[携帯モード] [URL送信]

短編
総長は腐男子



俺、江坂紘一(エサカコウイチ)は今年で21になる健全たる大学生だ。馬鹿ばかり集まる大学に通い、その中でも特に馬鹿ばっかやってる奴らでチームを作っていたりする。
だがチームといってもそんな暴走族みたいな危ない感じじゃない。男だから売られた喧嘩は買うし、俺たちのチームで総長と呼ばれている男はいきってる新入生を片っ端からシメたりしていたが。
ちょっとばかしやんちゃなところはあるけれどクスリとかカツアゲとかはやらない主義だし、いたって健全だ、と俺は思う。

そんな俺達の総長はとにかく強い。今現在、総長に叶う男は誰1人としておらず、この辺の不良はみな総長をうちのトップとして崇め付き従っていた。けれどただ1つ、俺達がどうしても理解できない点が彼にはあった。

うちの総長は、超オープンな腐男子だったのだ。


腐男子ってなに? と普通の男子ならまず思うだろう。だが総長に感化された俺達にはそんなものは愚問でしかない。腐男子とは、男同士のラブロマンスが好きな男のことだ。

正直、何を言ってるかよくわからないとは思うが、とにかくそういうことなのだ。詳しいことは知らないけれど、そういう趣味思考の人は総長以外にもいるらしい。

別に、男同士のそういったごにょごにょした関係が好きな人間がいても俺は一向にかまわない。共感できそうにないが、まぁ関係ないし? ただそれが総長となると話は別だ。

総長もこんな下手すればドン引きされる趣味隠しておけばいいのに、俺達の前でそういう系の本を普通に読んでいたりする。一番最悪なのが、総長は酔っ払うと自制心をなくして俺達を無理やり絡ませたがることだ。もちろん拒否権はない。総長のいうことは絶対で、泥酔した彼に逆らえば死んだ方がマシだと思うような酷い目にあうからである。

ホモの真似事をさせられているときは総長だけでなく皆が酔っているので、男同士のキスを見せられても引いてしまうどころか爆笑の渦に包まれる。総長に無理やりやらされていることだというのは勿論皆が承知の上だし、それがまた笑いを誘う。まあ次の日、正気に戻って死ぬほど落ち込んだりするのだが。

けれど前回、犬猿の仲で有名な渡瀬と橋川のでろでろに甘いキスシーンを見たときは流石に笑いが止まらなかった。2人とも顔は引きつり今にも殴りかかりそうで、あんな緊迫感のあるラブシーンはもうお目にかかることはできないだろう。あー、思い出すだけで涙が出てくる。

こんな酷い目にあっても俺たちが彼についていくのは、酔っていないときの総長は曲がったことが大嫌いで、一度仲間と認めた奴は絶対に見捨てない男の中の男だからだ。そしてその反則的な強さには男なら誰でも憧れてしまう。だけど俺達がエロ本の話題で盛り上がっている時、ホモ漫画を超真剣な面で読むのは正直寒気がする。けれども断じて総長自身はホモではない。この辺を間違えるとすごく怒られる。

そんなこんなで、この総長の周りを巻き込んだ変態的な趣味は、うちのチームの避けては通れない洗礼としてそれなりに受け入れられていた。





「コーイチ! お前そんな離れたとこいねぇでこっち来いよ!」

総長の住むアパートにて、いつものごとくチームのメンバーで飲み会をしていた時の事。すっかり出来上がった総長に呼ばれた俺は思わず戦慄した。今日の生け贄は俺だ、とその瞬間確信したのだ。

というのも、総長はこれまで『びーえるは純愛だ』などと言って、俺みたいな特に女にだらしない男は指名されたことがなかった。けれど最近、女遊びの激しかった男が同性に惚れる純愛話を読んで相当気に入ったらしく、その話ばかりするようになった。そして嫌なことにその辺りから俺を見る目が少しずつ変わってきた。……ああ、恐ろしい。

