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先憂後楽ブルース
両手に花


「フランカ様がなぜこちらにいらしているのです? ワイク様、見合い相手はレイチェル・D・ブルー様だと聞いておりますが」

フランカという名らしい美女を知っているかのような口振りで、ダーリンさんが皆の疑問を口にした。特使のアリソン・ワイクはまことに遺憾ですと言わんばかりの険しい表情になった。

「色々と込み入った事情がありまして…。フランカ様の隣にいらっしゃる方が、書状を送らせていただいたレイチェル様でございます」

驚いた俺はもう少しで声をあげてしまうところだった。ずっと秘書かと思っていたの人物が例のレイチェル様だったからだ。

「レイチェル・D・ブルーと申します。今回の縁談のお話、まことに光栄に思います」

レイチェル様は頼りない口調でそう言うと小さく頭を下げた。彼女はけして不美人ではないが、どこか地味な印象をうける女性だった。隣に物凄い比較対象がいるのだから無理もないのだが。

「ダヴィットの婚約相手が2人? これはどういうことなの?」

ダヴィットの母である王妃様がひどく取り乱した様子で、陛下にすがりついている。俺もいったい何がどうなってるんだと首を傾げていると、眩しい笑顔を見せていたフランカ様が軽やかに一歩踏み出した。

「私のせいなのです、王妃様」

「貴女の?」

フランカ様は期待を裏切らない美しい声でそう言った。彼女の非の打ち所のない顔が悲しそうに歪む。

「とりあえず、一端お座りくださいな」

王妃様の言葉にフランカ様達が席につく。俺は椅子が多めにあって良かったな、などとズレたことを考えていた。

「実は私、ダヴィット様をお写真で拝見し、一目で心奪われてしまったのです」

「はい?」

ダヴィットのお母さんは驚愕のあまり不自然に手をあげたまま固まった。俺を含む日本側のテーブルについていた人間全員が、またしてもアホみたいに口を開けて硬直している。

「他人の婚約に割り込むなど無礼極まりないと重々承知しております。しかし私はどうしてもこの気持ちを抑えることはできません。どうか私にもチャンスをいただけませんでしょうか?」

「いや、それは…」

言いよどむ陛下がダヴィットに視線を移す。絶世の美女に求婚されているというのに、ダヴィットはやや目を見開いてはいるが一応は冷静であるように見えた。

「信じられないわ。あのフランカ様が殿下に熱を上げているだなんて」

隣にいたハリエットが俺の耳元で小さく囁く。彼女もまたフランカという名の美女を知っているような口振りだった。

「フランカ様って有名な人なわけ?」

「ええ、あの方は正妻の第一子。もし性別が男だったらDBの王になっていた方だもの。でもフランカ様が有名なのは、毎年行われている美女選抜大会で9年連続優勝しているからよ」

「え…ってことは、DBで一番の美女!?」

「いいえ、あれは開催国も年ごとに違うし、世界各国から代表者が選出されるから…」

「じゃあ、まさか世界一!?」

「何を基準にして決めてるんだって感じだけど、そういうことになるわね」

「嘘だろ…」

世界一の美女、しかも9年連続と聞き俺はもう一度彼女の均整の取れた顔を食い入るように見つめた。欠点など見当たらない、誰もが納得の美しさだ。

「でもあまり色恋に興味がないみたいで、どんな美しい男達の求婚も拒絶し、24歳の今も独身を貫いてきた方でもあるの。それがいきなり殿下に一目惚れだなんて。にわかには信じがたいわね」

「……ダヴィットがうらやましい」

「はあ? カキノーチ、あなた何暢気なことを。他人事じゃないのよ?」

「わ、わかってるよ。ごめんってば」

今までどんなタイプの男にも見向きをしなかった世界一の美女に一目惚れされるなんて、どんな気分なんだろう。しかし俺のドキドキとは裏腹に当の本人は少しも嬉しそうじゃない。俺にとっては羨ましい出来事でもダヴィットにはピンチでしかないようだ。美女に好かれても嬉しくないなんて、美男子の特権か。いや、結婚までいくと確かに嬉しいばかりではすまされないが。

「DBの方はそれでよいのか?」

陛下が困ったように特使のアリソン・ワイクに訊ねる。しかし答えたのは彼ではなくフランカ様だった。

「私達のどちらがダヴィット様の妻になろうと、こちらとしては問題ありません。そうよね、アリソン」

「はっ、まあそれはそうでございますが…」

アリソン・ワイクの表情からはこの事態をよく思っていないのがありありと見てとれた。フランカ様は相当力のあるお姫様らしい。

「ダヴィット様にはじっくり時間をかけて、私とレイチェルのどちらと結婚するか決めていただくというのはいかがですか? ねぇレイチェル、あなたもそれでかまわないでしょう?」

「…フランカお姉様がそう言うなら、私は従います」

有無を言わさぬ口調でレイチェル様の了解を得ると、フランカ様は満足げに微笑んだ。まるでダヴィットに選ばれるのは自分だという絶対的な自信があるかのような振る舞いだった。

「たっぷり時間はありますもの。よーく考えて、どちらを妻に所望なさるかお決めになってくださいね。ダヴィット殿下」


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