DBに何か一言いただければ、と」

「な、何でもいいんですか? いったい何を言ったらいいのか……」

「アウトサイダー様のお言葉でしたら、どんなものでもかまいません。しかしもしお困りでしたら、この紙に書かれた内容を読み上げていただいても結構です。参考までにどうぞ」

そう言ってアリソンさんは懐から一枚の封筒を差し出してきたので、ありがたくいただいておく。アウトサイダーが言うべき言葉の見本のようなものだろうか。

「大まかな進行は司会である私が行いますので、アウトサイダー様はそれに倣っていただければと思います。祭典の後半はほとんどアウトサイダー様に美味しいお食事を食べて喜んでいただければと考えておりますので、どうか気兼ねせず楽しんで下さいね」

「……はい、ありがとうございます」

アリソンさんはそう言ってくれたが、その言葉を素直に受けとることなどできるはずもなく。俺は気分が落ちたまま、ただその瞬間を待つこととなった。
















後程迎えにくると言ったアリソンさんが出ていってから、俺は1人部屋のベッドの上ですっかり塞ぎ込んでいた。まるで何もわからないままの俺が人の前に出て話すなど失敗する気しかしない。アリソンさんからもらった紙を少し読んだが、まるでDBに永住するかのような内容でとても大勢の前で読めたものではなかった。


「はぁー…、俺、どうすればいいのかなぁ、アリス」

『リーヤ様、それは質問ですか?』

「……いいや」

人工知能のアリスに話しかけても仕方ない、これは自分の問題だ。わかってはいるが誰かと話していないとどうにかなってしまいそうだった。

「俺にできることはテオドールを説得して王としての勤めを果たさせることだって思ってたけど、それもなんか無理っぽいし。ていうか何年かかるんだって話だし。その間ダヴィットにも会えず家にも帰れないなんて大問題だよ。もしかすると、これのせいで実家に連れ戻されるかもしれない」

一度行方不明になり家族にかなり迷惑をかけてしまったのだ。また同じことを繰り返した上に今度は弟まで巻き添えにしてしまった。怒り狂う母さんが目に浮かぶようだ。しかしもしまたあの家に連れ戻されたとして、そうなると俺はどうやってこっちに来ればいいのか。今のところ自分のベランダから飛び降りるという方法しか思い付かないのに。

「やっぱり早く日本に、いや、元の世界に戻らなきゃ。アリス、DBの人達が早く俺を日本に帰したくなるようにする方法って、知らない?」

『不適切な質問です。答えられません』

「だよなぁ……」

『しかし、いかなる状況においても、ディーブルーランドの人間がアウトサイダーを手放すことはないでしょう。それこそ、アウトサイダーが不吉の象徴にでも戻らない限り』

人工的に作られたアリスの返事を期待していたわけではない。だが彼女が返してくれた言葉はとても真っ当で驚く程正しかった。

「……やっぱりすごいな、アリスは。ほんとに生きてる人と話してるみたいだ」

『恐縮です』

さらにアリスと話そうと口を開いた瞬間、部屋のドアがノックされる。そして外からアリソンさんの声が聞こえた。

「アウトサイダー様、お迎えにあがりました」

「えっ、もう!?」

ろくに心の準備ができていないまま俺は部屋の扉を開ける。そこにはアリソンさんだけでなくテオドールと二人の護衛もいた。アドニスさんとハーシュさんは俺を見るとその場で敬礼する。まさかテオドールがいるとは思わなかった俺はその姿を見てぎょっとしてしまった。

「俺はこの浴衣のままでいいんでしょうか?」

「かまいません。よくお似合いですよ」

アリソンさんはそう言ったが、スーツで統一されている3人の中1人だけ浴衣というのも気が引ける。しかしこれしか服がないので選択の余地はない。

「服などなんだっていい。さっさと行ってさっさと終わらせるぞ」

「……」

そう言い捨てたテオドールがとっとと歩いていってしまう。アリソンさんにも促され俺は彼らの後を追いかけた。



長い回廊を5人で歩いていくと、大勢の人間のがやがやとした声が聞こえた。やっと庭園が見えてきても、この日のために設置されたらしい大きなステージのせいで人の姿は見えない。

「それでは陛下、アウトサイダー様。私は先に行かせていただきますので、お二人は後からご入場下さい」

アリソンさんはそう言うと1人で舞台袖に行ってしまった。緊張のしすぎでカチカチに固まっていた俺は、隣で退屈そうに俺の様子を窺うテオドールの視線にも気がつかなかった。


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