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騒擾恋愛
003


沢木の家へ向かう道すがら、俺は先程のことで少し落ち込んでいたものの、彼とこうやって下校できる幸せを噛みしめていた。沢木の家に訪問するのも初めてならば、長い時間沢木と2人きりでいられるのも初めてだ。たとえ恋人らしいことは何もできなくても、こうして2人の時間を持てただけ勇気を出して告白した甲斐があった。


「千石、さっきの見てた…よな」

「さっきのって?」

「藤城さんの」

「あ……うん、まあ」

嘘をついても仕方がないので、俺は嫉妬心を気取られぬよう気を配りながら正直に答える。すると沢木は途端に笑顔を曇らせて真剣な表情になった。

「俺、ちゃんと言ったから。藤城さんに」

「なにを?」

「付き合ってる人がいるから、ごめんって」

「えっ」

思いもしなかった言葉に俺はつい立ち止まってしまう。放心している俺を見て沢木は柔らかい笑みを浮かべた。

「当たり前だろ。俺は千石と付き合ってんだから。まあ、さすがに相手が男だとは言えなかったけど」

足を止めた沢木は照れくさそうに笑うと、それを隠すかのように下を向く。俺は嬉しさのあまり返す言葉が見つからなかった。

「沢木…、俺…」

「沢木?」

「ご、ご主人様」

せっかくこちらの涙腺が緩みそうなっているというのに、沢木は相変わらずだ。でも先程の言葉は本当に嬉しい。沢木は俺と付き合うことにちゃんと向き合ってくれているんだ。

「だから、俺と彼女が恋人に発展することはないし、彼女もそれはわかってる。それでも友達でいたいっていうから、今まで通り接してるだけだよ」

「うん…」

「…? どうかした?」

俺の歯切れの悪い返事に沢木は顔をしかめる。何か問題でものかと言わんばかりの表情に、俺はつい日頃募らせている不安をこぼしてしまった。

「でも藤城さん、まだご主人様のこと諦めてないと思う。友達でいいとか絶対嘘だよ。見てればわかる」

「…なんだよ、千石。嫉妬?」

「えっ、いや、………ごめん」

しまった、なにを言ってるんだ俺は。沢木は俺が気にしてるのではないかと心配して、わざわざ気を使ってくれたのだ。それを聞いてなお嫉妬するなんて、沢木の優しい心遣いに対して失礼だ。

「大丈夫だよ、俺には千石だけだから」

「…っ。……うん」

沢木のその一言で、さっきまでの暗い気持ちはあっという間に消え去り、俺の心は弾んだ。俺、こんなに幸せでほんとにいいんだろうか。沢木が俺の側にいてくれるなら、もう他に何もいらない。

沢木の白い手が俺の無骨な手にそっと重ねられる。駅が近くなり人通りが多くなるとその手は離れていったが、俺は幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。





電車に乗って2駅、そこから10分程度の閑静な住宅街に沢木の家はあった。

「うわぁ…!」

途中にあったスーパーで夕飯を買って、ようやくその家にたどり着いた俺は思わず感嘆の声をもらす。沢木のイメージにぴったりな優しい雰囲気のその家は、外観もそうだが中も新築みたいに綺麗だった。彼が言うには、まだこの家に越してきて3年ほどしかたっていないらしい。沢木は緊張して玄関に立ちつくしたままの俺を、笑顔で招き入れてくれた。

リビングに鞄を置いてきょろきょろしていると、手早くお茶の用意をしたらしい沢木がきて2階の彼の部屋へ行くよう促される。前に沢木が自分はガサツだと言っていたことを思い出したが、案内された部屋はよく整頓されていてとても綺麗だった。俺が泊まりに来るから片付けたという可能性もあるが、それはそれで嬉しいことだ。

「千石、さっそくやるぞ」

「え」

そういって沢木はテレビの前に座布団をひき、怖い絵が描かれたゲームを取り出す。そして楽しそうに鼻歌を歌いながらいそいそと準備を始めた。

「も、もうするのか? そういうのって昼間やってもあんまり怖くないんじゃ…」

「俺は今日と明日で全クリするって決めてんの! それに、いくら千石がいても夜は怖すぎてできないよ」

「…あ、そう」

とうにわかっていたことではあるが、やはり沢木は俺と恋人らしいことをする気はさらさらないようだ。俺は昨晩、男同士のやり方について一応ネットで調べた自分を心の底から恥じた。まあ、あまりにも衝撃的すぎてすぐページを閉じたのだが、あんなエグい事この先どんなに沢木と親密になったとしても絶対にできないと思う。いつになるかはわからないが、沢木とはキスができたらそれでいい。他は妄想の域に留めておこう。
俺は沢木にバレないよう小さくため息をつき、彼が用意してくれた座布団の上に座った。


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あきゅろす。
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