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神様とその子供たち
010


「い、嫌です」

「……」

思っていたことと真逆の言葉が出てしまい自分でもびっくりしてしまう。いや、これがむしろ僕の本音なのだろう。

「はあ? 嫌とか俺に向かってよく言えるなてめぇ!」

「ご、ごめんなさい!」

「父さん」

イチ様が僕を守るように庇ってくれる。嬉しさのあまりその背中に抱きつきたくなったが、お父様の前なので我慢した。

「イチ……お前その人間の味方するんじゃねぇだろうな。誰がいつ父親に反抗していいっていったんだ? え? いくら可愛いからって俺が何でもかんでも許すと思うなよ」

「……」

「ほらまたロウ様、イチ様しょんぼりしちゃってるじゃないですか。ずるいですよ、ちょっと強く言ったら自分のいうこときくと思って。自分の子供を脅すなんて親のすることじゃありません!」

「センリ!!」

再びスイに怒られて「ごめんなさい」と謝るもセンリはロウと戦う気満々に見える。しかしイチ様の方は何も言えず俯いてしまっている。どうやらセンリの言う通りイチ様は父親にはどうしても逆らえないらしい。きっと今、僕と父親の板挟みになって苦しんでいるに違いない。
僕はここを離れたくないし、イチ様やゼロがいなければまたつらくて泣いてしまうかもしれない。けれどこのままではきっと家に帰れないままだ。そう思ったら口を開いていた。

「あの、僕行きます! いえ、行かせていただいてもいいですか」

「!」

僕の言葉に全員が驚いた様子でこちらを見る。言ってしまった後すぐに後悔したが、これでいいんだと無理やり言い聞かせた。

「本当にいいんですかカナタさん。ロウ様が怖くて言ってるんじゃないんですか?」

「少しの間なら……こちらにはご迷惑をかけると思いますが、許可をいただけるなら一度出てみたいです。外に出た方が、社会勉強になると思うので」

本当は元の時代に戻る方法を探すためだがそんなことは言えない。

「……そうですか。確かにそれもいいかもしれませんね」

センリは他にも何か言いたげだったが、それ以上は何も口にしなかった。意外とあっさり受け入れてくれたのは良かったが、言ってしまった以上もう撤回できないと僕は内心身悶えしていた。

「よし! 言ったな人間! だったらさっさと準備しろ。スイ、手頃な人間を用意しろ」

「いえ、カナタさんの代わりはこちらで用意しますのでお気遣いなく」

「そうか? ならよろしく。一時間後にはここ出るから、みんなに言っといてくれ」

「はい」

「じゃあいっちゃん、悪いけどしばらくこいつ借りるな」

ロウは去り際にイチ様の肩に手をおきながら笑顔でそんなことを言う。いつもの無表情なのでイチ様が何を考えているかはわからない。父に逆らわずにすんで良かったと思っているのか、僕がいないと困ると思ってくれているのか。

「あの、イチ様すみません勝手に決めてしまって」

「……かまわない」

イチ様はそれだけ言って部屋から出ていってしまった。怒らせてしまったのかとハラハラしながらセンリを見ると、彼もなんとも言えない顔をしていた。

「大丈夫ですよ。イチ様、怒ってはいませんから」

「そうですか……?」

早くも自分の発言に後悔している。行くなんて言わなければ良かった。いや、家族のもとに帰るためには必要なことだった、と自分に言い聞かせては悔いている。

「僕、ちょっと早まりましたよね……」

「いえ、ロウ様の命令を一度でもあんな風に断れるのはすごいですよ。あの方は何でも自分の思い通りにならないと気がすまない方ですから、こうなるのはわかってました…はぁ……」

センリの落胆が凄まじい。僕は彼になんと声をかけていいかわからず立ち尽くしているとセンリは胸元のペンとメモ用紙を取り出し何かを書いて僕に渡した。

「これは僕のプライベート番号です。これならすぐに僕に繋がりますので、何かありましたらすぐかけてください。その携帯端末はかしておきますので」

「センリさん…! ありがとうございます!」

センリの気遣いに涙が出そうなくらい感動する。と同時に真崎が僕におしえてくれた番号のことを思い出した。あれは今のところ使う機会はないが、ちゃんと覚えている。人の親切に助けられていると感謝するばかりだ。
ロウに近づけるチャンスなどこれを逃したらもうないかもしれない。元の時代に戻るための方法を知っている可能性がある相手だ。ここに戻ってくるまでにダメ元でも何か手がかりを聞き出さなければ。


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