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先憂後楽ブルース
夢うつつ


俺が目を開けて最初に見たのは、黒く大きいシミだった。
それが天井にできた深い傷だと気づくのに数秒かかった。


最初はここは絶対病院だという確信があったのだが、どうも違うようだ。まず俺が横になっていたのはベッドではなく大きいソファーだった。いくらピンピンしてるとはいえ、患者をソファで眠らせる事はないだろう。友達の家かとも思ったが、こんな部屋見たことない。

…それにしてもすごい夢だった。空飛ぶバイクの夢、だなんて俺もまだ結構メルヘンな所あるんだな。
ちょっとショックだったのがあのクロ…なんだっけ…クロコダイルみたいな名前の奴。あんなのが俺の理想とする天使なのかよ。夢は願望、などと良く言ったもんだ。

生々しい夢、でもどこからが夢だろ。

いくら考えても埒が明かないので、ひとまず現在地の確認をしようと思い室内を物色した。


ここはどこかの家の居間のようだ。だが広いはずのリビングはありとあらゆるもので溢れかえり、あまり足の踏み場がない。
大きいキッチンの横にはこれまた大きい、普通の冷蔵庫二台分ぐらいの冷蔵庫がどんと置いてある。冷蔵庫の前にあるテーブルは食卓として活躍していないのか、雑誌やら本やら書類やら様々なモノが乱雑し、その中にパソコンが埋もれているのが見えた。
壁にはたくさん傷がついているが、ホラー的なものではなく子供が遊んでてつくっちゃった、みたいなかわいいものだ。
天井にある傷だけはホラーに感じるけど。

この部屋唯一の窓には分厚い灰色のカーテンがかけられていて、そのせいか外が明るくても電気がついている。
そして天井からつるされたテレビ。小学校の教室にあるテレビみたいだ。

ソファの前におかれた机に飲みかけのコーヒーが入ったマグカップが置いてある。どうやらここが食卓らしい。


…まさか誘拐じゃないよな?


やっべ、誘拐とかシャレになんねえ母さんに怒られる。

外国人特有のオーバーな身振り手振りで怒ってくる母親は本気で怖い。母さんは外国人じゃなくてハーフだけど、見た目も中身も完璧アメリカンだ。俺と違って。
だが怒られるだけならまだいい。
そこに弟が介入してみろ。見捨てられる可能性のほうが高くなっちまう。


心に一抹の不安を抱えながら俺は立ち上がり窓に近づいた。
カーテンを引っ張り外を見ようとしたが窓が汚れていて見にくい。窓の横には日めくりカレンダーが寂しくつるされている。

その時、男2人が言い争う声が聞こえてきて、俺の体はビクッと震えた。その声はだんだんと近づいてくる。
そしてこの部屋唯一のドアが乱暴に開いた。






「だぁーかぁーらぁー、俺は殴ってねえって! 本人に訊いて見ろよ」

「これで何回目だと思ってるのさ、クロエ。もう信じられないよ」

入ってきた男の1人を俺は知っている。
先ほど会ったばかりの、黒豹男だ。



…待て待て、さっきのは夢じゃなかったのか?

俺が唖然としていると、黒豹じゃない方のさわやかな外国人が俺に笑いかけてきた。

「目が覚めたんだね。大丈夫?」

「あ、はい」

すっげぇ、この人も黒豹と同じで日本語ペラペラ。

「あの…ここは?」

「日本だ」

愛想のかけらもない黒豹の方が答えてくれた。

「それは、わかります。もうちょい詳しく」

「日本の王都だよ」

それを言うなら首都じゃないのか? まぁ外国人だからしょうがないけど。
でも、良かった。とりあえずこれならすぐウチに帰れる。

「東京のどこですか?」

「トーキョー?」

金髪のお兄さんはキョトンとした顔でとんでもないことを言い出した。


「それ、何?」





は?





開いた口がふさがらないとはこのこと。それだけ日本語ペラペラなら東京なんて知っててもいいはずだ。
あんぐり口を開けたまま動けない俺を見てお兄さんが、まるでかよわい動物をあわれむような表情になった。

「もしかして頭を殴ったの? ウチのバカ弟」

「だから何にもやってねぇって!」

クロエの言葉を無視して、優しげな白人男性は俺が答えるのを待っている。俺はといえば、今この状況を理解するのに必死だった。
会話の内容から察するに、この人はどうやら黒豹男の兄らしい。全然似てない兄弟だ。というかまず人種が違う。



「俺はそいつをバイクの後ろに乗っけただけ! そしたらいきなり意識失って落っこちんだもん。もう少しで掴みそこねるとこだったぞ」

ほんと? とかっこいい外人さんに訊かれ、俺は素直に頷く。
黒豹男の兄は黒豹じゃなかった。金髪に青い瞳。これぞアメリカ人〜、って感じの人だ。俳優かモデルみたいで白人らしく肌真っ白。
クロエが黒豹ならお兄さんは白馬かなーと俺はぼんやり呑気に考えていた。

「ほぉら、言ったろ!」

「……君、高所恐怖症なんだね? かわいそうに」

弟を完全無視してお兄さんは勝手に自分で解決し納得してしまった。俺は別に高所恐怖症ではないんだけど…。



って違う!!
まず何でバイクが飛んでたんだよ!!
何かのアトラクションだったのか!?
こいつらはテーマパークの職員か!?
そしてなぜ東京を知らない!!


そこんとこ問い詰めようとした時、俺はとんでもないものを見つけてしまった。


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あきゅろす。
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