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先憂後楽ブルース
ディーブルーランドの秘密





「おはよーございます陛下! 今日もいい朝ですね!」

「……んあ?」


ここはテオドール陛下の自室。彼の部屋の場所を聞き出してから、俺は毎朝彼が出掛けてしまう前に部屋に乗り込むようになった。あのストーカー宣言以来、俺は毎日のようにテオドールに王様としての職務を果たすように説得し続けていたが、彼はまったく聞く耳持たずむしろ言えば言うほど反抗しているように見えた。


「ほら、早く起きて。きりきり動いて」

「起きてって……まだ8時にもなってないだろうが……寝かせろ」

「駄目だって! これでもかなり譲歩してる時間帯なんだからな。はい早く起きる!」

「うるさい……アドニス、何故こいつを部屋に入れた…!」

「……」

「おい、無視するなアドニス」

無口な護衛のアドニスは何も言わずただテオドールを見つめている。常に仁王立ちの無表情で立っている彼の思考が、俺にはまったく読めない。ある意味テオドールより手強い相手だ。

「アドニスさんだってアウトサイダーには逆らえないんだって。あんまり責めないでやってくれよ」

「お前のせいだろうが。何を偉そうに言ってるんだ」

テオドールはどうやら朝に弱いらしく、寝起きに押しかけるといつも俺にいいようにされている。起きがけのテオドールはフランカ様に似ているだけあって女の子が見たらキャーキャー言いそうなくらいの色気があったが、男の俺にはまったく効果はない。

「今日は遊びほうけることもなく、元気に公務を行いましょうね。俺、アリソンさん呼んでくるから」

「ヤメロ。そういうことはアリソンに任せてある。俺が口を出すことじゃない」

「口を出すことだよ! お前の仕事は遊ぶことじゃない。最初は見てるだけでもいいから、ちょっとずつ覚えていこうぜ。俺も付き合うからさぁ」

「結構だ。お前、嫌々きたアウトサイダーのくせに生意気だぞ。俺に関わるな」

「お前こそ、俺を無理やりここに逗留させてる張本人のくせに、関わるなはないだろ。お前が嫌がっても何度でも言い続けてやるからな」

「………shit!」

「え?」

テオドールがなにやら悪態のようなものをついた。よく聞こえなかったが、多分悪態なのだろう。

「アドニス、そいつを早く追い出せ。次は入れるな」

テオドールに命じられたアドニスは黙ったまま俺をじっと見つめている。王の命令に従うべきか少し迷っているみたいだった。

「待ってくださいアドニスさん! 俺の言ってることは間違ってないはずです。俺のことは追い出さないで下さい」

「……」

アドニスさんはただでさえ渋い顔をさらにしかめ、踏み出しかけていた足を引っ込めた。それを見ていたテオドールは信じられないといった風に俺を睨み付けた。

「もういい! お前達勝手にしろ。俺は寝る」

「駄目駄目! 二度寝は駄目だったら!」

「うるさい」

いそいそと再びベッドにもぐり込むテオドールの身体を必死に揺らす。しかし結局、その後テオドールが俺の言葉に従ってくれることはなく、今日も俺の説得は失敗に終わってしまった。












「ほんと、あの人どうやったら言うこと聞いてくれるんですか!?」

「リーヤ様……」

その日の昼下がり、俺はレイチェル様、フランカ様と共にまたまたお茶会をしていた。二人の前でテオドールに対する不満をぶっちゃけるとレイチェル様はあたふたと、フランカ様はなぜかニコニコしていた。

「仕方ないよ〜。あの子、政務なんかより女の子と遊んでる方が楽しいんだもん」

「……そんなの誰だってそうでしょう。理由になりません」

テオドールが女好きの遊び人なのはとっくに知っている。それをなんとかするために俺はいるのだから。

「それでしたら、手始めにテオドール陛下に主要会議に出ていただいてはどうでしょうか」

「主要会議?」

レイチェル様の提案に首を傾ける俺。あまり聞きなれない言葉だ。

「月に一度、DBの重役達が集まって会議を開くんです。今後の国の情勢を左右する重要な取り決めをしたり、新たなルールを設けたりする大切な場なんですよ」

「ああ、国会みたいなものね。ってまさか、テオドールはそれに出てないの!?」

「出てないよー。いっつも代理でアリソンが仕切ってるもん」

「う、嘘だろ……」

しれっと言うフランカ様に項垂れるしかない俺。まずそこから始めなきゃいけないなんて、どれだけ遠い道のりなんだ。

「ちょうど、もうすぐその会議がある日ですから。そこに出席するよう、陛下にお話してみるといいと思います」

「……なんか、俺じゃ到底不可能な気がしてきた」

1人自信をなくしているとフランカ様が笑顔で近づき、人差し指で俺の顎をくいっと上げた。もう嫌な予感しかしない。

「あらぁ、だったらリーヤ君が色仕掛けで迫ってみたら? テオも大人しくなってくれるかもよ〜」

「何の罰ゲームですか。お互いメリットないです」

「でも、婚約すればリーヤ君の話だって聞く耳持つだろうし、テオとリーヤ君、不釣り合いだけどしっくりくるカップルじゃなーい?」

「ないです。というかそもそもテオドールには決まった相手がいるのでは」

「え゙、誰」

フランカ様の美しい顔が珍しく崩れた。彼女はひょっとして弟の女関係を把握しきれていないのだろうか。

「誰って……彼はアリスという名前を出してましたけど。これからもずっと一緒にいる人だって」

アリスという名を口にすると、フランカ様とレイチェル様はそろってきょとんしてしまった。何かマズいことを言っただろうか。

「リーヤ様、それは人ではなく、アリスという名のセキュリティシステムのことだと思われますが」

「へ」

「こら、レイチェル」

驚いている俺の前でフランカ様がなぜかレイチェル様を優しくコツンと叩く。叩かれたレイチェル様の方も不思議そうにフランカ様を見ていた。

「そのセキュリティシステムって、一体どんなのなんですか?」

「どんなのって……まさかリーヤ様、アリスを知らないのですか!?」

動揺するレイチェル様にフランカ様が再び呆れたという顔をして、深く深くため息をついた。

「レイチェル、あなたって本当に余計なことしか言わないよね……」

「えっ? だってリーヤ様がアリスの存在を知らされていないなんて、おかしいじゃないですか」

「おかしくない、おかしくない。リーヤ君、今聞いたことはすべて忘れて……ってそれは無理な話かぁ」

「?」

「もういいや。レイチェル、説明してあげて」

「はいっ」

レイチェル様はフランカ様に頼まれたのが嬉しいらしく、にこにこと微笑みながら俺に説明してくれた。

「アリスは常に私達の側にいて、私達を守ってくれている最高のセキュリティシステムです。リーヤ様の側にもおりますよ。もちろん、今この瞬間も」

「………どこにも見当たらないんですけど」

「目には見えません。疑うのであれば、ぜひ話しかけてみてください」

「えぇ? 誰に話しかけるって?」

「だから、アリスにです。『こんにちは、アリス』と一言いってくださればわかります」

「はぁ……」

この時になって、俺はひょっとしてこの二人にからかわれているのではないかと思い始めていたが、フランカ様はともかくレイチェルがそんなことをノリノリでするわけがない。だが騙されたと思って俺がアリスとやらに呼び掛けた瞬間、とんでもないことが起こった。


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あきゅろす。
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