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神様とその子供たち
006※


「うああ……!」

突然首筋に噛みつくように吸い付かれて奇声をあげる。いったい彼は何をしているのか。理解できずに混乱していたが、抵抗だけはしなければと僕は必死に暴れた。

「やめて、やめてください! ハレさん!」

しかし僕の力など彼にとっては赤子レベルだったようで、まったく歯が立たなかった。結構本気で彼を叩いていたが、いっさいダメージを与えられていない。

「うわ…!」

いきなり尻を掴まれてさすがの僕もこれは襲われているのではないかと理解する。以前、真崎が人狼は女が少ないから男は性の捌け口に人間の男を利用すると言っていた。気を付けろと注意されていたのにすっかり忘れていた。今まで誰もそんな素振りを見せなかったので油断していたのだ。

「あっ…ん……!」

熱く熱を持ったものが下半身にすりつけられて、相手が本気だと知り暴れて逃げようとしたものの押さえつけられてはどうにもならない。ハレの顔を見ると、普段のすました表情とはまったく違う、人間より獣に近い顔つきをしていた。口から覗く牙のような犬歯も、荒い息づかいも、正気を失ったような血走った瞳も、すべてが恐ろしかった。

「や、嫌だ…! やめて、ください…っ」

必死で懇願してるうちに涙が滲んできた。同じ男なのに、ここまで情けなくお願いする事しかできないとは。しかも向こうにはまったく効いていない。

「ひっ」

後ろの穴に触れられて小さく悲鳴をあげる。これはもしかして、ここに無理やり入れてくる気なのだろうか。そんなことになったら絶対に裂ける。痛みで悶絶する自分が容易に想像できる。

「うっ…う……」

ハレには嫌われているとは思っていたが、こんな扱いを受けるほど軽い存在だと思われていたとは。人狼にとって、人間とはそういうものなのか。女性との経験もないうちに男に犯されるなんて、一生のトラウマだ。

「くそ……!」

突然そう毒づいたハレが俺の顔のすぐ横を拳で思い切り叩く。恐怖でまったく動けなくなった俺は、ハレが思いっきり歯を食いしばっていることに気がついた。床に叩きつけた拳も震えている。

「……ハレさん?」

どうも様子がおかしい。涙で滲む視界でも、相手が苦しんでいるのがわかった。彼の名を震える声で呼ぶと、ハレは僕の顔に手をかけた。涙でぐちゃぐちゃになった顔をまじまじと見つめられ、僕は彼が思い直してくれたのかと思いもう一度懇願した。

「あの、ハレさん。は、離して…くださ……」

「………かわいい」

「え?」

ハレの牙、尖った歯が目前に迫って、きっとこのまま噛みちぎられて食べられてしまうと思い痛みに備えたが、そのまま唇を奪われた。何でキス? 何のキス!? とパニックになっていると、舌を入れられた挙げ句まるで恋人を相手にしているような熱っぽい視線を真っ直ぐ向けられてますます混乱した。

「ん…ん……」

ハレに好き勝手口の中を蹂躙されていたが、恐怖は薄れてきた。ハレの手つきが優しいのでまるで合意かのような錯覚に陥りそうなくらいだ。しかし次の瞬間、目の前でハレの身体が派手に吹っ飛ばされた。

「無事ですか!? 怪我は!?」

彼を思い切り蹴飛ばしたらしいセンリが、僕にたずねてくる。こんなにも簡単に人が吹っ飛ぶのを初めて見た僕は震えながらも首を横に振る。それを見たセンリはほっと安堵した後、持っていたタオルを僕の肩に優しくかけてくれる。そしてすぐに鬼の形相になって転がったハレの方へ向かった。

「あなたって人は…まだまともに性欲コントロールもできないんですか…!」

あわあわする僕を残して彼は転がるハレの身体を持ち上げると、そのまま浴場の方へと入っていってしまう。その数秒後、ハレの叫び声が聞こえて僕は再び震え上がった。いったい中で何が行われているのか、怖くて見に行けない。座り込んだまま硬直していると、センリがびしょびしょになったハレを引きずって姿を現した。

「水風呂に沈めてきました。ハレ、正気に戻りましたか」

「……はい……」

「でしたらカナタさんに言うことがあるでしょう」

「大変……申し訳、ありませんでした……」

「こら、きちんと頭を下げなさい」

満身創痍のハレの額が地面に押し付けられ、強制土下座のようになっている。このままでは彼の頭がセンリの手に潰されかねないと思い僕は慌てて止めに入った。

「僕は大丈夫です! もう充分ですからやめてください…!」

センリが渋々手を離し、顔をあげたハレは顔面蒼白で先程までとはまるで別人のようだった。泣きそうな顔で項垂れた彼を見ると可哀想になってくる。

「ハレ、あなたにはがっかりです。まさかこんなに弱い男だとは」

「す、すみません。今回のことは、間違いなく俺が悪いです……でも、でも…」

「?」

「センリ様にだって原因はあります!」

「は?」

あれだけ暴行された相手に反抗するなんて、ハレはなんて命知らずなのか。その無謀な勇気に見てるこっちがビクビクさせられる。

「人間を雇うなら、ハゲたデブのおじさんにして欲しいって何度もお願いしたのに、よりにもよってこんな…こんな可愛いのを連れてくるから!」

そう叫んで僕の方を指差してくるハレ。可愛いなんて親以外に言われたことのない僕は、一瞬誰の事を言っているのかわからずポカンとしていた。

「それは仕方ないでしょう。ただでさえ寿命の短い人間を雇うのに、おじさんなんか選んだらすぐ死んじゃいますよ」

「でもでも、俺にサポート役なんか頼むし、風呂場に連れてくるし、センリ様はどういうおつもりなんですか? 俺の理性を試してるとしか思えません! こんなの酷い、あんまりです…!」

「……」

涙ながらに訴えるハレを見て言葉を失うセンリと僕。嫌われているとばかり思っていたのに、そんな風に見られていたとは。クールで怖いとばかり思っていたハレのイメージが、ガラガラと崩れ落ちていった。


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あきゅろす。
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