騒擾恋愛
何度だって
次の日、学校を休んでやろうかというぐらい落ち込んでいた俺だが、母親がそれを許してくれるはずもなくテンションの低いまま学校に来ていた。荷物と携帯を水島に返してもらわなければならなかったことを思いだし、俺は門をくぐってから直接1年の教室までやってきた。
「え、水島君ですか……?」
その辺にいた奴のクラスメートに水島のことをきくと困った顔をされた。最初は俺が怖いのかと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
「水島君ならさっきまでいたんですけど、出ていきました」
「どこにいったかわかるか?」
「…いいえ。でも、いつも一緒の友達を全員引き連れてました。なんか、怒ってるみたいで……」
「怒ってる?」
そうか、何かおかしいと思ったらいつもひっついてくる不良どもがここにいないのだ。嫌な予感がした。
「沢木…っ」
まさか水島の奴、沢木に何かするつもりじゃないだろうな。そんな風に一度思い込んでしまったら、もうそうとしか考えられない。
水島が不良を引き連れていく場所なんて限られている。俺は1年の教室を出ると全速力で廊下を駆け抜けた。
まず沢木が学校に来ているか確かめようと、俺は下駄箱までやってきた。登校時間のピークなのか入り口はたったいま学校に到着した生徒達でごった返している。人混みの中をぬって、俺は沢木の靴箱を開けた。
「……ない」
中に沢木の下靴はなかった。まだ学校に来ていないのだろうか。だったらいいのだが。
「千石くん?」
声をかけられ振り向くと、いま登校してきたらしい百瀬が立っていた。沢木の靴箱を開けている俺を唖然と見ている。
「どうしたの? そこ、千石くんのとこじゃないよね」
「百瀬!」
「えっ」
大声で名前を呼ばれ、百瀬はビクッと身体を揺らし後退する。逃がすものかと俺は彼女の腕を掴んだ。
「沢木、見なかったか!?」
「え、さ…沢木くん? 沢木くんなら今、外に出てったけど」
「外!? どっち行ったかわかるか?」
「多分、右だと……」
「ありがと百瀬!」
「ま、待って!」
百瀬は外に出ようとした俺の腕を掴み、引き留めた。
「沢木君、どうかしたの? 何かあるなら先生に…」
訊ねる百瀬の顔が強ばっている。俺は彼女を落ち着かせるために頭に手をのせた。
「大丈夫だ。沢木のことは俺がなんとかする」
「でもっ」
「信じてくれ、百瀬」
「……っ」
かなり迷っていたが、戸惑いながらも百瀬はわかってくれたようだった。彼女が頷いてくれたのを確認して、俺は沢木を助けるため外へと飛び出した。
人気のない校舎裏、そこにいた沢木や水島達を見つけるのに時間はかからなかった。水島を筆頭とした不良共に囲まれた沢木を見つけ、俺は止めに入るためさらに速く走った。
「昨日言ってたもの、ちゃんと持ってきただろうな」
信じられないことに、そう挑戦的な言葉を口にしていたのは水島ではなく沢木の方だった。状況が上手く飲み込めず、気がつくと俺は足を止めて反射的に側の茂みに隠れていた。
「ああ、千石さんの荷物だろ。あるよ、ここに。つーかお前に言われなくてもちゃんとあの人に返すから」
水島は手に持っていた鞄をそっと地面に置く。それが昨日おいていった自分の鞄だとようやく気がついた。
「携帯も中に。沢木サンからメールきたときはびっくりしたよー。しかもご丁寧に命令までしてくれちゃってさ。ずいぶん余裕なんだなぁ」
「命令じゃなくて、ただ頼んだだけだ」
「でもこれ、千石さんの携帯の履歴に残っちゃうけどいいの? 俺が消しといてやろっか」
「俺がやるからいい」
「は? 何いってんだよ。あんたに渡すわけねーじゃん。俺が直接千石さんに返すってのー」
……? どうも会話の内容がよく見えない。どうやら沢木は、残してきた俺の携帯を使い水島とコンタクトを取り、俺の荷物を持ってこさせたらしい。しかもそれを引き取るつもりでいるようだ。しかし、いったい何のために?
「で、俺だけじゃなくうちの1年全員を呼んだのはなんで? わざわざ連れてきてやったんだから、くだらない用事だったら張り倒すぞ」
「……!」
驚いたことに、水島が沢木を呼び出したのではなく、沢木の方から水島を呼び出したらしい。しかも奴だけではなく1年の不良全員を。あいつ、何考えてんだ。
「俺が言いたいことは1つだよ、水島」
昨日殴ってきた相手を呼び捨てにする沢木の怖いもの知らずな態度に俺の方がハラハラしてしまう。こちらの不安も知らずに、沢木は怯える様子も見せず笑っていた。
「千石にはもう近づくな。お前だけじゃない。後ろにいる取り巻きも全員、これ以上千石に関わることは許さない」
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