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神様とその子供たち
007


その夜、結局左からイチ様、ゼロ、ロウ、僕という恐ろしい並び方で眠ることになった。それでも十分すぎるベッドの広さはあるのだが、僕としては一睡もできる気がしない。ロウがいなくなった後センリとイチ様は謝ってくれたが、僕を自分の部屋には戻してくれなかった。僕という邪魔物を口実にして息子と眠れることにロウは大変喜んでいるので、それを今さら止めることはできないらしい。

まくらを抱えて戻ってきたロウはイチ様と同じ寝巻きを着ていた。あまり感情が表に出ないイチ様もこれには困った表情を隠しきれていない。にこにこしながらイチ様とゼロの隣に寝転び、近づくなオーラを出しながら僕を端っこへ追いやると、自分は息子の方を向いて上機嫌だった。

「こうしてると昔を思い出すなぁ。いっちゃんはパパがいないと怖くて眠れなかったのに、今はこんなに立派にな……むっ」

イチ様に口を塞がれたらしいロウが静かになる。黙って寝てくれ、というイチ様の気持ちが顔を見なくてもわかった。

「おやすみなさい、父さん」

「……お、おやふみ」

電気も消え、僕はベッドから落ちそうなくらいロウ達から離れて目を閉じる。ロウの隣は落ち着かないが、イチ様と二人きりで引っ付いて眠るのもドキドキするので、ここまで彼らとの距離がある方がむしろ眠れるかもしれない。ロウは上機嫌でこのままいけば何事もないだろうと思うと気が楽になり、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。



朝、寝苦しさに目を開けると後ろからやけに逞しい腕に抱き締められているのに気づいた。まさか父親がいるにも関わらずイチ様が寝ぼけて抱きついていたのかと焦って振り返ると、そこにいたのはイチ様ではなくロウだった。

「ぎゃあああっ」

逃げるために慌てて腕を振りほどこうとしたがビクともしない。むしろ逃がさないとばかりにさらに強く締め付けてくる。僕の悲鳴にイチ様が気づいて飛び起きた。

「カナタ……?!」

僕を完全に抱き枕にしているロウをみて唖然とするイチ様。僕でも信じられないのだから当然だ。

「た、助けてくださいっ」

助けを求められてようやく我に返り父親の腕を引きはがす。ガチガチの腕が開きようやく抜け出せる、と思ったときロウが目覚めた。

「? いっちゃんどしたの……って何だお前!」

僕の存在にようやく気づいたロウが突き飛ばすように僕の身体から手を離す。全員寝起きなので状況を誰一人しっかりと理解できてはいないが、これから理不尽に怒られる事だけはわかった。

「人間のくせに俺に気安く近づいてんじゃねーー!」

「近づいてません! 僕は普通に寝てただけです!」

こちらのせいにされてはたまらない、とロウ相手に堂々と反論する。おそらく僕とイチ様を間違えたのだろうがそれは断じて僕のせいではない。

「俺が悪いって言うのかこのちんちくりん! ……っていま何時だ? 7時!?」

壁に映し出されているデジタル時計は7時18分。いつもなら僕もイチ様も起きている時間だ。今日は休みなので時間を気にする必要はないはずだが、ロウはやけに慌てている。

「嘘だろ……!」

「父さん?」

「俺、一度も目覚めなかったぞ……何でだ」

ロウの言葉に僕が顔をしかめていると、扉が開きセンリが姿を見せた。朝とは思えない爽やかな笑顔だ。

「おはようございます、よい朝ですね! 皆様ご機嫌いかがですか〜?」

「……おはよう、ございます」

返事をしたのは僕だけだったがセンリは気にしていない。ベッドの上でなぜか呆然と座っている僕たちを見ながら笑顔で話を続けた。

「朝食を用意しますのでご準備ください。ロウ様、着替えをこちらにお運びしましょうか?」

「……いや、いい。自分で戻る」

「わかりました。では1時間後に食堂にお越しください。ロウ様、スイ様が迎えに来られていますよ」

「げっ」

スイ、とは確かロウの付き人の名前だ。てっきりセンリのような若い見た目の青年かと思っていたが、スーツ姿の彼は好好爺のような佇まいで現れた。

「ロウ様、おはようございます」

「あー…出迎えご苦労さん」

スイは初老の男性で、獣耳はかなり小さく人間に近い風貌をしている。彼はイチ様に昨晩のことで礼と詫びを言い、心ここにあらずのロウを連れて部屋から出ていく。センリはそれを見送った後、僕の方を見た。

「何があったんですか?」

「いや、あの、僕もよくわからないんですが……」

今朝の出来事をセンリに話すと、しばらく考え込んだ後笑って僕の肩を叩いた。

「それは災難でしたね。食料と間違えて食べられなくて良かったです」

「ええっ」

「まあ、冗談はさておき。人狼は鼻が利くのでイチ様とカナタさんを間違えるなんてあり得ないと思いますけど。余程カナタさんから美味しそうな匂いがしたんじゃないですか」

「そんな…納得できない……」

そんな理由で知らないうちに抱き枕にされて逆ギレされたのか。長く抱き締められていたせいか体がカチカチに固まっていた。

「あの、君主様はいつまでこちらに……」

「あの方がいる限りこっちも自動的に休みをとらなくてはなりませんから、明日の朝までが限界でしょう。向こうも多忙ですしそれまでの辛抱です」

「ということは、今夜もこのスタイルですか?!」

「……別々に眠れるように後で話してみます。チビさんがごねたら説得お願いしますね」

「あ、ありがとうございます…!」

センリの申し出に深々と頭を下げる。ゼロには悪いが今夜はどちらかとだけ一緒に寝てもらわなければ。また明日もこんな風に起こされたら心臓がもたないだろう。


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