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神様とその子供たち
008


その日もゼロは殆どイチ様と一緒にいたので僕はお役ごめんだった。センリが僕に正式に休みをくれたので外出しても良いと言われ少し興味もあったが、世間知らずの僕が一人で外に出て何か問題を起こしても困るのでやめておいた。

気分転換に廊下を歩いたり庭を散策していたが、警備員以外の姿が見えない。話を聞くとロウがここの従業員全員とバーベキューをしているらしい。なんとも和やかで良いことだが、僕は鉢合わせしないようにと散歩もそこそこに部屋へと戻った。

その日の昼食も夕食もセンリがもってきてくれた。どうやらセンリは僕と話したかったらしく目の前に座った。

「カナタさんって、ロウ様と何かあるんですか」

「何か!?」

僕がカレーライスを食べる前でセンリが質問してくる。なぜそんな質問をされるのかわからず動揺しているような態度をとってしまう。

「何もないですけど、なぜ……」

「ロウ様があなたのことをしきりに聞いてくるんですよ。まああの方がイチ様の家に住む人間の事を調査するのは当然ですけど」

もしかして、ロウは僕の事を怪しんでいるのかもしれない。僕は本当は阿東彼方ではない。写真も違う人間だし、ちゃんと調べればすぐにボロが出てしまう。

「あなたの出身地とか、どんな環境で過ごしたのかとか…僕もあまり詳しく知らないので答えられなかったんですが。何せカナタさんは記憶喪失ですし」

阿東彼方のプロフィールは頭に入れているが、すべてが僕の人生ではないのだ。データに残っている以外のことは想像で補うしかない。しかし生半可な言い訳をしてもセンリには僕の嘘がバレてしまうかもしれない。

「そうですね、僕も記憶があいまいなので……君主様とも僕が覚えていないだけで、どこかでお会いしたことがあるのかもしれません」

あくまで嘘はつかず、本当のことは言わない。事故の影響で記憶が曖昧だという設定に助けられている。センリの目線は窓に向けられていてこちらを注意深く観察しているようには見えない。今のところ僕が疑われているわけではないようだ。

「いえ、それはないと思います。あなたが忘れていてもロウ様は一度話したことのある相手の顔は忘れませんから。僕が気になったのは、あなたを調べるというよりは興味があるような素振りだったことです」

「興味……?」

「ええ。人間のことは毛嫌いしても深く知りたいなんて思う方ではありませんでしたから」

まさか出会った瞬間に僕が過去から来たイレギュラーな人間だと察知したわけではあるまい。しかし他にロウが僕を気にする理由がわからない。ずっと探している、僕をこの時代へ連れてきたタイムマシンがあるのならロウはその存在を知っているかもしれない。しかし、未だにイチ様からすら情報を得られていないのにロウから何か聞き出すなんでできない。

「あ、そうだ。とりあえず、カナタさんは今日こちらで別に寝てもいいそうです。ただロウ様はイチ様と寝る気満々みたいですけど」

「良かった…! じゃあゼロはこっちで預かりますね。もし夜に吠えたりしたらイチ様の迷惑になりますし…」

イチ様は明日仕事なので今夜はしっかり眠ってほしい。僕は今日昼寝もしたので多少眠れなくても大丈夫だろう。

「カナタさんって、イチ様のこと好きですよね」

「え!?」

「あのロウ様が来られてるのに、興味もなさそうですしイチ様のことしか気にしてないじゃないですか。普通の人間ならロウ様しか目に入らなくなるはずなのに」

「はあ……」

そう言われても僕にはピンとこない。確かにここではまるで神のように扱われているロウだが、僕にとってはあまり関わりたくない存在だ。

「まあ今夜までの辛抱です。2日も休んだ分、明日からは忙しくなりますからね」

そう言ってセンリは部屋から立ち去る。明日のいつ頃出ていくのかは知らないが僕が目覚める頃にはいなくなっていればいいななどと考えていた。


その日の夜、ゼロは自分の部屋に連れてこられていた。最初はイチ様を求めて吠えていたものの、一緒に寝られない理由をこんこんとわかりやすく説明すると大人しくなる。やはり僕らの言葉を理解しているらしい。

「僕だけでごめんねゼロ。明日からはまた一緒に寝ようね」

ゼロを抱き締め目を閉じる。久しぶりに一人で眠ると寂しさが募ったがゼロが間近にいるので泣き出すこともなく眠りについた。



「……ん?」

朝の日の光で目が覚めるも、なぜか背後に温もりを感じる。また誰かに抱き締められているのだ。目の前にはゼロがいてすやすやと寝息をたてている。たしか昨日は一人で寝たはず…と振り返るとそこにいたのはロウだった。

「いや何でだよ!!」

あまりことについ大声で叫んでしまう。昨日と同じくロウの抱き枕にされてしまっている。しかし昨日は同じベッドにいたが、今日は部屋が違うのだ。ここは間違いなく僕とゼロの部屋で、なぜここにロウがいるのかまったくわからない。

「あの、は、離してください!」

またしても腕の中に閉じ込められて身動きできずに叫ぶ。僕の声に反応してか彼の大きな耳がぴくぴくと動いた。

「んんっ……」

「うわっ」

そのまま首筋に顔を埋められ鳥肌がたつ。食べられるかもしれない、という恐怖で僕は一気に血の気が引いた。

「離せって言ってるだろっ!」

僕の大声にロウもゼロも目が覚め、彼の力がゆるんだ一瞬の隙に腕の中から脱出した。ロウは呑気に目を擦っていてかなり眠そうだ。

「何でここにいるんですか? ここゼロの部屋ですよね…!?」

「あーーうるせぇな…せっかく爆睡してたってのに……」

さすがにこんな状況では息子と間違えるわけがないし、まさか僕を亡きものにするために寝所に忍び込んできたんじゃないだろうな。だとしたら一緒に寝ている意味がわからないが。

「でもこれでわかったわ。やっぱりお前が原因だったんだな」

「?」

ロウの言葉の意味がわからず首を傾げる。ロウは満面の笑みを浮かべて僕の手を掴んだ。

「お前、ここを辞めて俺と一緒に来い」



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