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神様とその子供たち
004


その後、結局ロウは朝になっても戻ってこなかった。ロウもスイもいないので何をすればいいかわからず、あまりに暇だったので屋敷の人に外出してもいいか訪ねると、昨日案内してくれた地村が再び来てくれた。

「阿東様、今日はどこに向かわれる予定ですか」

「え。いや予定とかは特にないんですけど。ここにいてもやることなくって……」

よくよく考えると暇潰しのために仕事中の彼を呼びつけてしまったことになる。彼がいないと外出の許可が出ないので仕方ないとはいえ申し訳ない。

「すみません、お忙しいのに呼んでしまって」

「いいえ、これも職務ですので」

嫌な顔ひとつせず対応してくれる地村に行き先を告げようとしたが、どこにいけばいいのかわからない。お金もセンリが持たせてくれた分はあるが、どれくらい遊びに使っていいものか判断できない。

「あの、この近くで観光できるような場所はありませんか。あまりお金はないんですが……」

「か、観光ですか?」

我ながらのんきなものだと思うが、センリやイチ様も休暇だと思えばいいと言ってくれていた。この部屋にいるよりはずっと有意義だろう。

「では近くの池がある公園はどうでしょう。食事ができるお店も近くにたくさんありますし」

「そこにします! 行き方さえおしえていただければ一人で行ってくるんですが……」

ちらっと地村の顔色をうかがうも、それは駄目だと笑顔のまま首を横に振られる。僕としても彼にいてくれた方が心強いので、お願いして一緒に来てもらうことになった。

地村を通して外出することをキトラに伝えてもらう。彼の口からロウにも伝わるかもしれないが、止められることはないだろう。
屋敷から入るときはチェックを受けたが出るときはノーチェックだった。僕と地村は二人で家を出て、よく整備されたのどかな道を歩いた。大通りに出て人通りも増えてきた時、遠くに綺麗な池が見えてきた。

「あそこが公園ですか?」

「はい。お金を払えばボートにも乗れますよ」

「ボートかぁ…」

よく知らない相手と池でボートに乗るのは僕も地村も嫌だろう。それにイチ様の屋敷の湖の美しさを見た後ではどんな場所でも味気なく思ってしまいそうだ。

池に近づいていくと、上空に何か大きな丸い虫が飛んでいることに気づいた。ゆっくりと飛行するそれを凝視していると、それが虫ではなく人工的な機械だと気づいた。

「あの飛んでるのって何ですか?」

思わず地村に訊ねると彼は驚いた顔をする。どうやらあれはここでは珍しくないものらしい。

「監視カメラです。人の集まる場所にはたまに飛んでいますが、見たことありませんか?」

「えっと……あの、実は僕少し前に事故にあって、記憶が飛んでるところがありまして……」

自分の設定を話して物知らずな発言を怪しまれないようにする。すると地村の僕を見る目が段々と同情的になってきた。

「それは大変な苦労を……」

「ええ、イチ様が雇ってくださらなければまともに働けなかったかもしれないので、すごく助かりました」

「阿東様は、君主様のところにはいつまで?」

「それは……僕としてはすぐにでも帰りたいんですが……」

自分が帰りたいのはもちろんだが、残してきたゼロのことが心配だ。そしてゼロの世話を一人でしているであろうイチ様のことも。

「あの、阿東様は君主様と部屋が同じということは、同じベッドで眠っていらっしゃるんですか?」

「え」

あの部屋にはキングサイズとはいえベッドは一つしかない。部屋が同じというのならば当然の疑問だ。僕とロウが訳あって一緒に寝ているというのは秘密というわけではないが、できればあまり知られたくない。とりあえず昨日は一緒に寝ていないので否定しておこう。

「寝るときは、別です…」

「ああ、そうですよね! 失礼いたしました。まさか君主様とセナ様と、3人で寝所を共にするわけないですもんね」

「そんなの当然じゃないですか……って何でセナ様がいたこと知ってるんですか!?」

彼女が夜をロウと過ごしていたことだけでも驚きなのに、それをなぜ彼が知っているのか。驚く僕に地村の方が目を丸くしている。

「知ってるも何も、君主様はそのためにここに来たようなものじゃないですか」

「え」

「あのお方の女好きは有名ですよ。彼のために呼び寄せた数人の若い女性が数日前から屋敷に泊まっていますし」

「!?」

まさかあの屋敷でロウを見て騒いでいた可愛い女の子達のことだろうか。確かに、ロウが女好きというのは彼のことを調べた時にどこかの記事で見たような気もする。しかし、しかしだ。

「でもセナ様は既婚者ですよ? それも新婚の」

「そんなこと君主様には関係ありません。若い女性はみんな彼のものなんです。夫であるキトラ様だって喜んで妻を差し出します」

「!? こ、公認!?」

そんな公然の浮気があるのか。人狼は一度結婚すれば生涯お互いだけを愛し、浮気など万死に値する一族じゃなかっただろうか。

「人狼は女性だけでなく、男性もみな君主様を愛しているようです。妻に手を出されても、むしろ名誉なことだとすら思っているのです。人間の私たちには理解しがたいですが……」

「……」

まさか本当に浮気で、しかもそれが人間にまで公になっているだなんて。イチ様は父親のこういった行動をどう思っているのだろう。いや、そんなことは僕が気にすることではない。ただロウという男が何を考えているのか、どんな人物なのかわからないだけだ。

その後地村は愛想よく公園の案内をしてくれたが、その内容は僕の頭の中にまったく入ってこず、この日の外出は放心状態のまま終わってしまった。


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あきゅろす。
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