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先憂後楽ブルース
暇人探偵団


フランカ様と一悶着あったその日の昼下がり、俺はまたしてもハリエットと神経衰弱をしていた。ただ1つ前と違っていたのは、この暇つぶしのゲームにもう1人参加していたことだ。

「ねぇ、これって面白い? あんまりハラハラ感はないし、大富豪とかの方が好きだなー」

「確かに、同感です」

「……そりゃローレンとハリエットにはつまんないだろうよ。何であんたらそんなに記憶力いいわけ!?」

俺達の神経衰弱に参戦したローレンは、ハリエットに負けないぐらい記憶力が良かった。2人そろって一度めくったカードの柄は忘れない。ここまでくると逆に俺がアホなだけなんじゃないかと思えてくる。

「そうだわカキノーチ、私またフランカ様のことについて調べてみたの」

「…ああ、まだやってたのそれ」

「やってるわよ! 有力な情報が掴めるまでやめないんだから」

今はなんとなくフランカ様の話はしたくないな…とか思ってるうちにローレンがまたしてもカードをそろえている。俺のボロ負けはすでに決定だ。

「フランカ様ってかなりプライベート非公開なのに、どうやって調べたの? すごいねハリエットは」

「そうなんですよローレン様! ほんとに苦労したんですから! わかってくれます?」

なのにこいつときたら、と言わんばかりの視線を冷たい反応ばかりしていた俺に向けてくる。俺が無視しているとハリエットは懐からメモ帳を取り出しペラペラとめくった。

「私が調べた情報によると、フランカ様はかなり男勝りな方で、空手や射撃を趣味としているらしいわ。未確認の情報だけど、酔っ払って絡んできた下級貴族を蹴り倒したこともあるみたい。見かけに騙されちゃ駄目よカキノーチ、彼女の腕力はゴリラ並なんだから」

「それならもう知ってる」

「え!? 何で!?」

間抜けにも足をすべらせ落ちかけて助けられたことなど話したくない。俺はごまかすための笑顔を見せるだけにしておいた。

「ま、まあこれぐらいはゴシップ記事にも載ってるレベルの情報だものね。じゃあこれはどう? フランカ様は他人にはいっさい興味を持たない方だけど、たった1人の弟、テオドール陛下だけは溺愛してるって話」

「それも知ってる」

「だからなぜ!!」

ハリエットに思いっきり強く机を叩かれビクッと震える俺の身体。ローレンがハリエットを優しくなだめ席に座らせる。

「私は、あの方を見てると嫌な予感がするわ。よからぬ事を考えてるようにしか見えないもの」

「その根拠は?」

「私の鋭い観察眼よ」

「へぇー…」

その鋭い観察眼とやらには、俺とダヴィットはラブラブでクロエが俺に横恋慕、な感じに見えていたようだが。まったくあてにならない。

「リーヤはどうしてそんなにフランカ様のことに詳しいの? もしかして興味でてきちゃった? だったら妬けるなぁ」

俺達のやりとりを笑顔で聞いていたローレンがカードをめくりながら意味深に話しかけてくる。ていうかそこ掘り返しちゃうんだダヴィット弟。ジーンに似てるのは顔だけか。いや、確かジーンにもいいことだろうが余計なことだろうが容赦なく突っ込んでくるところがあったっけ。

「…ついさっき会ったんだよ、フランカ様に。ローレンが連れて行ってくれたタワーの最上階で」

「「えーっ!」」

黙ってるとお姫様に興味があると思われちゃうので正直に暴露すると、2人は大声をあげてそれはもう面白いくらいに驚愕した。

「どんなだった!? どんなだったのよカキノーチ! やっぱりいい匂いとかするの? 間近で見たらもっとオーラ出てた? 話したら惚れちゃったりしない?」

「あー、何で僕もう少しリーヤと一緒にいなかったんだろう! ばか! 僕のばか! あ、リーヤちゃんとサインとかもらった? 駄目だよもらわなきゃ、せっかく会えたのにもったいない! 今度もし会ったら僕の分もお願いしていい?」