「こーいちぃ、今日はお前がやれよ。なぁ? お前ハジメテだろ?」

何がですか? などととぼけてはいられない。これが今からヤローと絡めという総長の合図なのだ。来るぞ来るぞと身構えていたのに、実際にやれと言われたら怖じ気づいてしまう。すでに俺の息子は縮み上がっていた。

「相手は誰がいいかな〜〜♪」

すっかりご機嫌な総長がきょろきょろすると、今まで紘一ザマァみたいな顔して囃し立てていた連中がいっせいに顔をふせた。俺が生け贄になるのは嬉しくても巻き込まれるのは嫌らしい。俺は真剣な顔で総長の前に膝をつき、額を畳にこすりつけた。

「総長、お願いがあります」

「え、なに」

「相手は、俺が決めてもいいですか」

俺のお願いにチーム全員が固まる。こんなこと言い出した奴は今までいなかったのだから無理もない。だがこれは俺の苦肉の策だった。

「えー?! なんだよ〜、お前好きな奴でもいんの? そういうことははよ俺に言えって!」

案の定気持ち悪いくらいテンションの上がっている総長に、ドン引きの周囲。総長は日頃から、お前らの中にホモおらんの? 俺にだけ隠してない? とすごくしつこいのだ。そんなにホイホイとホモがいてたまるか、と俺達は心の中だけで突っ込んでいる。いたとしても総長にだけは死んでも言わないが。

「誰? 誰? はよ言え、俺がぜったいそいつ引きずり出してやるから」

「本当ですか…?」

「ああ、男に二言はない」

この言葉を待っていた。俺は恥じらう素振りを見せつつ、再び頭を下げた。

「俺、相手は総長がいいです! どうかお願いします!」

その時の総長の顔は見えなかったが、そろそろ頭を上げると目ん玉まん丸にして俺を凝視しているので恐らく固まっていたのだろう。そう、これが男と絡みたくない俺が練りに練った回避策だ。

総長はホモではないので、当然自分自身が男と引っ付いたことはない。そんなことすれば鳥肌たちまくりでお話にならないだろう。それが狙いだ。相手は総長がいいと何としてでも言い張る。当然総長は嫌がる。もう紘一はいらんとなれば万々歳だ。

「そ、それってお前、え、冗談だろ……?」

「冗談でこんなことできません。総長、あなたが悪いんですよ」

あっけにとられていた総長の隙をつき一瞬でマウントをとる。ようやく自分に迫った危険に気づいた彼はすぐさま抵抗してきた。

「お、おい紘一! 放せ! ……って橋川!? 渡瀬まで!」

俺の代わりに橋川達が総長の腕を押さえ付ける。実はこいつらはすでに買収済みだ。普段は総長を心の底から慕っている奴らだが、前回のアレが相当トラウマになったらしい。二度目がないとも限らないし、俺の話にすぐに乗ってくれた。

「お前ら何のつもりで……んっ」

総長の太股を膝で押さえつけたまま頭を固定。そしてそのまま舐めるように口づける。男となんて考えられない、と思っていたが総長なら顔がキレーだからか意外といける。一回こっきりのキスで諦めてくれるなら万々歳だ。

「くっそ! 許さねぇぞてめぇ!」

顔を真っ青にさせて本気で怒鳴っているが、酔いのせいかまともに抵抗できていない。やりすぎても後でぶっ飛ばされるだけなので本気で怒られたらやめようと思っていたが、さんざん人にはさせといて自分がされたらマジギレする総長にはちょっと苛ついた。だからここでやめるのはちょっと勿体ない、なんて魔が差してしまったとしても無理はないだろう。

「……ごめんなさい、総長」

総長の唇に深く口づけ、舌を差し込む。あまりの嫌悪感に総長の体が縮み上がるのがわかった。周りも密かに総長への鬱憤が溜まっていたのか止める奴はおらず、口々に囃し立てていた。

「んん、コーイチ、っ」

舌噛みちぎられるかと思ったが、さすがに仲間相手にそこまで非道なことはできないらしい。それをいいことに俺は彼の口の中で好き放題していた。素面じゃ絶対できないことだが、意外と総長の反応がいいのでこっちもノリノリだ。

