先憂後楽ブルース
2422
日差しをさえぎるカーテンがかかった窓の横。
適当にぶら下げてある日めくりカレンダー。
そこに書かれている日付。
5月26日。
これはいい。
火曜日。
これも別に。
仏滅。
もちろんまったく問題ない。
問題があったのは、もっと上。
日にちの上に赤色で大きめにかかれた西暦。
何度、何度見ようとも、いくら目をこすっても、そこにかかれていたのは。
西暦 2422年
2422年!?!?
いやそんなまさか、落ち着け俺。タイムスリップなんかするわけないだろ!?
これは多分ミスプリントだ。そうなんだ、きっと。
「おい、どうした?」
硬直したかと思えばいきなりカレンダーをめくり始める俺を窺いながら、クロエが遠慮がちに訊いてきた。もちろんそんなことに反応してる場合じゃない。…いや待て、ここは確認のためにも訊いておくことが俺にはあるはずだ。
「ちなみに今日の日付は?」
「ひ、日付?」
散々取り乱していた男にいきなり冷静に日にちを訊かれ、クロエは素っ頓狂な声をあげた。俺に何を言われるのかとドキドキしていた反動で、顔をどう動かしていいかわからないようだ。だがそんなクロエとは対照的に兄の方はにっこり笑って答えてくれた。
「5月26日の火曜日だよ」
金髪お兄さんは顔を傾ける。
「西暦から、お願いします!」
そんなお兄さんの可愛い仕草をあっさり無視して言い直しを求める俺。お兄さんは嫌な顔一つせず笑って日付を繰り返してくれた。
いい人だ。
「西暦2422年、5月26日、火曜日、仏滅」
これでいい? と人優しいお兄さんは首を先ほどとは逆方向にちょっとだけ傾ける。
丁寧な説明ありがとうございます仏滅まで知ってるなんてすごいですね、なんて言ってる場合じゃなかった。
2422!?
これが400年後の未来だってのか?
うっそマジかよ。
そんな映画じゃあるまいし。
ドッキリですか? という意味をこめて俺は金髪お兄さんに向かって首を傾ける。
どう見ても人は騙せないだろってカンジの善人面してる金髪お兄さんは、首を傾げ顎を突き出す俺を見て、また微笑んだ。つられて俺も微笑んだ。
笑顔で見つめ合う俺達を、クロエが一歩引いた所で口元をひきつらせながら交互に凝視している。
どっかのテレビ番組の企画じゃない。
ドッキリじゃない。
だってドッキリならマンションから落ちたりするもんか。
ということは……、
俺がタイムスリップしたってことなのか!?
いや、黄泉の国という可能性がない訳じゃないが、そんな可能性認めてたまるか。
そうだ……だったら今までのことも説明がつく。いや、かなり意味不明なことばっか起こってたけど。
俺は、間違いなく、400年後の未来にいる。
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