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騒擾恋愛
沢木という男



俺の名前は千石伊織(センゴクイオリ)。性別、男。歳は16歳。好きな食べ物はエビフライとハヤシライス、嫌いな食べ物は里芋だ。名前の由来は、母さんいわく俺がまだ性別不明な頃、つい待ちきれず男女どちらでもいけるような名前を考えたかららしい。


中学の頃の俺はいわゆる不良というやつで、毎日喧嘩ばかりしていた。ところがそんなある日、ついに堪忍袋の尾が切れた母さんが知り合いの精神科医に俺を託した。週に3回のカウンセリングを受けるうち、俺は突然、今までの自分の行いすべてが馬鹿らしくなった。自分はどうして喧嘩なんかしていたのだろう。他人を傷つけて何が楽しいんだ。人は皆、支え合って生きていくべきではないのか。人間とは本来、けして1人では生きてはいけない弱い存在なのだから──…


新しく生まれ変わった俺は何とか自分の気持ちをわかってほしくて、何があったんだと俺を攻め立てる不良仲間に、いかに自分達のしていることが愚かな行為かを説いた。すると仲間達はそろいもそろって顔を青くし、洗脳だ! 千石が洗脳された! と騒ぎ始めたのだ。まったく、失礼な連中だ。俺が洗脳なんかされるもんか。

俺を必死に連れ戻そうとした友人とは中学卒業と同時に縁を切った。少し寂しいが、暴力に手を染めるような連中とはもう仲良くできない。俺は塾に通って猛勉強し、そこそこの偏差値の高校に入学することで奴らを振り切ったのだ。

けれど、人生そううまくはいかなかった。
自宅から徒歩10分の高校には同じ中学の人もたくさんいたため、俺の悪名は入学する前から広まっていた。人間を虫けらのようにいたぶる無慈悲な不良、千石伊織。それが俺のイメージだった。もちろん、真面目な普通の生徒ばかりのこの学校で俺に話しかける奴などいない。

入学式から1ヶ月以上たった今でもそれは変わらなかった。髪を黒く染め、ピアスの穴もふさいで普通の男子高校生になったというのに、誰も俺に近づいてこようとはしない。ライオンの群れの中にいる1匹のウサギ──ならぬ、ウサギの群れの中にいる1匹のライオン。それが今の俺だ。ただしそれは見た目の話で、中身はきっとネズミ以下だろう。いまだにクラスメートの誰にも話しかけられないでいる小心者なのだから。






その日も、俺はいつも通り誰かと目を合わせることもなく自分の席に着いた。今日から中間テストで、席は出席番号順だ。俺はみんなと同じように教科書を開いて勉強を始めた。真面目に勉強する俺が珍しいのか、周りのクラスメートが不思議そうにちらちらとこちらを盗み見てくる。俺はなんとなく照れくさくなって教科書をカバンの中にしまった。別に今更見なくたって、勉強してきたのだから大丈夫だろう。

俺が1人机にふせっていると、前方のドアが開き数人の男子が入ってきた。まだあまり名前と顔が一致しないが、その中の1人だけはすぐにわかった。

沢木瞬(サワキシュン)。このクラスの学級委員長だ。

沢木は一度も染めたことのなさそうな綺麗な髪に、女子みたいに白い肌をした天然美形で、性格は端から見る限り大人しそうな印象を受けるが、その容姿のせいで嫌でも目立ってしまう。おまけに成績優秀で品行方正、教師からも気に入られているらしい。まさに完璧な理想の男子。物語の中の王子様みたいだった。

その沢木が、友達と楽しそうに話しながら俺の前に座る。沢木と千石で、俺達は席が前後なのだ。

俺が沢木を気にする理由はもう一つある。彼は他の生徒達と違って俺を無意味にさけたりしないし、怯えた様子も見せない。下駄箱で偶然顔をあわせた時は、挨拶してくれたこともあった。驚いた俺はろくに返事をすることもできなかったが。

それ以来、俺は沢木に話しかける機会を狙っているが、沢木はいつも人に囲まれている。テスト中は席が前後になるからチャンスだと思ったのだが、この様子をみると今回も無理そうだ。


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