[携帯モード] [URL送信]

神様とその子供たち
003


その後、僕だけ早々に元いた部屋に戻された。ご飯も僕の分だけ部屋に持ってきてくれた上に部屋の中の広い浴槽を使わせてくれたので、高級ホテルにでも泊まった気分だった。
そのまま眠る時間になったが、ロウは一向に戻ってこなかった。勝手にこの大きなベッドを使っていいものかしばらく迷っていたが、夜12時を過ぎても戻ってこなかったのでベッドのはじっこで遠慮がちに眠ることにした。抱き枕として連れてこられたのだから、ここで僕が眠っていたからといって怒られることはないだろう。

一人で眠るのは久しぶりだったが、寂しさよりも不安が大きい。もうすぐ1時になろうとするこの時間までロウが戻ってこないということは、やはりロウは僕と一緒に眠る気などないのかもしれない。ここに連れてくる口実を探していただけで、息子と引き離すことができれば何でも良かったのだろう。
ロウと引っ付いて眠らなくてすむのはいいことだが、今度は僕をイチ様のところに戻さないようにするための口実を作ってくるはずだ。そのためなら何でもするというセンリの言葉が脳裏によみがえってくる。もう明日にでもセンリに助けを求めるべきだろうか。しかし、たかが一日寝室に戻らなかっただけでそうと決めつけるのは早すぎる。

そんなことを考えているうちに、疲れきった身体は休息を求めていたためすぐに眠ってしまった。夢も見ない深い眠りに落ちていた僕は、突然の人の気配と手の感触に飛び起きた。

「えっ!? な、なに!?」

目の前にはロウ様の顔のドアップ。今日はもう戻らないと思い込んでいただけに心臓が飛び出るかと思った。ロウはなぜかバスローブを着て髪は生乾きだ。風呂にでも入ってきたのだろうか。時計を見ると時間はもう深夜2時を回っている。こんな時間に起こされて僕は完全に目が覚めてしまったのに、向こうはもうお休みモードだ。このまま抱きつかれていては眠れやしないので彼の腕の中から逃げようとするとすると、すかさずロウがホールドしてきた。

「おいっ」

「は、はい!」

「……勝手にどっか行くなよ」

「はい!!!」

寝ぼけているらしいロウに怒られてすごすごとベットに戻る僕。風呂上がりなせいかとても良い匂いがする。僕が逃げないとわかったのか、イチ様が僕を抱き締めてくれたのと同じように手加減して抱き締めてくる。力のかけ方を間違えると潰れてしまうかもしれない。そう考えるとやっぱりおちおち寝てられないわけだが。
僕を抱き締めたロウは心なしか微笑んでいるような気がする。ご満悦なのはいいことだが、僕はこの後また眠れるのだろうか。

そんなことを考えて目を閉じてから数分後、突然部屋の扉が派手な音をたてて開いた。

「ロウさまっ!! ここに戻ってらっしゃったのね!」

そこに現れたのはキトラの妻として紹介されたセナだった。セクシーな寝巻き姿の彼女はずかずかと部屋に入ってきて、寝ているロウに飛び付いた。

「ロウさま、どうしてわたしの部屋からいなくなってしまったの? わたしが何か気にさわること……きゃあ!」

僕に気づいたセナが飛び上がって尻餅をつく。目覚めたロウがセナを見てうめいた。

「あーー、起きちゃったか」

「ロウさま、な、なんで人間なんかと一緒に……」

「まあ、ちょっと色々あって」

セナは唇を震わせ僕とロウを交互に見ている。僕はといえばセナの服の隙間から見えるセクシーな赤の下着と胸の谷間を見ないように努力していた。

「い、色々ってなんですか。わたしを残して、なんで人間の、しかも男なんかとベッドにいらっしゃるんですか? 今夜はずっと、わたしといてくださるんじゃなかったの?」

「ごめんごめん、まさかセナの目が覚めるなんて思わなくて」

「ひ、ひどいです。わたし今夜をずっと心待ちにしていましたのに。それなのに、うっ、うっ、うあああん!」

突然子供みたいに大声で泣き出したセナに唖然とする僕。しかしロウはセナを抱き締め優しくあやしはじめた。

「あー俺が悪かった。ほんとにごめんな。今から戻るから、許してくれ。な、本当にごめん」

セナの額に何度もキスをして立ち上がらせると、そのまま泣き続ける彼女の肩を抱いたまま歩き、部屋を出ていってしまった。部屋には訳がわからず放心する僕だけが残された。

「今のは…いったい……?」

キトラの奥さんであるはずのセナが、なぜロウと一緒に夜を過ごしているのか。深く考えれば考えるほど訳がわからない。いや、単純に考えればロウと浮気している。そういうことになってしまうわけだが。

「いやいやいや、そんなまさか」

百歩譲ってそうだとしても、そんな主人の屋敷で堂々と事に及ぶだろうか。僕が知る限り、人狼の世界で婚姻というのは非常に重い。男は女性を娶れるだけで幸運なのだ。浮気など絶対にあり得ないこととされ、既婚の女性に手を出すのは夫に殺されてもおかしくない重罪だ。男は妻が亡くなれば新しい嫁をもらうこともあるが、女性は生涯結婚相手だけを愛する。離婚は妻側だけが申し出ることができるが、それは夫にとって最悪の不名誉なのでどんな男でも女性には優しく尽くすので、離婚を申し渡されることはまずない。いくらロウといえど、新婚の妻に手を出すことなど許されるわけがない。

結局納得できるような答えは見つからなかったが、人狼のことはわからないことだらけだ。まだ僕の知らない習慣や風習があるのかもしれない。深く考えるだけ無駄だと悟って、僕はその後ロウのいなくなった部屋で深い眠りについた。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!