ディープなキスだけでは面白くない、とシャツの中に手を入れ体をまさぐる。そのたびにビクビク震えるのがもう楽しくて仕方ない。
もうここまできたらどうせ後でボコられるの決定だし、やれるとこまでやってしまおう。

「……やっ」

「!」

テンション上がりまくった結果、総長の乳首をぎゅっとつまむと、まるで女みたいな声が飛び出してきて思わず目を見張る。まさかそんな可愛い反応されるなんて、これから総長を見る目が変わりそうだ。

「ち、違う! 今のはっ、違うから……」

男の中の男だった総長は、血の気が引いていた顔を真っ赤にさせて俺の腕の中でまるで女みたいだった。もしもっとすごいことしたら、この人はどうなるんだろう。……や、やってみたい。

総長への復讐とかはすっかり忘れて、自分の欲望だけで俺は動いていた。自分の膝で総長の一物を刺激する。総長はさらに顔を赤くして唇を噛み締めていた。

「あっ、何で……紘一っ」

か、か、可愛い…! 涙目になって震えてる総長超可愛い!
自分でもさせたことないようなことをされて、訳がわからず怯える総長に俺は自分でも信じられないくらい興奮していた。最初はノリノリだった周囲も総長のあまりの色気に若干引いている。

「おい、紘一」

渡瀬に呼び止められて、ふと我に返る。気がつくと俺は総長のジーパンを下着ごと脱がそうとしていた。

「さすがにそれはマズい」

このまま最後までやってしまおうとしていた自分に愕然とする。他の奴らも俺と同様、ノリで済ませられる範疇をとっくに越えていることにようやく気づいた。

「ん……」

渡瀬と橋川の手が離れるも、酔った総長はすっかり力が抜けているのかそのまま気を失う様に倒れた。俺は慌てて総長の下半身を整えると誤魔化すように笑った。

「悪い、ついやりすぎた」

「……こ、紘一お前冗談キツいぜ! 総長すっかりぐでんぐでんじゃねーか!」

「さっすが硬派なフリして女泣かせの紘一! テクニック半端ねぇ〜!」

総長がダウンしたのをいいことに、あくまで冗談でおさめようとする俺達。臭いものには
蓋を……もとい都合の悪い事は飲んで忘れようと、その後はとにかくなかったことにするために総長が寝ている横で無理矢理飲んで笑って盛り上がった。




朝日の眩しさで、俺はぱっちり目が覚めた。二日酔いのせいか起き上がると頭痛が酷い。周りには布団もひかず酒と一緒に転がって爆睡する仲間たちの姿があった。俺が一番最初に目が覚めたのかと辺りを見回すと、開いた窓のサッシに座って煙草を吸う総長に気づいて、寝ぼけ眼がすぐに覚醒した。

「そ、総長……っ」

「ん? 紘一起きたか」

昨日俺が彼にした事を酒の力で忘れることはできなかった。もう鮮明に覚えている。もちろんそれは総長も同じだろう。……いくら仲間に甘い総長でも、あんなの絶対に許されない。どのみちただではすまないだろうが、今のうちに謝っておこう。

「総長、昨日は……」

「あー、俺も今までだいぶ悪ノリしちまってたみてぇだな。自分がされてよーくわかった」

「えっ」

「お前も身を呈して俺を止めようとしたんだろ? 名演技だったぜ」

ふーっと外へ煙を吐くと、総長は俺を見てばつが悪そうに笑った。怒りは微塵もない。

「因果応報、ってことでお前のしたこと忘れてやる。だからお前も、俺の昨日の痴態は忘れろよ。…な?」

そう言って気恥ずかしそうに顔を背ける総長を目にして、何かが胸に深く突き刺さるような気がした。…それが恋に落ちるという事なのだと、自覚するのには数秒かかった。

「ていうか、昨日は紘一が本気で俺のこと好きなんかと思って焦ったわ。やっぱBLって、ファンタジーだから良いんだよな」

「………」

すみません。もう俺、総長のご期待に応えられそうにありません。
恋愛フィルターのかかった俺の目には、キラキラした総長の不思議そうな顔が映っていた。


おしまい
2014/3/26

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!