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神様とその子供たち
008


「でも、僕が女に見えるなんて思いませんでした。背だってそんなに低くないのに」

昔はよく女の子に間違えられた、などと両親は言っていたが嬉しくない話だ。それに昔はどうであろうと今は立派な男子だ。同級生と比べてみても特別華奢だとかひ弱だとかそういうこともないのに。

「何言ってるんですか。人狼の中にいれば僕ですら女扱いですよ」

落ち込む僕にセンリがさらっと凄いことをいう。確かに髪は長く女のように綺麗だが、それ以外は完全に男だ。

「ええ? どこがですか?」

「身長も低いですし、筋肉もなく力もありませんし、髪も長いので」

「その身長で低いだなんて! 筋肉だってついてますし、髪は切ればいいじゃないですか」

僕から見れば羨ましいくらいの体型なのだが、センリは不満がある様子だ。

「人狼の平均身長には足りません。他の人狼と比べれば痩せすぎなくらいです。髪は短くすると自分で切れなくなるので嫌です」

「ご自分で切られてるんですか?」

「ええ。他人に触られたくないというか…あまり人と接するのが好きじゃないので」

それは僕にもいえるところだが、センリはおそらく他人の考えが読め過ぎるせいだろう。一瞬、坊主にすれば男らしいし自分でも剃れるのではと思ったが、耳の位置がバリカンを使うには邪魔すぎる。

「人狼の男はどいつもこいつも、考えてることは一緒ですからね。同情されるのも見下されるのも女扱いされるのも、我慢なりません」

「どうしてセンリさんのこと、同情したり見下したりする人がいるんですか」

人狼のことはよくわからないが、この国のトップにいるイチ様の補佐をしているセンリを馬鹿にするような男がいるのだろうか。

「それは……カナタさんには話しておいた方がいいですね。隠してることでもないですし」

「?」

「先程アガタが言っていたでしょう。僕の父が母親を殺したと」

「あ……」

気になってはいたが、聞かなかったことにした方がいいと思っていたことだ。センリはいたって冷静に話し出した。

「父は普通の男でした。いえ、妻を娶れたんですから優秀だったんでしょう。そこそこ強くて、頭もよくて女性にモテた。若くして僕の母親と結婚し、子供もできて、まさに順風満帆の人生といえますね」

自分の親の事なのにまるで他人事のようだ。僕は家族が何より大事だが、他の人間にもそれを強要しようとは思わない。18年も生きていれば、それぞれ事情があることは理解できる。

「しかし母が高齢になった時、父は若い女と不倫をしたんです。結婚しているのに他の女性と、など通常あり得ないことです。男側から離婚の申し出も許されていません。そこで父は、事故に見せかけて母を殺したんです。うまく偽装したようですが、警察は誤魔化しきれなかった。ただの私利私欲のためだけに、妻を殺すなど、人間ならいざ知らず人狼ではこれが初めての事件でした。父は頭のいかれた殺人鬼として、当時は一躍有名人になりましたよ。その異常者に育てられた僕らも一緒にね。取材もたくさんきましたが、僕はもう家を出ていたので詳しいことは何もわかりませんでした。僕の中には、母と仲の良かった父しかいないんです」

「そのお父さんは、今は…」

「まだ刑務所ですよ。無期懲役の犯罪者は、ロウ様の許しがなければ釈放されないんです。しかし、父はもう外に出るつもりはないのかもしれません。出てきたところで人狼達から迫害されるのは目に見えています。姉や妹達も皆とうに亡くなって、今では父の家族は僕しかいません。父に許しを与えられるのは僕しかいないとロウ様は仰りましたが、そんなことをする気にもなれない。許す許さないではなく、どうすればいいのかわからないんです。僕にとってはもう、昔の話ですから」

僕には相手の本当の気持ちなどわからないが、話を聞く限りではセンリは本当になんとも思っていないようだった。母が殺されただけでもショックなのに、その相手が父親だなんて当時は相当つらい思いをしただろう。それは時間がある程度解決してくれたのだろうが、決着はまだつけられていない。

「あの、センリさんって、おいくつなんですか」

「150……はこえてると思いますが。多分」

「えっ、そんなに!?」

人狼の男は長寿だと知ってはいたが、実際に聞かされると驚く。どう見ても20代前半の若い青年だ。多分というのは、正確な年齢がわからないということだろうか。150年も生きていたら、いちいち数えるのも面倒になるのかもしれない。19のハレを子供扱いしてしまうのも無理ないだろう。

「どうして、僕に話してくださったんですか。お父さんの事」

「言ったでしょう。もう過去の事で、特別隠していないと」

確かに隠す理由はないですのたろうが、あえて話す必要もないはずだ。僕が無理に詮索するつもりがないのを彼なら気づいていただろう。

「先程、僕はアガタに捕まえられました。あの男の口から僕の父の件をカナタさんに知られると思った時、動揺したんです」

「動揺?」

「ええ。いつもは何を言われてもガードできていたんですが……アガタの前では一瞬の隙が命取りですね。僕は自分が思っている以上に、あなたからどう思われるかを気にしていようです。他人の口からねじ曲がった話をされるより、自分から話した方がましだと思ったんですから」

微笑を浮かべたセンリが潤んだ瞳でこちらを見るので、僕が女ならば誘惑されていると勘違いしただろう。いつも笑っているので意識したことがなかったが、センリは笑顔が本当に美しい。

「それに、あなたは僕に同情したりしない。あなたは両親を事故で亡くしている。どちらがより可哀想かだなんて決められるものじゃない。当事者にしかわからないことです」

「……」

彼の言う通りだ。誰がどんな不幸な目にあっていても、自分が受けた悲しみが減るわけではない。誰かに同情する余裕もない。

「それに、カナタさんはいつも僕の事を格好いいと思ってくれているようですから、そのイメージは崩さないようにしないと」

「な、な、なんで知ってるんですか」

「それくらいのこと、朝飯前ですよ」

読心術はない、いうことだったがセンリはいったいどこまで相手の考えていることがよめるのか。それとも、単純に僕がわかりやすいだけなのだろうか。

「あーでも、僕としてはハレならばあなたと仲良くなれると思ってたんです。それがまさか彼があそこまて追い詰められていたとは……。僕もまだまだですね」

そう言ってセンリは立ち上がり、濡れた尻尾を振った。そのまま出口へと向かって歩いていく。

「カナタさんと少しお話ししたかっただけなので、先に上がります。あなたはゆっくりなさってください。のぼせないように気をつけて」


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