先憂後楽ブルース
働かざる者食うべからず
400年後の未来は機械がなんでもやってくれる、なんてのは、ただの夢でしかなかったようだ。
未来にタイムスリップという衝撃的体験をした次の日、ジーンに貸してもらった服に身を包んだ俺は、ガガガガガッと奇妙な音をだす目の前の洗濯機を途方に暮れながら見ていた。
電源をつけてスタートボタンを押すだけなんだから間違ってないと思うのだけれど、どうも様子がおかしい。
21世紀にはすでに無音洗濯機が発売されてるんだから、こんな騒音をだす洗濯機が今の時代あるわけがない。
かといってどうにも出来ないので俺は腕を組んで黙って洗濯機を見ている。
働かざる者食うべからず。
クロエは有言実行主義らしく、俺に家事を任せジーンと共に朝早く出かけてしまった。
とりあえずたまっていた洗濯物を片付けようと、こうしてるわけだか…。
ガガガガガガガガッ
この音、おかしいよな?
んー…何とかしたいけど不用意にボタンを押して爆発でもしたら恐いしなぁ。
どうしよっかなーと首を傾けたら痛みを感じた。
困った事に俺は今、全身筋肉痛。
理由はソファに立てかけてある黒いハンモックだ。
「最初は慣れないだろうけど、リーヤのベッドがないから夜はこれで我慢してね」と昨夜ジーンが俺のために持ってきてくれたのだ。
ご丁寧に吊るし方まで教えてくれて、俺は初めてのハンモックにドキドキしながら昨晩はこのリビングで眠らせてもらった。
そして、この筋肉痛。
でもせっかくジーンが俺のために用意してくれたのだから、慣れるまでガマンガマン。
怪しげな音をだす洗濯機の前でストレッチをする俺のもとに、救世主がやってきた。
「リーヤ、おはよーデス!」
助かった!!
オトナの女性なゼゼは今日もキレイで今日もミニスカだった。
彼女はカギ(多分この家の)をブンブン振り回しながら、前屈をしていた俺に笑顔で近づいてくる。
だがおかしな音と共に小刻みに揺れる洗濯機を見て顔をしかめた。
「おはようゼゼ」
「…リーヤ、それ、どしたデスか?」
中に化け物でも閉じ込めてるかのように揺れる洗濯機を指差して、ゼゼは俺に尋ねる。本音を言えば今すぐ泣きついて何とかしてもらいたいところだが、こんな美女の手前、男のプライドが許さない。
「んー洗濯しようと思ったんだけど、この洗濯機、全然回ってくれなくて」
俺の言葉にゼゼは口をひきつらせた。
「リーヤ…コレは洗濯機ジャなくて、食器洗い機デス…」
「嘘っ!?」
ゼゼは控え目に頷く。
うわーこれってかなり恥ずかしい!
俺は顔がみるみる赤く染まるのがわかった。
「ホントに!? だってデカくない?」
「普通デスよー」
普通か!? この大きさ、ガキなら入れんじゃねえの?
「そっかぁ…確かに台所の横に洗濯機があるのはおかしいよなぁ…」
もっと早く気づけよ、俺。
「リーヤ、もしカして、洗濯したコトないデスか…?」
ゼゼは洗濯機、もとい食器洗い機の停止ボタンを押し、言いにくそうに俺に尋ねた。やっとガガガッという音が止まる。
「恥ずかしながら…したことないです。…ごめんなさい」
素直に白状する俺にゼゼは少しびっくりしていた。無理もない。
「リーヤ」
「ぅあ、ハイ」
威圧感のあるゼゼの声にどもってしまう。彼女の翡翠の瞳がキラッと光った。
「洗濯のシカタ、ゼゼが教えてあげマス」
「よっ…よろしくお願いします……」
彼女の有無を言わさぬその笑顔に、俺はついつい頭を下げてしまった。
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