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先憂後楽ブルース
嘘も方便



「レイチェル様と、ダヴィットは絶対に結婚させません!」


突然、大声を出し立ち上がった俺に周囲の視線が釘付けになる。全員が注目する中、俺は声高らかに宣言した。


「ダヴィットと結婚するのは、この俺ですから!」


言ってしまってから石化した人たちを見て、これは失敗したと思った。みるみるうちに顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。やっぱりこれはいくらなんでも唐突すぎただろうか。というか何なんだ、何を言ってるんだ俺は。これで万事解決すると思ったのだが、もしかして間違ってる?



「……リーヤ、お前…」

ハリエットとアイコンタクトをとろうとした矢先、隣にいたダヴィットが唖然としながら俺を見上げてくる。そうですよね、そりゃびっくりしますよね。

「やっと心を決めてくれたのか…! 私も同じ気持ちだリーヤ!」

「へ? …うわっ、ちょダヴィット!?」

ダヴィットが俺を抱きしめたのを皮きりに、突然周囲の人間が盛大な拍手をし始めた。ダヴィット父は立ち上がり、ダヴィット母などは何故かむせび泣いている。

「すまないリーヤ・垣ノ内、そなたの気持ちも考えず…。てっきり息子の片思いだとばかり思っておったのでな」

「うっ、うっ、…リーヤ、ダヴィットをよろしく頼むわね」

「いや、あの」

「よく言ったわカキノーチ! やればできるじゃない! ナイスガッツよ!」

「良かった、良かったです、殿下…!」

隣のハリエットまでもが立ち上がり、ダヴィットに抱きしめられている俺に向かって思いっ切り親指を立てる。周りを見るとジローさんが泣き崩れるダーリンさんの肩を支えていた。さっきまで通夜みたいな雰囲気だった室内は一瞬にして感動の渦に巻き込まれていた。

「レイチェル、どうやら私達の出る幕なしみたいね…」

「そうですね、お姉様…!」

おいそこの2人なに良いムード作ってやがるんだ。婚約を邪魔されたんだからもうちょっと粘るとかないのか。

「おめでとうリーヤ、仕方ないから僕は潔く身を引くよ。2人で幸せにでも何でもなりな」

ローレン、それはもういいからちょっと黙っててくれ。いや、やっぱ黙らなくていい。黙らなくていいからこの祝福ムードをなんとかして欲しい。

「あの、それでは今回の縁談は…」

微笑ましくも和やかな雰囲気に包まれる中、1人心底困った表情でおずおずと手を挙げる特使、アリソン・ワイク。今だから言えることだが、頑張れ、貴方だけが頼りです。

「そんなのはナシに決まっておる。これはアウトサイダーの意志だぞ。何か異論でも?」

「いえ、まったく」

まったくないのかよ!

「アウトサイダー様のご意志であれば致し方ありません。誠に残念ではありますが、今回の話はご破算にいたしましょう」

あっさり身を引いてしまったアリソン・ワイクに俺はぐうの音も出ない。隣ではレイチェル様とフランカ様が小さくハイタッチをしているし、ダヴィットは昨日までの冷徹ぶりが嘘のように俺を腕の中に閉じ込めていた。

「良かったなリーヤ! これで私たちの婚約関係が復活したぞ」

「は、はは…」

俺のせいで3人、いやそれ以上の人間を不幸にしてしまうところだったのだ。すべてが丸くおさまるのだと思えば、この状況は俺にとってたいへん喜ばしい。…はず、なのだが。

「リーヤ、ハネムーンは一緒にアーカン湖に行こうな!」

「どこだよ、それ…」

ここぞとばかりにすり寄ってくる男にされるがままになりながら、俺は早くも後悔し始めていた。これからどうなるかは自分でもわからないが、俺が軽率で無責任な発言をしてしまったことだけは確かだった。










それからの話を少しだけしよう。

今回のことは国を巻き込んでの大騒動だったわけだが、終わってみるとまあなんともあっけなかった。アウトサイダーの一声で特使アリソン・ワイクはさっさと撤収してしまったし、フランカ様とレイチェル様の2人の姫君はといえば…。



「私達、しばらくここにお邪魔することにするわ〜」

「はい!?」

満面の笑みで俺にそんなことを言ったフランカ様の手には、レイチェル様の小さな手が握られている。今まではずっと暗い表情だったレイチェル様も俺に笑顔で会釈してくれた。

「どうしてまた…」

「だあって帰ったって上に怒られるだけだし、ここにいた方がレイチェルとずっと一緒にいられるんだもの」

「いいんですか? そんなことしてしまって」

「アリソンに許可をもらったから平気よ〜。ちょーっとしぶってたけどね。まあ、アリソンが私に逆らおうなんて百年早いんだけど」

「はあ…」

それよりもよくダヴィット父が許したな、などと思っているとフランカ様がレイチェル様の手を握ったままぐっと距離を縮めてきた。彼女の美しい顔が間近に迫ってきて、思わず後退してしまう。

「お礼がまだだったわね、リーヤ君」

「へ?」

「よくやった、と誉めてあげたいところだけど、リーヤ君てば行動が遅いんだもん。あんなに私がアピールしてたのに〜。もうやる気ないのかと焦っちゃったわ」

アピールしてたって、まさかあの数分の会話のことだろうか。どうやらフランカ様は俺が止めてくれるのを待っていたらしい。

「でも私ダヴィットなら結婚しても良かったかも。ざんねーん」

「え」

フランカ様のまさかの発言に俺が目をまん丸くさせると、にやにやと笑う彼女と目があった。どうやらからかわれただけのようだ。

「フランカ様、俺で遊ばないでくださいよ…」

「あら、そう思ったのは本当よ〜。だってダヴィット、いい男だもん。…だから、残念だなって」

最後にフランカ様の表情が少し固くなったのを俺は見逃さなかった。まさかダヴィットのことが好きだったわけでもないだろうに、なぜそんな顔をするのだろう。

「リーヤ様、やっぱりダヴィット殿下のことが好きだったんですね。私の手前、あんな嘘をついてくださったんでしょう?」

フランカ様の後ろに寄り添うようにして立っていたレイチェル様が優しい笑顔で俺に問いかける。実はさっきのが嘘なんですなどとは言えない俺は、とりあえず笑ってごまかしておいた。


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