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先憂後楽ブルース
苦手なあの人






「オハヨウございマス、アウトサイダー様」

「……おはよう、ジア」


当初こそ、俺のことを警戒していたジアだったが、笑顔で接するようにしてからは随分態度を軟化させてくれるようになった。そして俺が態度を改め、ジアと積極的に話そうと心がけるようになってから、わかったことが1つだけある。

「えーと、ジアは今日もこの後予定があるんだよな? ここに来るまでにテオドール陛下を見なかったか?」

「…………ヨテイ?」

「予定わからない? テオドール陛下は? 見てないかな」

「…陛下、見る、ない」

「そっか……」

そう、ジアはあまり、日本語が得意ではなかったのだ。いや、それでもこちらか言うことをある程度理解できるだけで十分すぎるぐらいなのだが、コミュニケーションをとることはかなり難しかった。ジアは基本片言のため、まずこちらに理解力がないと話にならない。実は今までペラペラと話せていたように見えたのは、どうやら定型文だけ丸暗記していたからのようだ。

「……まあ、いいか。ジアに仕事があるのは当然だもんな。陛下は自分で探すよ」

「?」

「いやいや気にしないで。ジアはこれまで通りで、俺のことは考えなくていいから」

できるだけゆっくりとした口調でそう言うと、なんとなくわかってくれたのか小さく頷くジア。そういえば彼は今いったいいくつなのだろうか。顔立ちは大人びているが、あまり俺と変わらない年齢な気がする。相手が片言だと、ついつい年下に接するような話し方をしてしまうわけだが。
これ以上無理に会話を続けてジアを混乱させるのも申し訳ないので、俺は会話をそこで中断させた。ジアと仲良くなるには、どうやらまだ時間がかかりそうだ。









今の俺には、テオドールという名の享楽に耽りっぱなしの王を、まともに改心させるという役目がある。なぜそんなことを俺がするかというと、俺が唯一テオドール陛下に強く言える立場のアウトサイダーという存在であるからだ。そしてもし俺の説得が功を奏し、陛下が国民のために心を砕いてくれるようになれば、俺のアウトサイダーへの評価も鰻登り。DBの人達も俺も大満足、というわけだ。



……実際、そんな事がうまく運ぶとは考えていないわけだが、まあこうでも思わないとこんな孤独で地道な作業やってられないわけで。しかし現実とは非常なもので、現に俺は初っぱなから躓いてしまっていた。


「……あいつ、一体どこにいるんだよ…!」

陛下を説得するには、まず陛下と会って話をするしかない。だが自分の部屋から出た俺は、まず陛下の居場所がわからず立ち往生してしまっていた。彼は遊び暮らしているようだし、俺のために時間を作ってもらうことは可能だろう。しかし肝心の陛下と会えないのでは話が始まらない。前回のいたずらで飽きてしまったのか陛下から俺に関わってくる様子もなく、俺は途方に暮れていた。
すれちがう人に訊ねたくとも、まず英語が話せない。いや、俺だってテオドール陛下はどこにいますか、ぐらい頑張れば英語で話せるかもしれないが、いかんせん、廊下を歩く兵士や給仕係り達がこぞって俺から逃げてしまうのだ。横柄に接していた代償なのか、アウトサイダーと関わりたくないからなのか、なんにせよ俺は陛下の場所もわからず誰にも聞けず、もはやどうすればよいかわからなくなっていた。

唯一知っている、テオドール陛下が現れそうな場所は娯楽室だ。だが娯楽室にいる陛下を訊ねることなんて俺にはできない。できないったらできない。もう二度とあそこには近づきたくないぐらいだ。

偶然レイチェル様と出会う、などという前のような幸運でもあれば、テオドール陛下の場所を快く教えてくれるかもしれない。だが彼女達を見つけるのも一苦労なのだ。そう何度も幸運の女神は俺に微笑んではくれない。
結局、行く宛のない俺が向かった先は図書室。ここにテオドール陛下が現れる可能性はかなり低いが、レイチェル様と最初に会った場所でもある。ここで待てばもしかすると彼女と話すことができるかもしれない。


