先憂後楽ブルース
プレイボール!
この溢れんばかりのけたたましい音。どこかで聴いた事がある。そう、これはまごうことなき警報音だ。だが俺的には…
「…甲子園?」
どうやらこの音は東京タワーからのようだ。何だ、野球でも始まるのか。
……東京タワーで?
「おぃ、つかまってろって言っただろ」
その気迫ある言い方に、俺は慌てて耳にあてていた手をクロエの腰にまわした。
一気に馬鹿でかい音が流れ込んでくる。
『皆様、お待たせ致しました』
突然球場の音が止み、完璧な発音の女の声が流れ出した。
「来るぜ」
何が? なんて、もう訊けなかった。
いっきにこの場のテンションが上がり、皆口々に喊声をあげている。
『これより、〈公正レジスタンス、午前の部〉を開催いたします。制限時間は一時間。各グループのリーダーは終了後、評盟館にて確認を行って下さい』
女の声がいきなり止まる。誰もが一言もしゃべらず、乗り物の派手なエンジン音しか聞こえなかった。
『時間です。それでは、公正レジスタンス午前の部、開始』
女の声がそう言ったかと思うと、クロエがバイクを勢い良く発進させる。
当然ながら、落ちる! と思った俺は目をつぶったが、いつまでたっても衝撃がこない。
不思議に思い恐る恐る目を開けると、
バイクが、浮いていた。
バイクが浮いてる!?!?
いや浮いてるどころか飛んでいる。黒光りした趣味の悪いバイクは、今や大空へと羽ばたいている。羽はついてないけど。
周りを見ると、車もヨットも水上スクーターも、みんな飛んでいた。
あぁ、俺はやっぱり、頭がおかしくなったんだ。
どんどん高度を上げていく空飛ぶバイクとは対照的に、俺はだんだん気が遠くなっていく。
「リーヤ! ちゃんとつかんどけって……リーヤ? おいリーヤ!!!」
その日俺は、二度意識を失った。
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