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先憂後楽ブルース
あいのり


「何だこれ……」

俺とクロエのまわりには様々な人種の人間が、東京タワーを囲むように何十人と集まっていた。そして全員がみかんの木に登って、目前にそびえる東京タワーを見上げている。

さらに奇妙なのは殆ど全員が何かしらの乗り物に乗っている、という事だ。
飛行機や車。他にもヨットや水上スクーターらしきものまで木の上に乗っている。






「いったい何なんだよ……」


「何って、レジに決まってんだろ」

クロエは当然のように意味不明な単語を口走った。


「……レジ?」

「あぁ。まさか知らない訳ねぇよな?」

レジ? レジスター? レジオネラ菌?
ヤバい。まったく意味がわからない。本当に日本語か?
ってかなんでこいつらはみんな交通機関と一緒にみかんの木に登って東京タワー見てるんだよ。何でヨットが陸に上がってんだよ。船なら海に浮かべろよ!


まさかコイツも…とクロエの後ろを覗くと、案の定、バイクがあった。木の上に。

「……何でバイクが木の上に?」

俺の当然すぎる質問に、クロエは不満げな顔になる。

「ここでレジが始まんの待ってるからに決まってんだろ。お前を運ぶ時間はないから、後ろ乗れ。もうすぐ始まる」

「何が!?」

「さっき言ったろうが」

ろくに説明もせず、クロエは俺をバイクに乗せた。あせりと混乱で汗だくな俺と違い何故か汗一つかいていないクロエは、ヘルメットもかぶらず黒光りしたバイクにまたがる。

「しっかりつかまれ、そろそろくるぞ。覚悟しとけよ」


何の覚悟!?
何が来るの!?


クロエは目に見えてうきうきしていた。辺りを見回すとクロエばかりではない。ここにいる全員が目を輝かせながら東京タワーを見上げているのだ。

何かが始まる。この人達が待ちわびていた、何かが。

俺にはそれが何かわからないし、ついでに言えばここがどこかもわからなくなっていた。

その時クロエがいきなりエンジンをかけたので、バイクに相乗りしていた俺は爆発音のような騒音に思わず耳を手で覆った。

「何だよこの音! エンジン壊れてんじゃねえの!!」

耳がいかれると思った俺はクロエへの恐怖も忘れ腹の底から怒鳴った。周りの奴らもエンジンをつけだしたこの状況では、そうでもしないとクロエには聞こえないだろうから。

「何言ってんだ。この音がいいんだろ」

俺はさらに文句を言おうとしたが、バイクのエンジン音をもしのぐ騒音に、さらにきつく耳をふさいだ。


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あきゅろす。
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