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神様とその子供たち
005


スイの説得によりもう一日四群に滞在することになったロウだったが、ベッドの上ではとにかく電話をし続けていた。次に滞在する予定だったところにかけているらしく、ごめんごめんとひたすら相手に謝り続けている。僕はその間ずっと横に座っていたがいつまでここにいていいのだろうかとぼんやり窓辺を眺めていると、出ていたスイが慌てて部屋に戻ってきた。

「ロウ様! 大変です!」

「あ? これ以上大変なことあるのかよ。こっちは謝罪に必死だっつうの」

「イチ様が来られました」

「……どこに?」

「ここにです。いまキトラが挨拶しています」

イチ様の名前が出て一瞬飛び上がりそうになる。ここにイチ様がいるなら、すぐにでも会いに行きたい。

「いっちゃんが何で……まさか俺の事が心配で!? 早く連れてきて安心させてやらないと」

「カナタさんの安否を気にされてたので、そちらかもしれませんが…」

「さすがにもう新しい人間雇ってるだろうからそれはないだろ。カナタのことなんか忘れてるよ」

「ええっ!?」

あんまり酷いことを言うのでつい口を出してしまう。それはないだろうと思ったが、忘れることはなくても新しい人を雇ったなら僕はもう用済みになるかもしれない。

「そうなったら僕はどうしたら……」

「別に俺と来ればいいだろ」

「いやそれは……というかロウ様はイチ様の近くに人間がいるのが嫌だったんじゃないんですか? 僕を引き離しても新しい人間が来たんじゃ意味ないじゃないですか」

「うるせぇ、俺はこの快適安眠生活を手放したくねぇんだよ。そのためならイチんとこに人間がいてもまあいいよ」

「そうなんですか!?」

人間を排除するためなら何でもしてくるとセンリには散々脅されていたのに、こんなに簡単に許してもらえるなんて。いや僕以外の人間が認められても仕方ないのだが。

「センリがちゃんと選別するから来るのは無害な人間だろうし、一人くらいなら許してやらなくも……あ、いっちゃん来た!」

「えっ、どこですか」

扉の方を凝視しても一向に開かない。どこにイチ様がいるのかときょろきょろしているとロウの耳がぴくぴく動き始める。

「いっちゃんの足音と匂いがする。もうすぐここに来る」

「ほ、ほんとですか」

犬みたいだな、と思ったものの口には出さない。ロウの感覚が鋭すぎて実際にはイチ様が現れるまで結構時間があった。ようやく現れたイチ様はフォーマルな服装で隣にはセンリが立っていた。仁王立ちになっているセンリは少し怒っている様子だったが、イチ様は相変わらずの無表情だ。だが久しぶりにその姿をみて胸が踊った。イチ様もセンリの後ろから僕を見ていた。思わず立ち上がって駆け寄ろうとした時、ふいに小さな影が飛び出してきた。

「キャン!!」

「ゼロ!」

可愛い綿毛が飛び出してきたきたかと思うとそれは僕のゼロだった。僕の顔をペロペロなめてくるので僕はされるがままになりながらゼロを抱き締めていた。

「あ〜〜かわいい〜〜〜僕も会えて嬉しいよ〜かわいい〜〜」

「キャンキャン!」

一瞬すべてのことを忘れてゼロを愛でる。僕がようやく落ち着いて顔をあげると、ロウが僕と同じようにイチ様を撫でていた。

「いっちゃん会いたかったよ〜〜パパがそんなに心配だったのか? 可愛い奴だなぁ」

「違いますよ。カナタさんをすぐにこちらに戻してくださいと頼んだのに無視するから、イチ様がわざわざ足を運んだんです」

センリがデレデレしていたロウを睨み付けながら言い放つ。「そうなの?」とロウがイチ様を見る。イチ様は何も言わなかったが否定しないところをみると事実らしい。

「なんだよいっちゃん、カナタのことばっか気にして。てかそっちに情報いくの早すぎだろ。俺の近くに密偵いるのバレバレだろーが」

「元々ロウ様にはバレバレなんだからいいんです。カナタさんを危ない目にあわせたのに、この期に及んで返さないつもりですか?」

「俺じゃないもん。テロリストの人間がやったんだもん。それにカナタには傷一つついてねぇんだからいいじゃねぇか」

「その後、よりにもよってカナタさんをハツキ様と会わせたってききましたよ。カナタさんを殺したいんですか?」

「それもあいつが勝手に来たんだよーー」

「センリ、いい加減にしなさい。ロウ様にそんな口の聞き方をして」

スイがセンリを叱るも、今のセンリは止まらない。

「これは僕ではなくイチ様の思いを代弁したまでです。ロウ様、これ以上あなたにはカナタさんを任せられません…!」

「センリ、お前は優しいなぁ。イチとカナタのためにこんなに必死になって」

そう言ってロウがセンリを抱き締め頬にキスをすると、一生懸命怒っていたはずのセンリの耳と尻尾がピンと伸び、あっという間に耳まで真っ赤になって「わあ!」と叫びながらロウから距離を取ってしまう。それ以上何も言えず俯いてしまったセンリに、僕はゼロをだっこしたまま近づいていった。

「大丈夫ですかセンリさん」

「ロウ様がぼ、僕の頬に……」

喜びのあまり呆然としている。もうセンリは駄目だと考えていた時、もう一人男が部屋に入ってきた。


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あきゅろす。
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