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短編
隣の恩人
「席替え」続編。脱・BL未満を目指したつもり。





激しい雨が窓に叩きつける2時間目。担任が職員会議とやらで授業に遅れ、珍しく自習という形になっていた我らが5年3組だが、自習などする生徒がいるはずもなくクラスは休み時間同然となっていた。もちろん隣のクラスの担任も職員会議中のため怒りに来る先生もいない。完全な無法地帯となった教室で、ただ1人真面目に自習する生徒がいた。
俺だ。


「良太、ぼっくりのとこに行かないの? それ、学校の宿題じゃないよな」

「……」

俺以外にも教室のお祭り騒ぎに便乗してない男がいた。俺の隣の席に座っている港君だ。港君は何が楽しいのか、もくもくと勉強する俺にさっきからずっと話しかけてくる。

「塾の宿題。これ終わらさないと新しく買ったゲームさせてくれないから、今やる」

「へー、大変だね」

教室のど真ん中で騒ぐぼっくりやミヤケン達から目をそらし、俺は目の前の問題に集中する。雑音は完全にシャットダウンしているつもりでも、俺はついつい港君の言葉に反応してしまっていた。というか港君も誰かと話してくればいいのに。このままここにいられるとそのうち港君目当ての女子が集まってきてしまうじゃないか。

「あれ、良太それシャーペンじゃん。鉛筆どうしたの?」

港君が俺の手元を見ながら首を傾げている。うるさいからちょっと黙ってろよとは言わせない何かを持っている港君に、俺は問題を解き続けながら丁寧に答えた。

「塾ではいつもこれ使ってるから、先生がいないときぐらいいいだろ。俺、今日中に宿題終わらせときたいし…あっ」

半端ない量の宿題を出され少々イライラしながらシャーペンを動かしていた俺に、ちょっとしたハプニングが起こった。筆圧に負け、無残に折れたシャーペンの芯が、そのまま俺の口の中に飛び込んできたのだ。

「うっ…」

「どうしたの? 良太」

口元を押さえる俺を心配して港君が肩に手を添えてくる。けれど今の俺はそんなことを気にしている場合ではない。

「し、芯が…」

「まさか、口の中に入った?」

察しが良い港君に感謝しつつ、首を縦に小さく振る。そんな俺を見て港君はまるで自分のことのように慌てだした。

「マズいって良太、ぜったい飲みこむなよ。キカンに刺さったら終わりだぞ!」

シャー芯って気管に刺さるの? というまっとうな疑問が湧いてくるが、もし港君の言うとおりなら大変だ。衝撃の事実に焦った俺は口の中に手を突っ込んで芯を取ろうとするが、小さすぎてうまくつまむことができない。

「待って良太、こっち向いて」

「へ」

いきなり港君にあごを掴まれ半ば無理やり顔の向きを変えられる。ぐっと上に持ち上げられたかと思った瞬間、口の中をまじまじと見ていた港君がいきなり手を突っ込んできた。

「! ひ、あ」

「動かないで」

「あ、あ…あっ」

口の中に指を入れられ驚いた俺はすぐに身を引こうとしたが、もう片方の手であごを掴まれているため身動きがとれない。
ああ、神様どうかこんな俺の姿を誰も見ていませんように。緊急事態とはいえ友達に口の中へ手を入れられるなんて恥ずかしすぎる。ぼっくりや女子達に見られるぐらいなら、むしろ芯が刺さった方がマシかもしれない。

「はい、とれたよ」

「げほっ…」

「良かったな、良太。もうちょっとで死ぬとこだった」

その前に恥ずかしさで死にそうだったとか色々文句はあったが、安心したようにほっと息をつく港君を見てると何も言えなくなる。俺は港君におずおずと自分のテッシュを差し出しながら、これからは絶対ちゃんと鉛筆を使うようにしようと誓った。

おしまい
2011/3/23

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