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騒擾恋愛
003



友達との初めての下校。

まともな友達とは無縁の生活をしていた俺が、それにどれだけ恋い焦がれたことか。けれどその夢を本当に叶えた今、俺はこの上なく緊張していて楽しいなんて思う余裕は欠片もなかった。



「雨強くなってきたな」

「う、うん」

「千石がいてくれて助かったよ、ありがとう」

「いや、好きでやったことだし…」

傘に叩きつける雨粒の音を聞きながら、沢木と2人歩く帰り道。毎日通う、たった10分の道のりがすごく長く感じ、また短くも感じる。沢木と話せるのは嬉しいけど、緊張しすぎて会話が持ちそうにない。でももっと沢木と一緒に歩いていたいという気持ちもある。

「千石、右肩濡れてんじゃん。もっとこっち寄んなよ」

「や、俺が肩幅広いだけだから。気にしないで」

「なんだよ千石、俺は華奢だってのか?」

「えっ!? いやそんなつもりじゃ」

「ははっ、冗談だって。本気にすんなよ」

「じょ、冗談…」

真剣に返してしまい、ちょっと後悔。しかし冗談とはいっても俺に比べて沢木が華奢なのは本当だ。背は普通に平均的なのだが、体つきが少し中性的というか、男の割に色気があるというか……って、なにいってんだ俺。真面目に男の身体を考察してどうする。

「千石の家、あとどれくらいでつく?」

「5分…ぐらい?」

「もう半分か、早いなー」

緊張の連続だった俺としてはけして早くはない時間だったが、沢木にとっては違ったらしい。それはおぼつかない俺との会話を楽しんでくれたということだろうか。だとしたら嬉しい。


沢木と話しができて舞い上がってしまっていた俺だが、もう少しで家につくというとき前から乗用車が迫ってきた。足下の大きな水たまりに気づいた俺は、とっさに沢木の右肩を押し濡れないようにかばった…つもりだった。

「う、わ!」

軽く押したつもりだったが元来の怪力があだになり、沢木を転倒させてしまった。さらにあろうことか後ろにあった別の水たまりに尻餅をつかせてしまったのだ。

「うああごめん!! 沢木ごめん!」

「あちゃー…」

水たまりにはまった沢木は放心したまま自分の濡れた制服に触る。俺は急いで沢木の身体を引き上げ、自分の鞄から取り出したタオルをかぶせた。

「沢木ごめんな! ほんとにごめん! 軽く押したつもりが…」

「なんだよ千石、俺が軟弱だって言いたいのか?」

「ち、ちが…っ」

申し訳なくてうろたえる俺を見て、沢木が声をたてて笑う。あれ、あんまり怒ってない?

「ごめん、冗談だよ。俺がぼーっとしてたのが悪いんだし。そんな顔するなって」

「でも、沢木制服が……そうだ、俺の家よってって! 着替え貸すから!」

「…いいの?」

「もちろん!」

「じゃあ遠慮なく。さすがにこのままじゃ人目につくもんなぁ」

制服の濡れた部分をタオルで拭きながら申し出ると、沢木はすぐにそれを受け入れてくれた。こんなびしょ濡れの状態で家まで帰せるわけがない。

「ほんとにごめんな、沢木」

「だから千石のせいじゃないって。気にすんなよ」

ひたすら謝り続ける俺の肩を励ますように優しく叩き微笑む沢木。彼の寛大な心にほっとしつつも、何をやっても空回る自分にさらに嫌気がさしてしまった。


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