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神様とその子供たち
004


「ロウ様! ご無事で良かった!」

キトラがロウに抱きつかんばかりの勢いで近寄り手を取る。ロウは笑顔でキトラの頭をよしよしと撫でていた。

「心配かけたな。お前は怪我ないか」

「はい。ロウ様がすぐテロリストを掴まえてくださっおかげで全員無傷です。申し訳ありません、こちらの警備が甘かったせいで」

「もう家から出てたんだから、キトラのせいじゃないよ」

「ロウ様ぁ…!」

キトラは感極まった様子でロウに抱きつくキトラ。鼻水をすする音が聞こえるので本格的に泣いているらしい。その姿を僕とスイは二人で見守っていた。

「す、すみませんお見苦しいところを。それでですね、今回の件でロウ様にお詫びしたいと四貴のハツキ様がこちらに向かっておられます」

「え、いいよそんなの。断って」

「しかし四貴様には逆らえませんので……。もうそろそろ到着される頃かと」

「えーー大袈裟だなぁぁ」

「大袈裟ではありません」

突然知らない声が聞こえたと思ったら、ドア口に知らない人狼が立っていた。中性的ともいえる綺麗な顔をした男で、顔だけだとハレくらいの年齢に見えたが身長はアガタと同じくらいの大柄で少しアンバランスな青年だ。

「ハツキ、早いな」

「四群の中で起きた事件はすべて俺の責任です。ロウ様、お怪我をさせてしまい申し訳ありません」

キトラがさっと場所をあけると、ハツキと呼ばれた男はベッドの横でひざまずきロウの手をとって口づけする。面食らう僕と同様ロウもそれ必要? という顔をしていた。

「いや、たいした怪我じゃねえし、もう通常業務に戻ってもらっても……」

「とのことだ。キトラ、君はもう仕事に戻りなさい」

「ハツキもね。顔見せてくれたのは嬉しいけど、この通り俺はピンピンしてるし謝罪も受け入れたから」

「しかしせっかく四群に来てくださってたのに、俺の所には顔も見せてくださらないなんて。あまりに酷すぎませんか?」

「だって特に用事ないんだもん」

「用事がなくてもイチ様のところには行かれるじゃないですか」

「いっちゃんは俺の可愛い息子だし、特別扱いしてんの!」

ハツキはわかりやすく悲しそうに項垂れる。大きな耳がぺたんと垂れていて可哀想に思えてきた。僕はなるべく目立たないように呼吸すら控えめにしていたが、突然彼の視線がこちらに向いたかと思うと、気がついた時には彼の手が目の前にあった。

「ロウ様」

「ハツキ、手を下ろせ」

知らない内にハツキの鋭い爪が僕の喉元ギリギリに突き立てられている。その彼の手はロウがしっかり掴んでいて、それがなければあと少しで僕はこの爪に喉を引き裂かれていたところだ。それをようやく理解して僕は恐怖で体がすくんだ。

「キトラからこいつのことは聞いてます。人間があなたの側にいるなんて許せない」

「手を下ろせ」

「俺なら簡単に処理できます。イチ様には俺が勝手にやったと言えばいい」

「俺のいうことが聞こえねぇのか」

本人を目の前にして処理する発言にさらに体が縮こまる。ロウはそれを一刀両断して、力付くで腕を下ろさせた。

「俺が頼んでもないことを勝手にする権利はお前にはない」

「………ロウ様」

「わかったな、わからないならお前をここから叩き出す」

「申し訳ありません」

彼がようやく僕から離れてくれて、再び息ができた。スイがすぐに間に入りロウを再びベッドに戻す。

「ハツキ様、お気持ちはわかりますがロウ様は安静中ですのでお静かに」

スイの言葉に一瞬ハツキの表情が消えたがすぐに元に戻った。立ち上がってロウに頭を下げる。

「大変失礼しました。スイ様のおっしゃる通りですね。ロウ様、またお邪魔します」

再びロウの手に口づけると、キトラを連れて部屋から出ていく。その姿を見届けて、ロウが盛大に息を吐き出した。

「はーーーー。ほらみろ、ここで長居なんかするからハツキが来ちゃったじゃねぇか」

「ロウ様を心配なさってのことですよ」

「そんな甘いこと言ってたら、そのうちお前あいつにぶっ刺されるからな。間違ってももうカナタとは会わせないようにしろよ。おい、首大丈夫か」

ロウが僕の首を触り傷がないか確かめる。まさかこんなところで命の危機にさらされるとは思わなかった。

「あの方は一体…?」

「あいつ? あいつはやべーんだよ。とにかくやべぇ」

人狼はひたすら甘やかすロウがここまで言うのは珍しい。四群をまとめるリーダーともなれば、ある程度の人格者ではないといけないのではないだろうか。

「ハツキ様は、ロウ様が大好きすぎて少しばかりおかしくなってしまったんです。元は十群の名もない人狼だったんですが、十貴になるまで上り詰めた後も満足できず、ロウ様に少しでも近づくため四貴にまでなった優秀な男です。だから常にロウ様の近くにいる私やイチ様のことも嫉妬で殺したいほど憎んでるんですよ。あなたのことも殺しに来ると気づくべきでした」

「それってほっといて大丈夫なんですか!?」

僕含めスイやイチ様までも危険にさらされている。彼の事はどこかに隔離した方がいいのではないだろうか。

「やーでも実際にまだ殺してはないし、イチが負けることはさすがにねぇからさ。でもハツキって全然老けねぇんだよな。いっちゃんより長生きしたらどーしよ。……スイお前なんだその他人事みたいな顔、その頃には自分いないから関係ねぇやとか思ってるだろ」

「まずそれまで我慢しきれないのでは? あなたをさらってどこかに閉じ込めますよ、きっと」

「俺が突然消えたらまずハツキの家探しに行けよ。アイツ、結婚したら何度でもお前の家に行ってやるって言ってんのに、ずっと独り身なんだぜ」

「結婚なんかできないでしょう、ハツキ様は。愛情の矛先がロウ様にしか向いてませんから」

「そんなんじゃあアイツが不憫すぎるだろ。俺のこの溢れんばかりの魅力がすべての元凶なだけに申し訳ねぇわ」

真剣なのかふざけてるのかわからない二人のやりとりを神妙な面持ちできく僕。自傷行為をしてまでロウの気を引こうとした女の子もいたのだから、今のヤバい思考の美形が何をしてもおかしくない気がする。ロウは見た目がよくて性格も(人狼には)とても優しいが、精神的におかしくなる程好かれてしまうのは何故だろう。やはりロウにはハレの妹と同じような周りを魅了する力があるのだろうか。なぜか僕には効果がないのだが。


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あきゅろす。
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