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騒擾恋愛
水島の日記



○月○日
俺は初めて千石伊織に会った時から、ずっと奴のことを考えていた。あの男に抱く感情が憎しみなのか尊敬なのか、それすらもわからないままで、ただあの男を手に入れたい。その衝動だけであらゆるものを壊していった。

だからこそ高校でようやく千石伊織に近づけたとき、いつも奴の側にいる沢木という野郎が邪魔で邪魔で仕方なかった。あいつがいる限り、あの男が考えるのはあいつのことで、俺なんて眼中にない。俺はこんなに四六時中、奴のことを考えてるのにそんなのは不公平だ。沢木なんて、ただたまたま近くにいて、都合のいい言葉を並べたててあの男を飼い慣らしているだけなのに。今もさも当然のように並んで一緒に笑ってる。
…そんなのは許せない。俺の方が沢木の何倍も何倍も、あの男を求めていたはずなのだから。

あいつらの関係を壊してやる。そう思い立った日から俺は計画をたてるのと同時に、その日のことをここに書き留めることにした。最後まで理性的でいるための保険だ。最後にはきっと、俺が千石伊織をどう扱うべきなのか、答えも出るだろう。




○月○日
沢木ごときにそんなことができるなら、俺だってしてもいいはずだ。奴に抱かれている千石伊織を見た時、確かにそう思った。
自分の感情をストレートに表すことができて、こんなにも開放的な気分になれるとは。俺から兄貴を奪った、消し去ってくれたアイツに抱いたものは、感謝でも憤りでもなかった。男同士だから気持ち悪いとも思わなかった。あり得ない奴の姿に少なからずショックを受けたものの、それをみて欲情した自分を納得させるのは少し時間が必要だった。しかし千石伊織より優位に立つための方法としては、これ以上のものはないだろう。
ただ、アイツがあんな何でもない男にいい様にされているのだけは我慢ならない。なんとか沢木から引き剥がさなければ。本来の千石伊織は、あんな野郎に組み敷かれるなるような人ではないのだから。たった2年たらずでアイツは大きく変わってしまった。何年かけてでも、俺が必ずもとに戻してみせる。



○月○日
結果的に、沢木と千石を別れさせることは、あっけないほど簡単だった。沢木には世間の目に耐える勇気も、あの人と共に後ろ指をさされる覚悟もなかったのだから当然だ。
沢木に見捨てられたあの人は、すぐに元の人格に戻ってくれた。強くてたくましい、男の中の男。これでもう大丈夫、沢木に邪魔される心配もない。これからずっと彼の側にい続けるのは俺だ。



○月○日
あれからしばらくたったが、千石さんの中から沢木はいつまでたっても消えず、あまつさえ気持ちが残っているかもしれないなどと言い出した。そんなことはもちろん許せない。あの男と一緒にいたって千石さんが傷つくだけなのに。なぜこの人はそんなこともわからないのか。
わからないなら、わからせてやる。沢木という人間がどんなものか。そして、二度と奴のことが好きだなどと口が裂けても言えないように。今度は心も身体も俺が深く傷つけてやる。




○月○日

結果は、俺の大敗だった。

こればかりは認めざるをえない。千石さんの心にも身体にも、俺は傷一つつけることはできなかった。沢木も千石さんも、ちっとも俺の思い通りには動いてくれない。
それでも、二人を無理やり引き離す方法はあった。でも俺はそれができなかった。なぜなら、そうすれば千石さんが二度と俺を許してくれないことがわかっていたからだ。

俺は千石さんが好きだった。あの瞬間、ようやく気づいた。恋とか愛とか、そんな陳腐な言葉で表現するのも嫌になる程に、あの人が欲しかった。それでも千石さんは沢木を選んだ。あの人はちゃんとわかっていたのだ。沢木の不安も弱い心も、すべてわかった上で一緒にいようとした。
自分の感情が、偶然の産物でできたものだということもしっかりと理解している。にも関わらず、わざわざ苦しい思いをしてまで沢木と付き合おうとしている。
そこに俺の割り込む余地はなかった。


 追記

俺の計画は全て失敗した。ここにこうして書くことももうない。でもきっと、沢木は何度だって不安になるだろう。そしてそのたびにあいつは千石さんを突き放し傷つけるのだ。あの二人の関係にはきっと、絶対にまた深いヒビが入る。だからそれまで、俺はひたすらただの失恋した後輩に徹することにした。付かず離れず、これからも千石さんとは一定の距離を保ち続ける。
いつか傷ついた千石さんを慰め、付け入るのは俺の役目なのだから。



おしまい
2016/12/20

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