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神様とその子供たち
006


「これはイチ様、四群までわざわざお越しいただきご足労おかけしました」

笑顔のハツキが再び姿を現し、僕は寿命が少し縮んだ。センリが素早く僕を背中に隠してくれる。

「急な来訪になって申し訳ありません。やむを得ない事情があったもので」

センリが笑顔でハツキに頭を下げる。イチ様は視線をやっただけで何か答えるつもりはないようだった。

「イチ様のような多忙な方がわざわざ来られるなんて、余程の事情があったんでしょうね。さしつかえなければおしえていただけませんか」

「父親が撃たれたとあれば、駆けつけるのが普通でしょう?」

部屋の空気がピリピリしている。僕はセンリの後ろでひたすら縮こまっているしかない。抱っこしているゼロが心配そうに僕を見上げている。

「確かに、その通りですね。しかしロウ様はこの通りお元気です。我々四群が責任をもってお守りしますので、イチ様は安心してお任せください」

要約するとさっさと帰れという意味だということは僕でも気づいたが、僕はこのままイチ様と一緒に帰っても大丈夫なのだろうか。そこだけロウの了解をもらえればすぐにでも戻りたい。

「父上の無事な姿を確認でき、安心しました。カナタを連れて一群へ帰ります」

イチ様がロウに小さく頭を下げ僕の名前を口にする。帰れるの? ときょとんとしている僕の肩に手を回し部屋から出ようとしたが、それをロウが止めた。

「待て、イチ」

「………」

「その人間をここから出す許可は出してないと思うが」 

とても穏やかな口調でそう言われたので聞こえなかったふりしてこのまま出ていけないだろうかと一瞬期待したが、イチ様はもちろんちゃんと立ち止まった。

「許可が必要でしたか」

「当然だ」

「父上のものではないのに?」

その瞬間スイもハツキもギロリとイチ様を睨み付ける。ロウに対してなんという口の聞き方だと言わんばかりだ。けれどロウはまったく気にしていないようで、相変わらず笑顔でイチ様に話しかける。

「いっちゃんだって、もう他に人間を雇ってるだろ? そんな慌ててカナタを連れていくことないじゃんか」

「イチ様は誰も雇われていませんよ」

「えっ」

センリの言葉に僕とロウが驚く。ということはゼロの世話はもしかしてイチ様一人でされていたのだろうか。

「カナタさんが帰ってくるまで自分がみるから、誰も雇わないようにとイチ様に言われたんです。なので正直もう限界なので早く返してください」

誰も雇わなかった、というセンリの言葉に一人感動する僕。いや、それよりもイチ様の健康面を心配しなければならないのだが。

「カナタがお世話になりました。失礼いたします」

「おい、イチ…!」

ロウの制止を振り切り今度こそここを出られる、と思ったのもつかの間、目の前にハツキが立ちふさがった。

「ふざけるなよ」

乱暴な言葉づかいすぎて一瞬空耳かと思った。しかし確かに目の前ハツキの言葉だった。

「イチ、お前は俺達がどれだけ必死になっても手に入らないロウ様の愛をただ一人頂く身でありながら、ロウ様の意思に反して人間を身近に置くなんて許されると思うのか」

「なっなっなっイチ様を呼び捨てするなんて! 四貴様の分際で身のほど知らずな…!」

ハツキの発言に本人ではなくセンリの方が怒り狂い始める。イチ様は無表情のまま激昂する相手を見ていた。

「なぜそこまでロウ様に逆らう。そこまで父親を疎む理由は何か言ってみろ!」

ハツキになじられて、イチ様は父親の方に顔を向けた。視線を向けられたロウはきょとんとしている。

「……疎んじた事はただの一度もない。父上の事は誰よりも愛している」

「いっちゃん!」

感激のあまりロウの耳が何度もピクピクして尻尾もゆらゆらと動いている。おおはしゃぎだ。

「ただ、父上はたまに……」

「?」

「………しつこいから」

「!?」

子供の暴言にショックを受けるロウ。しつこいとイチ様が言ったことにも衝撃だが、ロウが見たこともないくらい呆然とした間抜け面をしていたのでそちらもなかなか衝撃だった。

「イチ!!! ロウ様への侮辱今すぐ撤回しろ!!!」

ハツキがイチ様の胸ぐらを掴み上げ腕を振り上げる。それをイチ様はなんなく片腕で止めた。

「お、お前らこんなところで暴れるなよ。人んちだぞ……」

乱闘が始まるとロウが遠慮がちに二人を止めるも、イチ様の方はともかくハツキはまったく聞こえていないようだった。さっきまでの上品な顔はどこへやら、獣か何かかと見間違えるくらい獰猛な姿をしている。僕はとにかくゼロが巻き込まれないようにぎゅっと覆い被さるように抱き締めていた。


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あきゅろす。
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