[携帯モード] [URL送信]

神様とその子供たち
人狼ハーレム


ロウという男は人狼達の王といわれている。日本を救った英雄として有名だが、今のところ積極的に政治に関わったりはしていないらしい。そもそも群れごとに方針が違うのでそれぞれのリーダーが好き勝手やっているし、全員をまとめる役目はイチ様が担っている。ならばいったいロウは何をしているのか。悠々自適の隠居生活にしてはタイトなスケジュールで、とても忙しそうなので気になってしまう。しかしロウとは早々に別行動になってしまったので何も聞けずじまいだった。

とりあえず四群に向かっている、ということだけは何とか聞き出せた。移動は豪華なキャビーでその周りを何台もの護衛の車両が取り囲んで走っている。その中の一つに特別に乗せてもらった僕はかなり居心地の悪い思いをしていた。運転手も護衛もロウの周りは人狼しかいない。筋肉の塊みたいな男達に囲まれていると、僕みたいな薄っぺらい体の男は女子供扱いされても仕方ないかなと思うまでになっていた。

スイの説明によれば、ロウの睡眠のためというのでは周りの反発が起きそうなので、イチ様にふさわしい人間なのか確かめるために僕はロウと一時的に行動を共にしている、ということにしたらしい。上から僕とは話すなと言われているのか、それとも職務中の私語は厳禁なのか、周りから話しかけられる事はなかった。けれどびしびし警戒心や敵意を感じるので、単に人間が嫌いなだけかもしれない。

三時間ほどで到着し僕はキャビーからおりるように言われた。都会の中にあるひときわ大きなビルの駐車場だ。誰かの家には見えないが、一体ここはどこなのだろう。誰かにききたいがきく相手がいない。ロウはこちらには目もくれずたくさんの護衛に囲まれてさっさと歩いていってしまう。僕はそのあとをかなり離れて後ろからついていった。

大きなパラソルの下にスーツを着た人狼が立っており、その中の一人がロウ様に近づいて頭を下げた。

「ようこそお越しくださいました、ロウ様」

「よっ、キトラ。久しぶり」

「職員一同、お待ちしておりました。ここは暑いので早く中へ」

さっと一人の人狼が大きなパラソルをロウの横に立て日陰を作る。パラソルはかなり重そうだが軽々と運んでいて、ロウはその運び手の男にも笑顔で話しかけている。この気安さは一群と同じだ。

「あれが例の人間だ。先にキトラの家に連れてってくれないか。俺が泊まる部屋に頼む」

「えっ…ロウ様のお部屋、で、ですか?」

「ああ。人間でいいから護衛をつけてくれ。大丈夫だとは思うが、イチからの預かりものだからな」

「わ…わかりました。準備いたします」

キトラというらしい男は僕をかなり胡散臭そうな目で見ていた。しばらくして僕の前に一人の男が現れた。

「あなた様の護衛を任されました、地村正人と申します。何があろうともあなた様をお守りいたします」

「あっ、僕は阿東彼方です。よろしくお願いします」

地村という男は人間だったが、逞しい大きな体をしていた。僕にこんな強そうな護衛が必要なのだろうかとも思ったが、案内人のようなものだろうか。

「では阿東様、こちらへ」

「あ、阿東様!?」

知らない人から様付けされて面食らう。まだ若いが僕よりはずっと大人だ。ロウと一緒に来たことで客人として丁重に扱ってもらえているのだろう。

「あ、あのこれからどこに」

「キトラ様のご自宅が近くにありますので、そこまで徒歩で向かいます」

「ご自宅……あの、ここって四群なんですよね」

「はい?」

何をいってるんだこいつは、という怪訝な目で見られてしまう。しかし何も知らないままでいる方が不安なので恥を忍んで訊ねた。

「訳がわからないままここまで来てしまって…。僕、イチ様のところでしか働いたことなくて、わからないことだらけなんです。おしえていただけませんか」

ロウはキトラと共に建物に入っていってしまったが、僕らは正反対の方向へ地村と共に歩いていく。ここからどこへ行くのかも定かではない。人狼達に囲まれる事がなくなったのでようやく一息つけた気がする。

「ここは四群の一等北エリアで、君主様と話されていたキトラ様は北区の頭領です。今から我々が向かうのはキトラ様の個人邸宅です。君主様はそこにお泊まりになると聞いていましたが、まさか人間である阿東様がご一緒とは……」

人間を嫌ってるロウが僕を連れ回してるのが信じられないといった様子だ。本当は僕をやめさせるためにイチ様から引き剥がしただけなのだが。

「一緒といっても殆ど別行動なんです。あの、君主様はここに何のために来られたかわかりますか? 何日くらいの滞在になるのか知っていればおしえて欲しいんですが……」

このままでは何もわからないまま、ただ連れ回されるだけなのは困る。だがロウやスイに気安く訊ねられる勇気もなければ機会もない。

「それは……まあ、査察のようなものです。大抵は長くても3日ですよ」

一瞬、言葉を選ぶように言いよどんだ地村に誤魔化されたような気がした。しかし初対面の僕に話せることでもないのかもしれないと思い追求はせず、「短い間ですがよろしくお願いします」とだけ言って頭を下げた。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!