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騒擾恋愛
006



休日開けの月曜日、初めて女の子から告白された俺は、土日の間そのことで頭がいっぱいだった。土曜日は母さんが俺のためにサプライズパーティーのようなものを仕掛けてくれたのだが、それにも微妙な反応しか返せなかった。

いつもどおり早めに登校していた俺は1人席につき雑誌を読んでいた。けれど百瀬がドアから入ってきたことに気づき、なんとなく逃げるように俯いてしまう。意識しまくりで格好悪いな俺…などと思っていると、俺を視線にとらえた百瀬が予想外の行動に出た。

「おはよう、千石くん」

「へ…?」

ふと顔を上げると百瀬の満面の笑顔がある。美化委員活動中のときは話していても、教室にいるときは機会もなく言葉をかわしたことなどなかったというのに。周囲も百瀬の行動に驚き、クラスメート全員が固まっていた。

「お、おはよう百瀬」

「千石くん、何読んでるの?」

「いや、これは…」

無邪気な百瀬に気圧されながらも俺は購読している筋トレ雑誌を手で隠す。けしてやましいものではないが人に見られるのはなんとなく恥ずかしい。

「わあ、すごい。こんな雑誌あるんだ。筋トレ趣味って言ってたもんね。千石くんもこんな筋肉あるの?」

「いや、さすがにそこまでは」

「実は私も、二の腕細くしようと思ってダンベル使ってトレーニングしてるんだよ。でも本当に効果あるのかなって思って」

「…別にそれ以上細くする必要ないと思うけど、何キロのやつでやってんの?」

「えっと、確か3キロ」

「それ重すぎ。続けてたらダイエットどころかムキムキになるよ」

「うそ!」

ごく普通に会話を続ける俺達を見ていたクラスメートがざわつき始める。周囲の反応が気にかかったかったが、百瀬が無視を貫き通していたので俺も気にしてないふりを装った。百瀬と俺の会話は授業開始のベルと共に終わったが、この出来事はうちのクラスのちょっとした事件になったらしい。俺は級友達の反応よりも、ただ1人の男がどう思ったのか、そればかりが気になっていた。












「千石、いつの間に百瀬と仲良くなったの? 今日、普通に話しててびっくりした」

「え」

放課後の誰もいなくなった教室で、掃除当番だった俺を待っていてくれた沢木に、案の定百瀬のことを訊かれた。こちらを見てくる沢木の目に疑心が含まれているような気がして、俺はひたすらゴミ袋の口を結ぶことに集中した。

「俺達、美化委員が一緒だったから…それで」

「ああ、なるほど」

なんとなく後ろめたくなった俺は、なるべく沢木と視線をあわせないようにしていた。頼むからそれ以上この話には触れないでくれという俺の願いが届いたのか、沢木は意外とあっさり話題を変えた。

「そういや千石、最近よく話に聞くんだけど何か1年にスゴいのがいるって」

「スゴいの? どうすごいってんだよ」

「なんか、すごく凶暴で喧嘩が強くて、1年の不良の間では有名なんだって。名前聞いたんだけど…あーなんだったっけ。千石、会ったことない?」

「さあ、あいつらの名前なんかいちいち聞かないし、顔も覚えてない」

不良とは早く縁を切りたい俺がぶっきらぼうにそう答えると、沢木は不安げに顔をしかめた。

「なあ、ほんとに気をつけろよ千石。ここにいる不良はみんなお前目当てなんだし。俺、心配してるんだからな。怪我とか…してほしくないんだ」

沢木の手がぎゅっと俺の腕をつかむ。優しくて心配性の恋人を安心させるため、彼に触れようとしたそのとき、教室のドアが開き外から見知った顔の男が入ってきた。

「千石先輩! 良かった、まだいた!」

「お、お前…」

元気いっぱいに声をかけてきたのは、百瀬の後輩の日生だった。まさか委員活動中以外でもこうやって話しかけられるとは思わなかった。嫌な予感がする。

「先輩! 俺先輩に聞きたいことが…」

「わかった! すぐ聞いてやるからちょっと黙って」

「千石、その人だれ?」

慌てて日生の口をふさぐ俺を見て沢木が訊ねてくる。この学校で俺に声をかけてくる奴は不良ぐらいしかいないため、目が日生を警戒していた。

「大丈夫、こいつは百瀬の後輩で同じ委員なんだ。ごめん沢木、俺ちょっとこいつと話してくるから、ここで待ってて」

「せ、先輩?」

俺は沢木の返事も聞かずに日生をずるずると引きずり、人気のない廊下の壁際まで連れて行く。日生が沢木に余計なことを話しそうで怖かった。なぜそう思ったのか、余計なことが具体的に何なのかは自分でもよくわからないが、とにかく俺は焦っていた。

「先輩! なんで百瀬先輩のこと振っちゃったんすか!」

俺が止まると同時に口を開いてもいいと悟ったのか日生がストレートにきいてくる。噂にもなってない話をなぜこいつが知ってるのかとは思うが、予想の範囲内の質問だった。

「……お前は何でそのこと知ってんの。ていうか声デカすぎ。もうちょっと落とせ」

「金曜日の帰り、泣いてる百瀬先輩を小松先輩が慰めてたんすよ。俺がいったらすぐ追い払われましたけど、ちょっと会話の内容聞こえたんで。つかやっぱり振ってたんすね!」

「……」

おせっかいな後輩に鎌を掛けられたことよりも百瀬のことが気になった。やっぱりあの後、百瀬は泣いていたのか。仕方ないこととはいえ罪悪感を持たずにはいられない。

「断るなんてもったいないっすよ! 百瀬先輩ちょー可愛いのに! うちの学校で一番! なんで断っちゃったんすか! まさか先輩、恋人いるとか?」

「……いたら悪いかよ」

「えっ、マジでいるんすか!? あーなるほどそれで…。でもホントもったいないなぁ。あ、百瀬先輩に乗り換えるってのはどうっすかね。あの人、千石さんのこと超本気みたいだし」


「…へぇ、そうなんだ。その話、俺にも詳しく聞かせてくれよ」


背後から聞こえてきた声に俺の心臓は縮みあがる。振り返るとそこには壁に寄りかかりながらこちらを見る沢木の姿があった。


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