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先憂後楽ブルース
ヒキコモリにシチューを


「すっげ〜」

出来上がったシチューはとっても美味しそうだった。ほとんどゼゼが作ったんだから当たり前だけど。
俺がしたことと言えば、人参を切る、ルーを入れる、かき混ぜる、だけだ。
中身は野菜のみの野菜シチュー。400年たっても美味しいものは残るらしい。

「後少し煮こめば出来上がりデース」

女の子の手料理なんて初めてだ。ゼゼがおたまでシチューをグルグルかき混ぜている。台所からはいい匂いがしてきた。

「そういやさぁ、クロエとジーンどこにいったの?」

待ちきれない俺は鍋を覗きこみながらゼゼに訊いた。

「学校デスよ」

「学校?」

そういや高校生だったな…。

「そっか…そりゃ学校に決まってるよな…」

なぜか思いもしなかった自分に少し驚く。

「あんまり学校には行かないデスけどねー。特にクロエは」

見た目のとおり、問題児ってわけか。

「そういやエクトルは? ここに住んでんだよな? 朝から見てないけど」

「エクトルなら部屋デス」

「え?」

いたの!?

「まだ寝てんの?」

掃除の時の騒音で目が覚めても良かっただろうに。

「多分もう起きてマス」

ゼゼは平べったい皿にシチューをそそぎ込んだ。

「じゃあ何で起きてこないの? それに学校は?」

「あ〜…エーと…」

ゼゼはお玉を鍋にいれ、指をしゅっとした顎にあて上を見る。まるで言葉を探すみたいに。

「あっ、思い出しマシた!」



「エクトルは、クロエいわく、『ヒキコモリ』ってヤツをやってマス」

俺は思わず吹き出すところだった。

「ヒキコモリ…!? とっ、登校拒否ってこと?」

「イエース」

「マジかよ」

厄介になってる兄弟の末っ子がそんな面白い…じゃねぇや。大変なことになっているなんて。

「いつの時代もいるもんだな…」

「え?」

「いや、何でもない」

エクトルの目が虚ろに見えたのは、勘違いじゃなかったのかもしれない。

ゼゼは変なリーヤ、と呟いて美味しそうに湯気を上げているシチューを俺に突き出した。

「うぉっ、完成?」

「コレ、エクトルに持っていってアゲてくだサイ」

「ぅえ!?」

俺が!?

「いやいやいや、そんな登校を拒否るほど繊細な心の持ち主の部屋に見ず知らずの俺が入るわけには……」


入りづらい。
…非常に入りづらいっ!


だがあたふたと拒絶する俺を見て、ゼゼはにーっこり笑ってこう言った。




「は・や・く」



……………………。



「……はい」




ほんのちょっぴりゼゼが怖かったのは、内緒だ。


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