神様とその子供たち 四人の近衛兵 しばらくしてロウは、外に出ていた人狼の一人を呼んだ。 「コイツはキリヤ、俺の信頼できる優秀な護衛だ」 キリヤという名の男はロウよりも一回り大きく、筋肉の塊のような男だった。数々の死闘を繰り広げた百戦錬磨の戦士の顔つきで、男が惚れそうな鍛え上げられた容姿だ。顔に見覚えがあるので、何度か会っているのだろうか。 「キリヤは誰よりも体力があってな、一週間は寝なくても平気なんだぜ」 「二週間ですロウ様」 「えっ、またのびたの? すごいなお前」 「これくらいは余裕ですよ」 ロウはキリヤに顔を近づけて目の前で手を合わせた。お願いのポーズだ。 「お前のその体力を見込んで頼みがある。ここにいる間、カナタの護衛をしてほしい。ずっと一緒にいてくれたお前ならわかっているだろうが、カナタは俺にとって必要不可欠な存在だ。お前だけは俺の事よりもカナタを守ることに集中してくれ。できるか?」 「わかりました」 「よし」 「ロウ様もお気をつけください。今はカエンもいませんし警備が手薄です」 「わかってるよ〜」 キリヤは僕との距離を詰め高圧的に見下ろしてくる。あまりにも近すぎて彼の顔が見えない。 「アトウカナタ、ロウ様に命令された以上お前の事は何があっても守る。お前も俺の指示に従い、勝手な行動をとらないように」 「……」 「わかったら返事しろ」 「はいっ、よろしくお願いします」 あまりの威圧感に言葉を失っていたがなんとか大声で頷く。ロウの「絶対いじめるなよ」という言葉にキリヤは頷いていたが、僕はこの強面の人狼とずっと一緒にいなければならないのかと思うと不安で仕方なかった。 ヒラキの家族が意識を取り戻したとのことで、ロウは病室に向かった。僕はキリヤと共に部屋に取り残される。 「お前、何が食いたい」 「えっ、あ……僕は何でも大丈夫です」 キリヤに話しかけられ緊張しながら答える。ここはイチ様の屋敷ではないのでロウがいなくても大丈夫なわけだが、心細いのには変わりない。 「持ってこさせるから待ってろ」 「あの、よければ僕自分で買ってきますけど」 「フラフラされる方が迷惑なんだよ。お前に何かあったら俺の面目丸潰れだ。大人しくしてろ」 「……はい」 僕はキリヤが持ってこさせた弁当を一緒に食べる。キリヤは大食漢なのか弁当が2つあったが、僕が半分も食べ終わらないうちに完食してしまった。 「お前食べないのか? 残すなら俺にくれ」 「いや食べてる途中なだけです。キリヤ様食べるの早いですね」 「俺の仕事はロウ様の護衛だから、自分のための時間は短ければ短いほどいい。俺はまだ食う方だけどシギなんか仕事中は携帯食しか口にしないぞ」 「シギ?」 「俺と同じロウ様の近衛兵だよ。あと今はいねぇけどカエンとトキノ、この4人がロウ様を一番近くで守ってんの」 「カエン様とトキノ様はお名前を聞いたことがあります」 「カエンは今ハチ様を追ってる。トキノはとにかく足が早い奴で、色んなとこ走らされてるよ」 トキノはさっきまでロウと話していた男だ。短髪で背が高く耳も大きかった。ロウと並んでも存在感のある人狼だった。 「俺はロウ様からお前の話し相手になってくれって言われてるからな。聞きたいことがあればきけ」 「話し相手?」 「俺にお前の味方になってほしいんだろ。人間は敵だけど、ロウ様のためならお前を守るのも話し相手になるのも問題ない」 それは味方になってるというのだろうか。こんな怖そうな人狼と無理やり仲良くなりたいとはあまり思わないが、向こうが譲歩してくれているのだから僕から逃げるわけにはいかない。 「キリヤ様はいつからロウ様の護衛をされてるんですか」 「え? 俺のこときくの?」 「ダ、ダメですか? てっきりきいてもいいのかと」 「いいけどそんなの興味ないだろ。もっとロウ様の好みのタイプとか聞いとけば?」 「それ僕に必要な情報なんでしょうか……」 [*前へ][次へ#] |