先憂後楽ブルース
居候角な座敷を丸く掃き
クロエは腕を組み、仁王立ちになってふんぞり返っている。
「ここでは俺がリーダーだ! 俺の意見を聞け! いくら兄貴だって勝手なことばっか言わせねぇからな!」
いくつか気になる単語を含みながらクロエは荒々しく怒鳴った。俺は心臓が少しドキドキしたがジーンは慣れているようで呆れたようにため息をつく。
「いい加減にしなよ、リーヤはお前のせいで怪我したんだよ」
「なっ……別に俺は…」
あんなに威勢の良かったクロエの体が少し縮んだ気がした。
ジーンは腰に手を当ててすっかりお怒りモードだ。
「ゼゼの時だって別に支障なかっただろう? 何でお前はそんなに頑なに拒むんだ」
視線を泳がせて口ごもるクロエ。どうやら彼は俺を住まわせたくないのもあるが、それ以上に兄に主導権を握られるのが嫌なようだ。
「…兄貴の独断で決めることじゃないだろ。俺達はチームなんだから、チーム全員の意見を訊かなきゃな」
チーム?
家族のことかな?
ジーンは小さくため息をついて手を下におろした 。
「確かに、それもそうだね」
あれ? 納得しちゃうの?
満足そうににやけるクロエに背を向けて、ジーンは俺を申し訳なさそうに見た。
「ごめんねリーヤ。リーヤがここに住むってことは否応なく僕達のチームに干渉するってことだから、みんなに訊いてみなきゃ」
チーム?
頭が疑問符いっぱいの俺。
どういうことなのかと尋ねようと口を開いた瞬間、ドタドタと激しい足音と共に、ドアが乱暴に開かれた。
「ちょっとクロエ! アンタどういうつもり!?」
いきなりの訪問者は全員で3人だった。
先頭にいた赤い髪の女の子が部屋に入るなりクロエの胸ぐらを掴みあげる。
「レジの途中で勝手にいなくなるなんて! リーダーとしての自覚が足りないんじゃないの!?」
女の子はダルそうなクロエを無遠慮に揺さぶっている。
俺はその様子を唖然としながら見ていた。
入ってきた後の2人といえば、スタイルのいい美人なお姉さんの方はどうしようかとオロオロするばかりで、もう1人の日本人らしき少年は興味なさそうに壁に寄りかかっている。
「調子に乗るのもたいがいにしなさいよ! だいたいアンタはいっつもそ……」
クロエを散々振り回していた女の子は俺の姿を見てその手を止めた。それと同時にクロエがソファに頭から倒れ込む。
「…アンタ、誰?」
ヤバいこっちに矛先が。
「この子はリーヤ・垣ノ内。いやぁ丁度いいタイミングで来たね!」
呆然とする俺の代わりにジーンが答えてくれた。
「で、そのリーヤさんが何の用」
「ちょうど今みんなに訊こうと思ってたんだよ。リーヤをね、ここに同居させようと思うんだけど」
「はぁ!?」
多分この3人がジーンの言っていた『チーム』の人達なんだろう。幸い叫んだのはクロエの胸ぐら掴んだ気の強い女の子だけだった。
美人のお姉さんは口に手をあてて目を丸くさせ、日本人らしき少年は眉を一瞬ピクリと動かしただけ。
ここを追い出されたら行く所がない。俺は思い切って頭を勢いよく下げた。
「みなさん、お願いします! 俺をここに居候させて下さい!」
俺の声が室内に響き、長い沈黙が続く。
「って訳なんだけど、みんな、どう思う?」
おそるおそる俺が顔をあげるとジーンが皆に訊いてくれた。
あぁやっぱりいい人。
だが、
「どう思うってジーン…そんなのダメに決まってんでしょ」
やっ……やっぱり?
「これで反対に1票、…いや俺も入れるから2票だな」
復活したらしいクロエは憎たらしい笑みを浮かべる。ってかコイツらは一体どういう関係なんだ。
「みんなちゃんと考えてよ、リーヤを路頭に迷わせるつもり? 僕は賛成! ねぇ、ゼゼ」
ジーンにゼゼと呼ばれた褐色の肌の美女は力強く頷く。
「ジーン、優しいデス。ゼゼも、賛成」
ありがとう美人さん!!
初めて聴いた彼女の声はすごく澄んでいて、まるで妖精の歌声みたいだった。
親切なゼゼに感謝しながら見とれていると、クロエが不機嫌な声を出した。
「これで2対2……おい、お前はどうなんだ」
クロエの視線の先には壁によりかかり興味なさそうに俺達を眺める男の子。彼の真っ黒な髪からもわかるようにこの部屋で唯一の俺以外の日本人だ。
ったくここは日本なのに何で日本人がこの子だけなんだ? 多分俺より年下だと思うけど…なんていうか…目に生気がないっていうか…。とりあえず俺を見る彼の瞳は死んだように虚ろになっている。
「いいんじゃない」
……え?
今なんて?
「やったぁリーヤ! エクトルがいいって!!」
俺が理解する前にジーンが俺の手を握ってブンブン振る。
「じゃあ…俺ここに住んでいいの?」
「当然!」
良かった良かった〜と俺以上に喜ぶジーン。はぁ!? と口を大きく開ける凶暴少女。ジーンの後ろで小さく拍手するゼゼを見て、俺はなんだか一気に力が抜けた。
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