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神様とその子供たち
002


「ロウ様!!」

突然の事に僕は叫んでロウに駆け寄ろうとした。しかしそれより先にスイがロウの身体を抱きとめていた。

「ロウ!」

スイはいつものように様付けではなく彼を呼び捨てにした。ロウはスイに支えられ倒れる寸前で踏みとどまる。ロウの額には銃弾を撃ち込まれたであろう傷があり、胸には血がついていた。この時点で僕はロウが死んだと思ったが、彼は口を開いた。

「クソッ、やってくれるなゴミ共……!」

「ああ、良かった。しゃべれますね」

「当たり前だろ。スイ、お前はカナタと屋敷に戻れ。俺はゴミを捕まえる」

「だ、駄目です!」

「場所が正確にわかるのは俺だけだろ」

「それは私に任せて貴方は……」

いつもより荒っぽい口調でロウの腕を掴むスイ。ロウはそれを即座に振り払い突き飛ばした。

「そんな老いぼれの足で捕まえられるかよ。カナタと建物に引っ込んでろ。狙いは俺だ」

「お、老いぼれ…!?」

ロウは止める間もなく血を流したまま走り出し、目の前のビルを登りあっという間に姿が見えなくなる。スイは老いぼれ発言にショックを受けていたが、すぐに僕を脇に抱え走り出した。

「わぁ!」

スイの足で屋敷に戻るのは一瞬だった。ミサイルみたいに突進したかと思うともう屋敷の中だ。雑に放り投げられた僕とスイの元に青ざめたキトラが駆け寄ってくる。

「スイ様、ロウ様は!?」

「撃たれた」

「え!?? そ、そんな…!」
 
「手負いのまま狙撃手を追ってる。私も後を追うから、この人間を頼む。ロウ様の指示だ」

「ロウ様はご無事なんですか!?」

「私が見てくる。お前たちは警戒を怠らず、ここから出ないように」

スイが再び外へ出ていき残されたキトラは唖然としている。僕の方は心臓が今にも飛び出してきそうなくらいのショックで放心状態だった。ここの警備員達が集まって大騒ぎになっていた時も立ち上がることもできなかった。目の前の撃たれたロウの姿が目に焼き付いて離れない。胸と頭から血を流していた。あんなところを撃たれるなんて間違いなく重症だ。けれどすぐに立って走っていたのだから、弾はかすっただけなのだろうか。あの銃創は見間違い?

どれくらい時間がたったのかわからないがしばらくの後、入り口にロウが立っているのが見えた。とりあえず生きていることにほっとしたが、彼は血だらけのまま一人の人間を引きずっていた。背後には汚れた姿のスイもいる。

「ロウ様!」

「ロウ様ご無事で!」

集まってくる人狼達同様、僕も彼の元へ駆け寄った。今までびくともしなかった足が無意識に動いていた。

「カナタ、怪我ないか?」

ロウは後ろの方にいた僕に訊ねる。ロウの額にはやはり銃創があり、そこから血を流している。胸は服でわからないが鮮血が広がりが尋常ではなく明らかに重症だった。

「ロウ様、酷い怪我じゃないですか!」

「え? ああ二発もくらったからな」

「じゃあすぐに安静にして病院! 病院行かなきゃ駄目ですよ!!」

血まみれのロウを見てパニックになる僕。いま立ってるのが不思議なほどの致命傷だ。このままでは彼は死んでしまう。そう思ったら涙が止まらなかった。

「ど、どうしよう。ロウ様、こんな酷い怪我して…ああっ」

「落ち着け! 俺がこれくらいで死ぬか!」

頭を捕まれ軽く揺さぶられる。血まみれのまま言われてもまったく説得力がない。

「でも、そんなとこ銃で撃たれたら普通死んじゃう…」

「それは人間ならの話だろ。俺はもっと丈夫なんだよ」

「え?」

確かに撃たれて時間がある程度立っているのにここまで元気なのは変だ。人間ならとっくに息絶えてもおかしくないのに。

「それでも弾は取り出さないと危険ですよ。安静にしててください」

「なんだよ。撃ってきたやつ全員捕まえただろ」

「三人全員死んでました! 最後の一人はあなたが今持ってますが、死んでるようにしか見えません」

「え! 一応手加減したのに……」

「だから私に任せていただければ良かったんです」

ロウはスイの指示で無理やり担架に乗せられ人狼達に囲まれながら運ばれていく。その時もスイに向かって小言を言っていたので本当に大丈夫なようだ。僕の目の前にはロウが運んできた人間が倒れていたが、スイは男の死を確認して項垂れていた。

「キトラ、この人間の身元を探って下さい。おそらく下級市民でしょうが、なぜここまで侵入できたのか。それが一番の問題です」

「わかりました」

「とりあえず私はロウ様の所へ。何かわかればすぐに連絡を」

スイが僕の方を見て「あなたも一緒に」と言った。僕がついていくとスイは歩きながら泣きべそをかいている僕の顔を見た。

「とりあえずグズグズするのはやめなさい。私がいじめてるように見えます」

「は、はい」

「ロウ様が殺されかけて、泣きわめいた人間はあなたが初めてです。この中の誰より大騒ぎしてましたね」

「それは、ロウ様がそんなに丈夫だと知らなかったので……」

「しかも恐れ多くもロウ様を名前で呼んでいるとは。ロウ様から許可をもらったそうですね」

「……あ。はい」

「私はあなたがロウ様に近づくのは反対です。人間は信用なりませんから。でもきっとロウ様はあなたがいた方がいいんでしょう。あなたの方もロウ様を大切に思ってるみたいですし、私がそれを邪魔する理由はもうありません」

スイはその後はもう口を開かなかった。僕は彼の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかったが、恐らく僕がロウの側にいるのを認めてくれたということだろう。そしてスイは自分の感情よりもロウの気持ちを優先させるくらい、ロウの事を大切に思っているということだ。


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