神様とその子供たち
身を裂くような思い
結局、ロウは地村達を許してくれた。許すというよりは、僕がうるさいのでいうことをきいてくれただけだが。そしていつも通り僕を抱き締めて眠った。人間が生理的に無理だと言っていたのに、なぜか僕は平気でそれどころか一緒にいるとよく眠れて、理由はまったくわからないときた。本人はそれをあまり気にしていないようだが、それでいいのだろうか。
朝、目が覚めるとロウの顔が目の前にあった。それ自体は珍しいことでもないが、その時のロウは様子がおかしかった。
「……?」
ロウは歯を食いしばりながら、静かに泣いていた。なぜ涙を流しているのかはわからないが、眠っているのは確かだ。起きていたら僕に涙を見せないだろう。
「……ユ…キ……」
ロウが苦しそうに名前を呼ぶ。ユキという名前に聞き覚えはない。誰かはわからないが、なぜそんなつらそうな顔をしているのか。
「ごめん…ごめんな……」
ロウが俺を抱き締めながら謝るロウ。ずっとロウは自分の好きなように生きて、自由気ままで幸せな生活をしていると思っていた。しかし不眠症で苦しんでいる原因はもしかして過度なストレスなのではないだろうか。人狼は皆ロウを愛しているが、ロウはそれでは満たされたない程の傷を負ってるのかもしれない。
多分、僕がその理由を知ることはないだろう。だがロウの苦しみが少しでもやわらぐなら、少し抱き枕になるのくらいいいのかもしれないと思い始めていた。
次の日、予定通りロウは四群を出ることになった。ロウは人狼達に惜しまれながら一人一人と別れの挨拶をしていた時、僕は別室で地村と話していた。
「昨日の件はありがとうございました。阿東様が君主様に頼んで下さったそうで」
「いいえ、君主様は元々、そこまで罰を与えたいと思っているわけではなかったようですから」
地村達は悪いことをしたわけでもないのに罰を与えられるなんて理不尽だ。勇気を出して口出しして良かったかもしれない。
「まさか阿東様の頼みを君主様が聞き入れるとは思いませんでした。逆に阿東様が君主様に罰を与えられてしまうのではないかと、私ども一同ハラハラしていたくらいで」
「いや…君主様の機嫌が良くてよかったです」
僕は周りに誰かいないのを確認してから、地村にそっと近づいて小声で話しかけた。
「ここで働く人間の方は、いつもあのくらいの事で罰を受けたりしてるんですか」
「いえ、滅多なことではありません。あれは君主様相手にしでかしたことだったので……あのお方をわずらわせないようにするのは、人狼の元で働く人間全員の義務です。君主様が私たちを下級市民にしようと思えば気分次第でいくらでもできますから、むち打ち程度の罰で済んで良かったと思っていたくらいです」
「……」
僕の方は絶句していたがここの人間にとってはそれが当然なのだろう。僕もそれに慣れなければ。
「だが君主様にとってあなたは他の人間とは違うようだ。阿東様をきっかけに、君主様の人間嫌いが少しでも変わっていただければいいのですが」
「そう…ですね」
地村に言われて、確かにその通りだと思った。ロウが本当に僕だけが大丈夫だというなら、その理由を突き止めれば彼の人間嫌いもマシになるのではないだろうか。
しかしそれは僕がやるべきことなのだろうか。僕が一番やるべきことは元の時代に戻ることなのに、他のことにかまけている余裕などあるのか。
その後すぐにスイが僕を呼びに来たので地村とはここでお別れになった。お互い深々とお礼を言い合う。ロウは待つのが嫌いとのことなので走って出入り口に向かう。
「遅い! 何してたんだよ」
「ごめんなさい、お世話になった方に挨拶をしていて……」
「もう時間おしてるからさっさと行くぞ」
ロウが先陣きって早足で歩いていくのを僕やスイ、ロウ専属の警護の人狼達が追いかける。背後ではキトラやセナ達ここにいる人狼達が頭を下げて見送っていた。門の前にはロウ専用の大きなキャビーが停車している。僕が乗るのは後方の護衛用の方だろうと後方のキャビーを見ていると、ロウが門を出た瞬間、足を止めた。
「ちょっと待て、何か……」
ロウが何か言いかけた時、突然銃声音がしてロウの頭と胸から血が飛び出した。
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