神様とその子供たち
003
「ご覧の通り、ロウ様は強靭といわれる人狼の中でも特に頑丈な身体をしています。テロリスト達の間では、歩く全身防弾ベストとも呼ばれています」
「す、すごいですね…!」
手当てを受けて包帯を巻かれ寝かされているロウの横でスイの説明を聞く僕。ものすごいあだ名をつけられているらしいロウは、実質ベッドに縛り付けられて不満そうにしていた。
「こんなのすぐ傷塞がるんだから、寝てる必要なんかねぇんだよーー。早く出ようぜ」
「いけません。少なくとも出血が完全に止まるまでは」
「いちいち大袈裟なんだよスイは。撃たれたのだってもう今年入って二度目だし、珍しいもんでもねぇのにさ」
「二度目なんですか?!」
驚く僕に「うん」と何でもないことのように頷くロウに面食らう。その頻度はさすがに高すぎじゃないだろうか。
「それくらいのこといちいち気にしてられねぇんだよな。そしたらやたら狙撃されるようになってさぁ。いくら俺でも目とか口の中とか狙われたら、ダメージあるかもだし」
「縁起でもないこと言わないで下さい。とりあえず、安全が確保できるまではここから出せませんから。キトラがあなたの無事を確認したくてうずうずしてますので報告に行ってきます。ここで大人しく安静にして下さい」
スイがそう言って出ていってしまうと、ロウはさっそく立ち上がりスクワットを始める。それを僕は慌てて止めた。
「ダメですよ! 動いちゃ!」
「うるせー。スイじゃねぇんだから俺に命令すんな」
「怪我してるんですから!! そんな無駄に動かないで下さい! 別にそれ今やらなくていいじゃないですか」
ロウを無理やり引っ張ってベッドに戻す。俺がロウを掴んでいたはずの手はいつの間にか逆にロウに掴まれていた。
「カナタが添い寝してくれんなら俺も安眠できるんだけど」
「……無理です」
「何でだよ」
「だってここにはスイ様以外の人狼の方も入って来られるじゃないですか。きっとみんなロウ様を心配して押し掛けてきますよ。なのに僕が一緒に寝てたりしたら……」
「うーん」
多分何人かは発狂するんじゃないかと思うのだが、ロウも一理あると思ってくれたらしい。僕をベッドに引き込むのは諦めてくれた。その代わりにやにやと笑ってこちらを見てくる。
「でもさっきのお前の号泣してる顔は笑えたなぁ」
「だって死んじゃったと思ったんですもん。普通はああいう反応になりますよ」
ロウがおかしそうに笑うのでむっとしながら言い返す。ロウの頑丈さを知らなかったので、むしろ周りが落ち着きすぎていると思ったくらいだ。銃弾に勝てるなんて最早人間でも狼でもない気がする。
「それはねぇよ。人間は全員、俺が死ぬことを望んでるからむしろ大喜びするだろ」
「えっ、そうなんですか」
ロウを崇拝している人間もたくさんいると思っていたが、そういうわけではないのだろうか。僕の周りは人狼だらけで人間の情報が入ってくるのはほとんどネットからだ。人間の世界のことを僕はそれぐらいでしか知らない。
「当たり前だろ。俺が人間を虐げてる元凶なんだから。俺がいなくなれば生きやすくなるだろうよ」
「それがわかってらっしゃるなら、もう少し人間にも優しくされてみるのはどうですか……」
「やなこった。あいつらが苦しんでるのを見るのが俺の生き甲斐だもん」
ガハハと笑うロウに僕はそれ以上何かを言うのをやめた。確かに僕がもし下級市民になっていたなら、ロウはいない方がいいと思ってしまうかもしれない。
「人間は俺を怖がるか恨むかのどっちかだけど、お前は最初からどっちでもなかったな」
「だいぶ怖いと思ってましたけど」
「いーや、ずっと俺のことかっこいいって目で見てたね。センリほどじゃねぇけど、俺も人の考えることある程度わかるから」
「えっ」
確かにロウを初めて見たとき美しすぎてびっくりしていたが、それは誰もが思うことだろう。いやここの人間はそれよりも恐怖が勝ってしまうぐらいロウを恐れているということだろうか。
「だからお前が他の人間とは違って見えんのかな。でも匂いまで違ってたもんなぁ」
ロウが不思議そうに僕を見て呟いていると部屋の扉がノックされる。ドアが開くとそこにはスイと泣きそうな顔のキトラが立っていた。
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