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先憂後楽ブルース
好きな人ができたら


ジーンが合コンに行くと知って地味にショックを受けていた俺は、しばらくの間椅子にもたれかかってうなだれていた。何も考えたくなくて思考を放棄していた俺のもとに、遠くから軽快なヒール音を響かせながらにやけ顔のハリエットが姿を現した。

「見てたわよ〜、カキノーチ」

「えっ、見てたって何が…?」

俺のことを隠れて見ていたって意味なのか。純粋に謎だ。怪しいハリエットの行動に驚く間もなく、ぐっと顔を近づけられる。彼女はなぜか楽しくて楽しくて仕方がないといった表情をしていた。

「彼でしょう、カキノーチの好きな人って」

「…え!? なんで!?」

「見てたらわかるわ。カキノーチってわかりやすいもん」

一瞬でハリエットに見抜かれ呆然する俺。確か前にジーンにも同じようなことを言われたような気がするが、俺ってそんなにわかりやすいのだろうか。

「まさかクロエのお兄さんがあんな可愛い系だったとはねー。私、彼とあまり話したことないのだけれど、あんな性格だった? もっとすました感じじゃなかった?」

言いたいこと言い放題のハリエットをじとっと睨み付けながらも、俺は何も言い返さなかった。自分から恋の相談をしていたとはいえ相手がジーンだとバレたのが恥ずかしかったのだ。

「で、カキノーチはいつ彼に告白するのかしら」

「えっ、だからしないってば」

「あら、どうして? フラれるのが怖いから?」

「はっきり言うなって…。まあ平たく言えばそうなんだけど。俺は男で、ジーンは女の子が好きだから、最初から無理なんだよ」

「えー、そーお? なんかしつこく迫ったらオッケーしてくれそうな感じじゃない?」

「……」

俺の暗い口調とは打って変わって、あっけらかんとした顔でズバズバと進言してくるハリエット。俺のことを考えてくれているのか、はたまた何も考えていないのか。どちらにしてもろくなことにならなさそうだ。

「俺が告白したらジーンが困る」

「困らせるくらいなら何も言わない方がいいっていうの?」

「俺はそう思ってる。多分ジーンも」

「?」

ジーンと俺では立場的にかなり状況が違うが、告白してもほとんど可能性がないという点では同じだ。言っちゃいけない、言えば二度と関係を元には戻せない。これからもジーンとは親しくしていたいと思ってる俺にとっては、自分の気持ちが冷めるのを待つのが一番いい方法だった。

「じゃあカキノーチ、もしあなたが女だったらジーンに告白したってこと?」

「……」

本来ならばここで即答できなければおかしい話だが、なぜか俺は考え込んでしまった。自分が女だったらなどという仮定の話は想像しにくいが、結局は今と同じ道を選んでいたのではないか。…だとすれば、今の俺はいったい何が問題なのだろう。

「…つか、ハリエットはどうしてここにいるわけ。何か俺に用事?」

「ああ、そうだった! 今ここにグッド・ジュニアが来てるの。わざわざおしえにきてあげた私に感謝するべきね」

「フィースが? …てか、それをどうして俺におしえにきたんだよ…」

話題を変えたくて訊いた質問だったが、返ってきたのは予想外の答えだった。確かにフィースには会いたいが、ハリエットがそんなところにまで気を利かせるとは思えない。

「だってカキノーチ、グッド・ジュニアと付き合ってるんでしょう。好きな人ができたから別れてくださいって言うのかと思って」

「え!? それ言わなきゃ駄目!? つーか付き合ってないし!」

「そうだっけ?」

そんなことを考えもしなかった俺は、思わず声を張り上げて否定する。俺とフィースは付き合ってないと思うのだが、実際のところどうなのだろう。フィースは俺と付き合ってると思ってる…よな、やっぱり。

「いや、フィースに言ってくるよ俺。おしえてくれてありがとう」

「どういたしまして。グッド・ジュニアは5階の1番手前にある客室にいるから、すぐに行った方がいいわよ」

「わかった」

「じゃ、私はこれで」

「えっ、一緒に来ないの?」

「私も毎日暇なわけじゃないもの」

別に一緒に来て欲しかったわけじゃないが、大抵くっついてくるので今日もてっきりそうだと思っていた。暇じゃないって、これから何か用事でもあるのだろうか。

「元彼との関係をさっさと清算して、愛しの彼と上手くいくといいわね。特に協力はしないけど、応援してるわ」

にっこりと笑うハリエットは妙に含みのある言葉を残し、上機嫌でその場を立ち去っていく。俺の不幸を喜んでいるような気がしないでもないが、俺が彼女にしたことを考えれば当然なのかもしれない。俺は小さくため息をつくと、5階の客間へ向かった。














エレベーターにのって、フィースがいるという部屋まで特に迷うことなくすぐに到着した。そういえばフィースがどうしてタワーに来ているのかを聞きそびれたなぁと思いつつ、ドアを緊張気味にノックしようとしたそのとき、

「待て」

背後から、どこかで耳にしたような冷たい声に呼び止められた。


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