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神様とその子供たち
007

ロウとスイがいなくなるとキトラはすぐに厳しい口調で警備員達を咎めた。

「お前たち! 許可なくロウ様の御前に出るとはどういうつもりだ!」

「申し訳ございません」

怒鳴るキトラに謝り続けるしかない地村達。緊急事態で仕方なかったんだと説明したいが、相手の怒り方を見るにそれは通じそうにない。

「お前たちには全員、鞭打ちの懲罰を与える。それまで待機していろ」

「鞭打ち!?」

キトラの言葉を思わず聞き返してしまったのは僕だ。皆の視線が僕に向く。

「何か言いたいことがあるようだな」

「あ、いえ、そういうわけでは……」

「お前はロウ様が連れてきた人間なのだから、こちらに畏まる必要はない。何かあるなら言いなさい」

言いたくないがそれすらも許されない雰囲気だ。仕方なく僕は恐る恐る口を開いた。

「鞭打ちって、よくわからないですけど痛いやつですよね。警備員の方達は君主様を守るためにやむなく出てきたと思うんです。だから与えるにしてもせめてもっと軽い罰にしていただけませんか……」

キトラは関係のないお前が口をだしてくるなんて不思議だ、という顔をしていた。警備員達は頭を伏せているので表情は見えない。

「ああ、そういえば地村は君につけた人間だったか。君が心を痛める気持ちもわかるが、ロウ様を怒らせた人間を罰するには妥当な罰だ。死ぬようなことはないから安心していい」

安心するどころか余計に不安になってしまった。死ななければ何をしてもいいというように聞こえてぞっとする。だが彼は僕を子供だと思っているせいかかなり優しい口調で話してくれた。これならちゃんと話せばわかってくれるかもしれない。

「じゃあもし、君主様が許してくださったら罰は必要ないですか?」

「はい? まあそれは……だがそんなことはあり得ないだろうな」

「君主様にお願いしてみます! だから少し待っていただけませんか?」

「ロウ様が人間の説得を聞き入れるとはとても思えないが……明日まで待つから、やるだけやってみればいい」

「ありがとうございます!」

「ロウ様に意見するなんて子供のくせに度胸があるな。それとも無鉄砲なのか。いや、そもそもロウ様が人間を連れてること自体ありえないが……君は何者なんだ?」

「……僕はただの、イチ様の使用人でゼロのお世話係りです」

本当にそれだけなのに、こう何度も訊ねられると自分でもよくわからなくなってくる。これ以上勘繰られないように、僕は必ず説得するから待っててくださいと言い残し頭を下げて部屋へ戻った。



その日もロウはいつも通りの格好、いつも通りの時間に戻ってきた。地村達のことを話すつもりでいた僕は起きていたのでロウを出迎えたが、彼はいつもより疲労しているように見えた。

「おかえりなさい、ロウ様」

「ああ……」

恐る恐る名前を呼んでみたが特に咎められない。許してもらったからか、それともそれに気づかないくらい疲れているのか。

「大丈夫ですか?」

「……俺は問題ない。レイヤも落ち着いたと思う。でも人狼でも自殺しようとする奴はたまにいるんだよ。特に女子はその傾向があるから心配だ」

「明日にはここを出るって聞きましたけど……」

「ああ、予定は変えられねぇ。レイヤにはカウンセラーをつける。レイヤの夫にも何かあればいつでも呼んでくれって言っておいた」

夫がいるの!? と顔に出さないようにしつつ驚く。なのにあそこまでロウに入れ込んでは離婚という話にならないか。いや、ロウが相手ならばならないんだろうな。

「あの、ロウ様にお願いがあります」

少しの間だが一緒にいて、ロウが好かれる理由はわかった。誰にでも優しく頼りがいがあり、それでいて偉ぶることなく気さくで優しい男だ。ただし、それは人狼に対してだけ。

「キトラ様が、ロウ様に近づいた人間に罰を与えるっていうんですが、どうか彼らを許してもらえませんか」

「え? 人間?」

何のこと? と言わんばかりの顔をしていたので今朝のことを再び説明する。ああ、と時間をかけてようやく思い出してくれた。

「鞭打ちなんて、そんなの酷すぎます」

「別に俺がやれって言ったわけじゃねぇけど…。でもそれくらいやった方が戒めになって良くない?」

「良くないですよ! ロウ様は人狼相手には優しいのに、どうして人間にはそんな厳しいんですか」

ロウはイチ様のように思いやりのある方だと思う。しかし人間に対する嫌悪感はすさまじく、全身で拒絶しているのがわかる。

「人間も優しい奴だって、ゴキブリは気持ち悪いし殺すだろ。それと一緒じゃねぇか」

「人間はゴキブリなんですか。ロウ様にとって……」

「ゴキブリ以下だよ。俺はゴキブリ嫌いじゃねぇし」

ベッドに四肢を伸ばしくつろぐロウは当たり前のように言う。彼は冗談でも脅しでもなく本気でそう思っていた。少なくとも僕にはそう見えた。

「じゃあ何で人間の僕をこうやって連れてきて、一緒のベッドで眠るんですか」

ゴキブリ以下の相手と一緒に寝て安眠できるとは思えないし、ロウには何か他の目的があるはずだ。イチ様と引き離すためと思っていたが、その方法なら他にいくらでもあるだろう。しかし本人に真正面から訊ねなければわからない。これ以上何を考えてるかわからない相手の側に居続けるのはしんどい。

「俺にもわかんねぇ」

「え」

「スイにも何度もきかれたよ。一体何考えてるんだって。頭がおかしくなったんじゃないかって疑われてる…ははっ…あの時のスイの顔はウケたな…。俺にも何でかわからねぇけど、最初からカナタのこと人間とは思えなかった。匂いが違ったからな」

「匂い?」

「人間は全員臭くて卑劣な匂いがすんだよ。でもお前にはそれがない。理由は知らん」

「……」

それを言われて唯一思い当たるのが、僕が過去から来たということだ。他の人間との大きな違いといえばそれしかない。そのせいで匂いが違うというのはあり得るかもしれない。

「俺の方こそ、お前が何者かおしえてほしいね。お前がいると安眠できる理由も全然わかんねぇし」

うまくはぐらかされたのかそれとも本当のことなのか。ロウの考えはセンリでもわかりにくいと言っていた。嘘をついているようには見えないが、僕にそれがわかるわけもなかった。


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あきゅろす。
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