サインはちゃんと俺の方がしておきました。ていうか何だよお前ら、普段は悪口言ってるのにいざその有名人目の前にするとはしゃぐたちの悪いミーハーか。

「フランカ様とどんな話したの? 話すことなんかあるわけ?」

ちょくちょく失礼なハリエットは興味津々といった感じで身を乗り出し訊ねてくる。俺は渋々ながら彼女との会話の内容を話した。

「核心ついていこうと思って、本当にダヴィットが好きなのか訊いた」

「意外とやるわねカキノーチ。で?」

「別に好きじゃないってさ」

「ほーらやっぱり! 私の言った通りでしょう!」

得意げに鼻を高くするハリエットだったが、それはそれで問題が出てくるのではないか。現にローレンは不安げな目をして腕を組みながらぶつぶつ呟いている。

「それならどうして、フランカ様は兄さんを…」

「なんか、俺を口説くために来たらしいよ」

「はあ? カキノーチを口説くって…ああ、日本から引き離して、DBに連れて帰ろうって魂胆ね」

「そんなとこ」

やっと謎がとけたところで再びハリエットが顎に手をあて考え込む。

「……でも、やっぱりおかしい」

「おかしいって何が」

「フランカ様の話よ。カキノーチを口説きに来たって言う割には何のアプローチもしてないし、普通そのことをカキノーチ本人に言う? 全然口説く気ないじゃない」

「それは、俺にその気がないって思ったから…」

「本当にその気ないの? まったく?」

「た、多分」

あらためて考えてみると本当は自信がない。あの美しい顔に本気で求愛されればころっといってしまう可能性もある。

「だいたいにしてカキノーチより殿下の方が落としにくいに決まってるじゃない。殿下が今フランカ様に優しいのはあくまで賓客だからであって、本当はカキノーチと一緒にいたいはず」

「ダヴィット、フランカ様に優しいの?」

「意外だね、嫌なものは嫌って言いそうな性格なのに。DBが日本にとってそれだけ脅威ってことかな」

素で優しいダヴィットなど家族か俺ぐらいにしか見せない姿だと思っていたが、どうやらそんなことはなかったらしい。これも一国の王子としての務めか。

「でもフランカ様にはそれはきっとわからないでしょうね。だってカキノーチとフランカ様だったら百人が百人フランカ様を選ぶもの」

おい、なんか後半俺の悪口みたいになってないか。初対面のときは俺の見た目誉めてたくせに。

「僕は結婚するならフランカ様よりリーヤがいいなぁ」

「ローレン様、容姿も性格もダヴィット殿下とは似てらっしゃらないのに、好みのタイプはかぶってるんですね」

「…はは」

ハリエットとローレンの和気あいあいとした話を聞き、乾いた笑みがこぼれる。ハリエットの言葉にトゲがあるのはいつものことだからいいとして、ローレン、要所要所に入れてくるその笑えない冗談やめてくれ。

「でももしハリエットの考えが正しいなら、結局フランカ様はここに何しに来たんだろう」

ローレンの疑問に、うーんといっせいに考えを巡らせる俺達。一つだけ思い当たった俺は控えめに発言してみた。

「もしかしてフランカ様が俺を口説かないのは、俺があまりにも好みじゃなかったから、とかだったりして」

「「……」」

わお、予想外に嫌な沈黙。

「な、なに言ってんのよカキノーチ、人に興味がないフランカ様に好みとかあるわけないでしょ!」

「そうだよ! 僕はリーヤならストライクゾーンど真ん中だよ! だから気にしないで!」

「……どうも」

あんなハリウッド女優並みの美人に相手にされないからといって別に傷ついたりしないのだが、ローレン達の慰めを聞いてなんとなく惨めな気持ちになった。でも意外といい奴らだこの2人。

こうしていつの間にか始まっていた推理大会は、俺がローレンとハリエットに励まされただけで、結局何一つ謎は解明されないまま終わってしまったのだった。


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あきゅろす。
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