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先憂後楽ブルース
再会はいつも突然に


結局、我が子愛なタビサさんはレジスタンスにはついてくることができなかった。車が定員オーバーだとクロエに一蹴され、エクトルとジーンがそれに思い切り同意したものだから、いくら母親でも大人しく引き下がるしかない。
俺が留守番をしていればタビサさんの分も乗車スペースがあったのだが、あの3人に頼むから来てくれと半ば脅しのようにお願いされ、俺は抵抗しながらも結局レジに連れて行かれることとなった。





「あああ、もう帰りたい…」

びゅんびゅん飛ぶジーンのワゴン車の中、俺は手すりに捕まりながらへたり込んでいた。横ではゼゼがどデカい大砲を磨いている。ハンドルを握るジーンはバックミラー越しにちらりと俺の様子を見てから、明るく笑った。

「大丈夫だよリーヤ。前みたいな危険なレジの方が珍しいんだから」

「そうだとしてもさぁ」

ジーンが車を運転(操縦?)しながら優しい声で励ましてくる。ついさっきまでへなへなジーンだったくせに、あっという間に頼りがいのある兄貴に大変身だ。助手席に座っているエクトルは自らも強制的に連れてこられたためか、嘆く俺を見てやれやれといった顔をしていた。

「つーか、なんか前よりスピード速くなってない? 俺の勘違い?」

「いや、速いよー。遅刻気味だからね」

「ジーンとリーヤがタラタラしてたおかげでな」

レジに無理やり参加させられたエクトルは俺達への嫌味もわすれない。相当機嫌が悪いようだ。

「でも、こんなスピードあげてたら対向車にぶつかっちゃうじゃん。危険だって」

「制限速度はギリギリ守ってるし飛ぶ方角によって高度が違うから、その点は大丈夫」

「そうだとしてもさぁ…」

「リーヤ、大丈夫デスか?」

ゼゼが弱音を吐く俺の肩を優しくなでる。気持ちは嬉しいが、それでもやはり動機はおさまらない。

「酔っちゃったんなら、外の景色を見るといいデスよ」

「いや、別にそういうわけじゃ…」

「ほら、山がキレーにみえマース」

「……山?」

ゼゼが指差したフロントガラスを覗き込むと、確かに遠ーくにだが山が見える。この大地にはあまり植物がないようにみえたのだが、遠目からもわかるほどその山は見事に紅葉していた。

「気づかなかった…」

「それは元々小さな丘だったのを、人がちょっと手を加えた人工的な山だよ。別名、保護植物園」

俺達の会話を聞いていたらしいジーンが豆知識を披露してくれた。しかしあの立派な木々が人工物だったとは。確かに不毛の土地に不似合いなほど生い茂ってはいる。

「へー、ジーン詳しいな。人工ってどれくらい人工なんだろ」

「中学生の時あそこに校外学習に行ったんだ。途中で熊が出て、結局登れなかったんだけど」

その時のことを思い出しているのか、ジーンは顔を強ばらせていた。
それにしても熊とは。これと似たような話を、確か以前どこかで聞いたような気が…。

「もうすぐ着くよ。ほら、タワーが近い」

その言葉につられて前方に目を向けると、ジーンの言うとおり俺のよく知るレッドタワーが間近に見えていた。しかし、俺ときたら王家の皆さんにあれだけお世話になっておきながらレジスタンスに参加ってどうなんだ。いや、これが国に認められているってことはわかっているのだが。

『おい兄貴! 聞いてねーぞこんなん!』

突然、スピーカーからクロエの怒鳴り声が聞こえ、俺達はいっせいに耳を塞いだ。

「クロエ〜、いきなり大きな声出したらビックリするだろ〜。次やったらバッチンだよ」

ジーンがいやに気の抜けた声でクロエをたしなめる。けれどもちろんクロエはそんなこと聞いちゃいなかった。

『んなこと言ってる場合じゃねえ! アイツが…何でアイツが来てんだよ!』

「えっ、タビサさん来ちゃったの!?」

『ちげえよ馬鹿! 後ろを見ろ!』

「見ろって言われても…。リーヤ、ゼゼ、なんか見える?」

生憎だが、車に積まれた妙な武器のせいで後ろがよく見えない。俺はジーンにサンルーフを開けてもらえるよう頼み、おそるおそる顔を出した。

「う、わあ…!」

見上げる俺の視界にどでかい船の先端が見える。緊迫感のあるBGMが耳に流れてきそうな迫力で、俺達の方へとゆっくり飛んできた。帆にはグロいサメの絵が描かれている。この空飛ぶ船には見覚えがあるぞ。

ジーンが木の上に車を停車させようとしていたその時、壮大なスケールの船の舳先からよく知る人物がひょっこり顔を出した。


「リーヤ! 久しぶりー!」

「フィース!」

どうしと彼が? と一瞬驚いてしまったが、そもそもフィースはレジスタンス暫定1位のクロエのライバルなわけで。ここにいるのは何ら不思議ではない。なぜかクロエはびっくりしていたようだが、予定外の参加なのだろうか。

「ああ、ここで会えて良かった。愛してるぞ、リーヤ」

「俺も愛して……じゃなくて! フィースは何でレジに来てるの?」

「リーヤに会うためだよ」

「えっ…」

「嘘つけ!」

ときめいたのもつかの間、バチコーンと背中を叩かれるフィース。モテモテ強面船長に狼藉を働いたのは、見覚えのある栗色の髪をした小さな男の子だった。

「またそうやって誰かを誑かそうとする! 俺達がレジに参加したのは、補強作業を終えた船を問題がないか確認飛行させていた“ついで”でしょう!」

「嘘じゃねえよ。俺がレジに参加しようって言ったのは、殿下からリーヤがジーンちに来てるって聞いて、もしかしたら会えるかなーって思ったからだし」

「リーヤさんだけじゃないでしょーが!」

「あー、あとレジに参加してるのは…チーム・ハニーベアのフィオナと、チーム・ピンクキャットのケイトと…」

「全員言わなくていいです!」

俺を取り残して舳先でフィースと言い争っているのは船員のノイだ。彼とフィースの関係は相変わらずらしい。きっと色々大変なんだろうな。

「お久しぶりです、リーヤさん!」

フィースとの口喧嘩が終わったのかノイが俺に挨拶してくれた。同学年である彼には失礼かもしれないが、なんとも可愛らしい。

「久しぶりー! ノイ元気だった?」

「はい! リーヤさんもお元気そうで」

それにしても、フィースはここからバッチリ上半身が見えているにも関わらずノイは顔しか確認できない。身長差も相変わらずだ。

「やだっ、やっぱりフィースじゃなーい! ラブ!」

キックボードに乗ったイルがフィースに気づき、笑顔で思いっきり手を振っている。それをきっかけとして他のチームの女性達(中には男性もいた)も次々フィースに愛を叫び始めた。彼は律儀にも全員の名前を呼び返し答えている。モテる男は大変だ。

「…浮気者めー」

恋人全員に博愛主義の精神を持つ船長さんは、もう俺を見ていない。腹いせに冗談半分でフィースを罵った俺は、ノイに手を振ってから車の中へ戻っていった。


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あきゅろす。
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