[携帯モード] [URL送信]

騒擾恋愛
005



「…いいのか?」

まったく心の準備をしていなかったにも関わらず、俺はすでに沢木の腰に手をまわし押し倒す気満々だった。今ここで、やっぱり嫌だと言われても止められるかどうか自信がない。ついさっきまでの俺は沢木にあんなエグいことさせられないと思っていたはずなのに。

「千石がいいなら、俺もしたいよ」

「いいに決まってる。嫌なわけがない」

どうしよう、沢木が愛おしくてたまらない。俺は彼を優しく抱き上げるようにして立ち上がらせ、ベッドにそっと寝かせる。自然な流れでそういう体勢になだれ込み、ひたすら沢木を求めた。我慢出来なくなったなった俺は沢木に馬乗りになり、シャツに手を潜り込ませた。

「…千石、力抜け」

「え?」

次の瞬間、沢木が俺の肩に体重をかけ身体を反転させるようにしてベッドに押し付けた。沢木と並んで寝る形になった途端、なぜか今度は沢木が俺に馬乗りになっている。きょとんとしている俺の頬を沢木が愛おしそうに撫でたが、照れくさくなった俺はつい視線をそらしてしまった。

「好きだ、千石」

囁かれた愛の言葉に胸がふるえる。俺は沢木の特別なんだと実感してたまらなくなった。でも俺の好きは、きっと沢木の好きよりもずっとずっと大きい。
けれど、俺がどれだけ沢木を愛しているか、その気持ちを伝えようとした矢先の言葉に、俺は耳を疑った。

「絶対に優しくする。だから俺を受け入れてくれ。お前の中に入れたい」


「──は?」

唖然とする俺の唇は沢木によって塞がれる。突然の展開とキスに頭の中が真っ白になったが、沢木の手が俺のズボンに伸ばされ、俺はようやく彼がやろうとしていることに気がつき、顔を青くしながら必死で抵抗した。

「や、やめろ沢木! 馬鹿なこと言うな! そんなの無理だ!」

幸か不幸か、俺は男同士の性交渉がどんなものか知っている。知っているからこそ、沢木が俺を抱きたいと思っていたことに衝撃を受けていた。リアルに考えれば考えるほど有り得ない。俺みたいなゴツい男を抱きたいなんて、沢木は頭がどうかしちまったんじゃないだろうか。

「頼む沢木っ、俺にはできない」

「沢木じゃないだろ、千石。俺はお前の何だ?」

有無を言わさぬ沢木の眼差しに俺は息をのむ。沢木との関係は俺にとってひどく曖昧なもので、思いつく答えは1つしかなかった。

「…ご主人様?」

「そう、でもその前に恋人だろ。なのにセックスはしないって?」

セックスなどという直接的な表現を使った沢木に、俺は動揺を隠せなかった。まったくそんな気がなかったといえば嘘になるが、俺は沢木を抱きたかったから告白したのではない。

「俺は、別にそれでも──」

「なにいってんだよ。身体の関係なしなら、別に友達のままでいたって良かっただろ」

「な…っ」

俺は、どうしても沢木の特別になりたかった。大勢いる友人の1人ではなく、俺が沢木を好きなのと同じくらい、俺のことを好きになってほしかった。ただそれだけのことだ。

「千石はさ、する方はいいけど、される方は嫌?」

「え…」

「抱かれるぐらいなら、俺とは付き合いたくない?」

「そんな…!」

「違うよな? 千石はそんなこと関係なしに俺を好きになってくれたんだよな?」

「……っ」

沢木がしようとしていることは、ついさっき俺が沢木にしようとしていたことだ。自分ができないことを、沢木にやれというのはおかしい。嫌われたくない。沢木にだけは絶対に。

「…わかった、する」

身体を震わせながらも覚悟を決めて呟くと、沢木が優しく頭をなでてくれた。けれどその手は、俺を安心させるどころかさらに恐怖心を煽るだけだった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!