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神様とその子供たち
002


その日僕はゼロの散歩中にハレに声をかけられた。やけに嬉しそうに尻尾を振っていると思ったら、手元に美味しそうなパウンドケーキが入った袋を持っていた。

「これ、ヒジリさんがお土産に俺とカナタにくれたやつ。一緒に食べようぜ」

ヒジリさんというのはここで働くメイドの女性だ。四人の娘がいて先日実家のある二群に帰った際にお土産を買ってきてくれていた。

「ヒジリさんのお土産なら僕もうもらったけど…」

「それはみんなにくれたやつだろ。これは俺達だけの分」

前々から思っていたがここの人狼達はみな僕とハレに甘い。ヒジリさんは自分に息子がいないからと特に僕やハレにを気にかけてくれる女性だ。僕ら2人にだけ余計にお土産を買ってくれるなんて、嬉しいことだ。一応堂々とは食べるのは控え、人気のない木陰で2人座って並んでそのパウンドケーキを頬張った。

「なにこれ、美味しい〜」

「だろだろ。これ二群では有名でなかなか買えないんだ。ヒジリさんに頼んで買ってきてもらった!」

それは完全にねだってると思うのだがハレが幸せそうなのでまあいいかと思う。今日も尻尾をたくさん振って喜びを表現している。

「ここの人達って、みんな僕とハレに優しいよね」

僕の場合は人間なので特別扱いしてくれているのかと思ったが、観察しているとハレもよく構われている気がする。

「そりゃ俺とお前がまだ子供扱いされてるからな。男で若いのってちょっと珍しいし」

女性と違い男性は若い容貌をしている者が多いが、実年齢は100歳近い者が何人もいる。ハレはまだ19なので見た目も特に若々しく、人間からみれば立派な体格だが人狼としては細身な気もする。

「何で若い男が珍しいの?」

「あー、人狼ってある程度産みわけができるんだよ、性別の。それで女子を産みたいって母親が多いから、男が少ないんだよな」

「そうなの?!」

確かに言われてみればハレもセンリも妹や姉が多い。全体をみると男が多いので気がつかなかった。

「でも男性の方が長く生きられるのにどうして…?」

「いや〜実際男は大変だぜ。なかなか死なないから飽和状態だし、結婚するのにも一苦労だし、鍛えて強くならねぇと認めてもらえないし。その点女は男に大事にしてもらえるからな」

「へぇ…」

人狼ならば男の方が長く生きられるし何でもできそうだし、僕からすれば女の方が良い人生を送れるかというと疑問だが、実際に子供を産む女性がそう思うのであればきっとその通りなのだろう。

「そういやこの前、トガミ様が来られてただろ」

「うん」

「センリ様怒ってなかった? トガミ様のこと超嫌ってるからモメてなかったかと思って」

「怒って一一たのかなあれは…」

なぜか周りに人もいないのにヒソヒソ声になるハレ。僕も反射的に顔を近づける。

「ここだけの話、トガミ様ってセンリ様がまだ若い頃から何度もアプローチしてたらしいんだけど、断り続けてたらセンリ様が片想いしてた女の子と結婚しちゃったらしいんだよ」

「えっっ…!」

驚きすぎて変な声を出してしまった。それは誰でもショックを受けるだろうし、根にも持つだろう。

「まあその女性はもう結構前に寿命で亡くなってて、その後トガミ様はどんなに見合いの話が来てもずっと断ってセンリ様に求婚してるんだけど……」

「ええ〜……」

その話が本当ならよく我慢したと思う。昔のこととはいえ、そんなことがあってよく口説いたりできるものだ。

「トガミ様みてぇな権力ある人の考えることってマジわかんねぇよ。センリ様にそんなつらい思いさせるとかマジないわ」

「……ん? まさか、ハレもセンリさんのこと好きなの?」

「馬鹿。好きとかそういうんじゃなくて、俺のはただの憧れっていうか…。つーか男でセンリ様のこと嫌いな奴なんかいねぇからな。側で働いてるっていうだけで、俺が周りからどれだけやっかまれてるか…」

つまりはみんなのアイドルみたいな存在ということなのか。一瞬イチ様もセンリが好きだったらどうしようと思ったが、むしろ恋愛感情がないからこそセンリはイチ様の近くで働けてるのかもしれない。

「僕からすればセンリさんが男にばっかりモテる理由がわかんないけどなぁ…。可愛いというより格好いいし、センリさんと結婚したいって女性なんかたくさんいそうに思えるけど」

「だから人間と俺達は違うんだって。力が強い奴の独断場だから、一度も結婚出来ない奴もいれば何度も嫁をもらってる奴もいるよ。男同士で結婚する場合もあるけど稀だなー。そんなら人間の男と一緒に住んで女がわりにしてる奴の方が多いくらいだ」

「ああ……たしかナナ様がそんなことをしてたような…」

「表向きはただの使用人だけどなー。年取ってもクビにしないだけあそこはマシだよ」

よくよく考えると僕はここでその立場になりたがっているということなのだろうか。人を好きになったことがない僕がそんな事を考えるようになるとは。環境というものはここまで人を簡単に変えてしまうのか。

「もし、カナタがここをやめることになったら……いや、チビが成長してもイチ様はやめさせたりしないと思うけど、もし、やめたくなったら俺が雇ってやってもいいからな」

「へ?」

「俺は金貯めて、いつか大きな家買うからさ」

そう言ったハレは照れ臭そうに僕から目をそらす。そんな日がこないことを祈ってはいるが、彼の気持ちが嬉しかったので、ゼロが僕の横でお昼寝をしているのを確かめてから「ありがとう」と返した。


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