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騒擾恋愛
003



次の放課後は教室の掃除ではなく校舎周りのゴミ拾いだった。俺は校舎裏で軍手をつけながらゴミを探して1人ぶらぶらと歩いていたが、俺がいるからなのかはたまた偶然なのか、辺りにまったく人気がない。…別に気にしてないけどさ。

とりあえず歩いて探してみるが高校の敷地内にそうそうゴミなど落ちておらず、俺はただ校舎裏を散策しているだけだった。とてつもなく暇だ。今日は沢木にも会えないし気分も下がってくる。早く帰る時間にならないかなぁと携帯で時間を確かめていたとき、背後から昨日と同じ声に呼びかけられた。

「千石くん!」

振り返るとそこには軍手をつけゴミ袋を手に持つ百瀬が立っていた。彼女は袋をピラピラ振りながらなぜかこちらに近づいてくる。

「ゴミ袋、クラスに一個だから。2人で一緒に使おうよ。私も一緒に集めてもいい?」

「……う、うん」

俺がつたない口調でそう答えると百瀬は可愛い顔で笑みを深くする。その優しいフレンドリーな態度に俺は動揺しっぱなしだった。

「私、結構探したんだよ。千石くんすぐにいなくなっちゃったから」

「…ごめん」

「謝らなくてもいいけどさ。同じクラスなんだし、一緒にやろうよ」

百瀬はにこにこしながらリラックスした様子で俺と並びゴミを探し始める。俺と一緒にいてこんなにも楽しそうにしてくれるクラスメートは沢木ぐらいなので、なんともいえない異様な光景だった。

「ゴミ集めろって言われたけどさ、そんなに落ちてないよね」

「うん」

「でもやっぱこの袋に何も入ってなかったら怒られるかなー」

「……かもね」

積極的に話しかけてくる百瀬に、対人スキルのない俺はどう返事を返せばいいのかわからなかった。気の利いた返事を返せない自分に内心焦りを感じる。

「千石くん、私うるさくない?」

「えっ」

「なんかペラペラしゃべりすぎって、みんなによく言われるから。静かにしてほしかったら遠慮なく言ってね」

「そんなことないよ!」

百瀬が話しかけてくれるのは嬉しかったし、仮に本当にうるさかったとしてもそんな失礼なこと友達でもない相手に言えない。

「本当に? 千石くん、遠慮してそうだから」

「遠慮…」

俺がそんなことをしてるなんて思っている百瀬に驚きだ。恐いと思ってる相手にはあまり感じないような印象じゃないのか。

「百瀬は俺のこと恐くないの?」

気がついたらそんな馬鹿な質問をしていた。仮に本当に恐かったとしたら恐いですなんて素直に答えられないだろうに。俺はいったい何を訊いてるんだ。
だが自己嫌悪に陥りそうになっていた俺の馬鹿な質問に、百瀬は予想外の答えを返してくれた。

「千石くんは、みんなに恐がられてると思ってるの?」

「え?」

質問に質問で返されるとは思っていなかった俺は不意のことに言葉が出てこない。百瀬は足を使ってゴミを探しながらなんでもないことのように言った。

「もし、そのこと気にしてるんだったら、千石くんは恐くないよ。ていうか、普通に優しい人だよね」

「や…」

「千石くんとは全然話したことなかったけど、1年も同じクラスやってるんだからそれぐらいわかるよ」

百瀬のストレートで明け透けな物言いに俺は照れてしまい何も言い返せなくなる。だが本当に、俺が人畜無害だって1年見ているだけでわかってもらえるものなのだろうか。

「でも俺、去年のクラスでは結局、誰とも仲良くなれなかったんだけど」

「あれは望月たちが! …理由もなく、千石くんを避けてただけじゃん」

いや、理由ならあるんだけどね。ていうか端から見てもわかるぐらいあからさまに避けられていたのか俺は。

「千石くん、嫌われてなんかなかったよ。少なくとも女子の間では絶対。だから今のクラスにもすぐに馴染めると思う。だって私はもう千石くんのこと……って、ごめん。私の話はどうでもいいよね」

百瀬がどうしてそこまで親身になってくれるのかはわからないが、とてもありがたいことだった。好意に溢れているからなのか女子なのにこの俺でもとても話やすい。

「ありがとう、百瀬。嬉しいよ」

自然とこぼれた笑みに、百瀬がぽかんとしなから俺の顔を凝視してくる。俺の笑顔がそんなにめずらしいのだろうか。きっとめずらしいんだろうな、学校じゃめったに笑わないから。



一度殻が突き破られてしまえば、後は簡単な話だ。俺達は掃除が終わるまでの時間、色んなことを話した。沢木以外にも、俺に楽しい時間を共有できるクラスメートができた瞬間だった。


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