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神様とその子供たち
004


人狼の王、ロウ。名前はそれだけ。上にも下にも何もつかない。写真やテレビでしか見たことはないが、見た目はイチ様よりも若く、長い手足と均整のとれた顔は男として完璧な容姿だ。大きな耳と尻尾と牙、人間にしては鋭そうな爪を持つ手と輝く銀髪が彼が人間ではないことを思い知らせてくれる。美形揃いの人狼の中でも特別輝いて見えた。そんな男が、いま目の前にいて朗らかな笑顔を見せていた。

「いっちゃん! パパだよ〜〜」

突然現れたロウは部屋に入るなりイチ様を強く抱き締め、イチ様はされるがままロウに振り回されている。唖然とする僕の前でひとしきり頬擦りしてようやく満足したのか、ロウは笑顔でイチ様から離れた。

「しばらく来れなくてごめんなぁ。パパ忙しくて、これでも頑張って時間見つけて来たんだぞ」

「……」

「いっちゃん怒ってる?」

「怒ってない」

「良かった!」

再び抱き締め第2ラウンドを始めるロウのテンションの高さに圧倒されるも、隣で見守るセンリはまったくの無反応なので普段からこんな感じなのだろう。まるで数年会えていなかった親子の再会かのような抱擁だ。話には聞いていたがイチ様への愛が凄い。うちの過保護気味の親ですらここまでではなかった。とっくに成人済みの息子に毎回こんな調子ではイチ様はさぞ苦労しているだろう…と思っていると、いつもは無風のイチ様の尻尾がゆらゆらと揺れているのに気がついた。

「パパいっちゃんに会えなくて寂しかったよーー。いっちゃんは? 寂しかった?」

「……まあ」

「あーー! ごめんなあ。次はもっと早く来るからなぁ」

ぎゅっと父親を抱き締め返すイチ様の尻尾がかつてないほど嬉しそうにパタパタ揺れてるのを見て、イチ様の方も父親が大好きなことを思い知る。顔は無表情のままだが尻尾が喜びを隠しきれていない。

「センリ、お前も元気にしてたかぁ?」

長い時間息子を抱擁した後、今度は後ろに控えていたセンリを優しく抱き締めるロウ。センリはいつも通りの笑顔でされるがままになっていたが、ベタベタ触られるのは苦手なはずの彼の尻尾がイチ様に負けないくらい喜んでいた。

「いっつもイチのこと助けてくれてありがとなぁ。センリ、お前また誰かに求婚されてないか? 恋人ができた時はちゃんと俺にも紹介するんだぞ」

「そんな予定はありませんのでご心配なく」

いつもと変わらない様子で返事をしているが、手はロウの背中にまわっているし、尻尾だけ見るとおおはしゃぎだ。お菓子をもらって喜ぶハレ以上にぶんぶん揺れている。今まで見たことのないセンリの態度に僕は彼の尻尾から目が離せなかった。いざとなったらロウに反論できるのは自分だけだと言っていたが、本当に任せてもいいのか不安になってきた。

「で、チビ太郎はどこだ?」

「カナタさんに抱っこしてもらっています」

センリの言葉にずっと僕の方を一瞥もしなかったロウと目が合う。今の今まで浮かべていた満面の笑みは消え冷たい視線で見下ろされて思わず身がすくんでしまった。初めて間近で見るロウはアガタ程大きいわけでもないのに強者のオーラが凄まじく、そして今まで見たどんな人狼より美しい顔をしていた。

「チビ太郎〜元気にしてたか?」

僕への冷たい視線を一瞬で引っ込め、ゼロに向かって腕を伸ばしてくる。人狼嫌いのゼロをわたしてもいいものかと思っていると、センリが頷きながら促してくれた。

「ロウ様になら、預けても大丈夫ですよ」

暴れてもすぐに対応できるよう構えながら恐る恐るゼロを差し出すと、ロウはひょいと簡単にその小さい身体を抱き上げてしまった。

「お、ちょっと大きくなったか? 相変わらずお前はふわふわで可愛いなぁ」

尻尾をふって喜ぶことはないまでも、抱っこされても大人しくしている。人狼はイチ様以外怖がるはずなのになぜロウは大丈夫なのだろうか。そのままゼロをひとしきり撫でたあとこちらには返さずイチ様に預け、僕にゴミでも見るかのような視線を向けてきた。

「で、お前が厚かましくここに住んでるっていう人間か。この身の程知らずめ」



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