しかしいざ図書室に入ってみると中には誰の気配もなかった。きっと無駄に気合いを入れて早起きなどしたせいだ。とりあえずここで昼食の時間が来るまで粘ってみよう。



「……はぁ」

こんなだだっ広い場所に1人でいると、ただでさえひとりぼっちなのに、さらに孤独を感じてしまい、ついつい深いため息をついてしまう。ここまでの寂しさを感じたことが今まであるだろうか。レイチェル様が味方になっていてくれているからなんとかやっていけている状態だ。それにこの作戦はアウトサイダーの株を上げるにはいいかもしれないが、俺が日本に帰るために有効とはいえない。本当は今すぐにでも帰りたいぐらいだ。リーザのことが心配でどうにかなりそうだし、クロエやみんなにも会いたい。……もちろん、ダヴィットにも。


どうにか気を紛らわせようと歩き回って俺でも読めそうな本を物色する。奥へ奥へと進んでいると、図書室の扉が開く音がして誰かが入ってきたのがわかった。こんな朝早くから物好きもいたものだ、と俺は特に気にもせず本棚に視線を集中させていた。だがしばらく室内を歩いていた俺に、後ろから声をかける人がいた。




「おはようございます、アウトサイダー様」

後ろに誰かがいるとは思ってもいなかった俺は、びっくぅっと大袈裟なくらい驚いてしまう。しかもその相手が自分の敵と思う人間ならば尚更だ。

「……お、はようございます、アリソンさん」

「奇遇ですね、貴方とこんなところでお会いできるなんて」

絶対奇遇なんかじゃないだろオイ。よくもいけしゃあしゃあとそんなことが言えたものだ。彼、アリソン・ワイクは特使としてフランカ様と共に日本に来ていた人で、ローレンを後ろから操っていたと疑われる筆頭容疑者でもある。そんな人の前で愛想笑いを作ること以外、今の俺に何ができるというのか。

「……と、いうのは冗談で、実はアウトサイダー様に話があったのですよ」

「えっ」

それは知っていましたが、と返すわけにもいかず馬鹿正直に告白してきたアリソンさんをまじまじと凝視する俺。俺に何を期待してそんなことを暴露するのか、彼の考えがまるで読めない。

何にせよ、この人とこれ以上長く二人きりでいるのはよくない気がする。にこにこと微笑みかけてくるその表情には悪意のかけらも見当たらないが、逆にそれが胡散臭く感じてしまう。何か口実をつけて、ここから逃げ出さなければ。

「あ、あの、アリソンさん」

「なんでしょうか」

「い、いつも一緒にいらっしゃる護衛の方は、今日はどうされたんですか。離れてしまって大丈夫なんですか」

「護衛? ショーティのことですか? 彼は護衛ではありませんよ。私のセクレタリーですから、常に一緒にいる必要はありません」

「あ、なるほどー…」

俺はひきつった笑顔を見せながら、彼から離れる方法を考える。相手の狙いがわかりづらいだけに、何かまずいことを口走ってしまいそうで怖い。

「そもそも、城内で護衛など必要ありませんよ。ここは安全ですので安心なさってくださいね、アウトサイダー様」

「……はい、ありがとうございます」

「ところでアウトサイダー様、テオドール陛下とはあまりうまくいっていないご様子ですが、実際のところはどうなのでしょう。貴方は陛下をどう思われておいでですか?」

「へっ」

まさかの質問の連続に俺は愛想笑いのまま固まってしまう。陛下をどう思うかって、なぜそんなことをアリソンさんが気にするのか。……いや、単純に考えれば答えは簡単だ。この人はテオドールと俺を、婚約させようとしているに違いない。

「その様子を見る限り、私の見解は正しかったようですね。……アウトサイダー様、陛下は貴方に……」

アリソンさんの手が俺の方にのびてきて、思わずのけぞりそうになる。しかし次の瞬間、アリソンさんの言葉が終わらないうちに後ろから邪魔が入った。

「あれー、アリソンだ」

「……っ」

突然声をかけられたアリソンさんはかなり驚いたようで目を丸くさせながら振り返る。そこに立っていたのは、美しいドレスを見に纏いにこにこと微笑むフランカ様だった。


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