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神様とその子供たち
僕とシロの話


幼い頃、僕は少し浮いた存在だった。
教育熱心な母親に育てられたせいなのか、はたまた元々の性質なのか、底抜けに真面目で勉強や習いごとばかりしていた。友達と一緒にいたずらしたり、危険な場所に遊びに行ったり親の悪口を言ったり、そういう事ができなかった僕は周りからは変わり者扱いされていた。協調性よりも自分の意思を貫く頑固な性格だったのだ。

クラスメートが自分の事を馬鹿にしていることにも気づいていたし、孤立しているのも知っていた。それがつらくないといえば嘘になるが、学校からはいつか抜け出せるとわかっていたから我慢もできた。

それに家には家族という何よりも大切な存在がいて、彼らと過ごすことが心の支えになっていた。人間不信のようになっていた僕がそれなりに楽しい人生を送れていたのは父と母、そして兄達のおかげだろう。
そしてその中で、一番僕の側にいてくれたのが、愛犬のシロだった。
彼は雑種の中型犬で、テレビでよく見る血統書つきの犬に比べると少し貧相ではあったものの、僕からすれば他のどの犬よりも可愛かった。

年の離れた兄しかおらず、遊び相手に飢えていた僕がペットがほしいとねだった時、両親は自分で世話をするという条件で了承してくれた。
親の方針で犬はペットショップではなく保健所で気に入った子を引き取った。小犬ではなく成犬だったが、つぶらな瞳がなんともいえず愛らしく、僕はすぐに夢中になった。散歩もしつけも小屋の掃除も頑張ったが、当時はまだ子供で世話が面倒だと思ったことは何度もある。一番上の兄、祐希と二番目の兄の光輝は何度頼んでも手伝ってくれずむくれていたが、今思うと自分で世話をするという約束だったので親が兄達に言い聞かせていたのかもしれない。僕が体調を崩したりしたときだけは、一番上の兄が代わって世話をしてくれた。

ちゃんとしつけができるまでは無駄に吠えたり家の敷地内でフンをしたりと大変だったが、それでも僕は両親にアドバイスをもらいながらも根気よく世話を続けた。それらをすべて我慢できるほどの可愛さがあの子にはあったからだ。
名前をつけるのが苦手な僕はその犬の事をしばらくワンコと呼んでいた。しかし健康診断とワクチン注射のため動物病院にお世話になるときに犬の名前を書かなければならず、ワンコと書くのはなんとなく忍びなくてその時にシロと名付けた。白というにはかなり煤けていたが、その名前はすぐに馴染んだ。

シロは本当によく僕になついていた。我慢強くおしえると芸も覚えて、こいつは誰よりも賢い犬だと本気で思っていた。

でも、可愛いシロはうちにきてたった四年という短さで死んでしまった。病気だったから仕方ない、と両親は慰めてくれたが、しばらくの間毎晩のように泣き続けた。なぜもっと早く異変に気づいてやれなかったのか、自分の育て方が間違っていたのではないかと後悔ばかりの日が続いた。

塞ぎこむ僕を心配して両親はまた犬を飼おうと提案してくれたが、僕はどうしてもその気になれなかった。シロがいない寂しさを紛らわすことはできるかもしれないが、また死なせてしまったらと思うと飼う気にはなれなかった。ちょうど受験の時期と被っていたこともあり、シロを忘れるように勉強に没頭した。

悲しみは時間が解決してくれた。シロはきっと幸せだったと今では思うことができる。シロの写真を見返せるようになるまで時間はかかったが、今では大切な思い出の一つだ。



シロがいなくなってから約三年。僕は、18になっていた。やっとの思いで合格した私立の進学校では、すっかり大学受験モードだ。
もちろん僕も将来の事を考えなければならず、漠然としたものだがなりたい職業は決まっていた。動物に関わる仕事がしたい。トリマーでも動物園の飼育係でもペットショップの店員でもいい。獣医は動物の死を見る機会が多いだろうと敬遠していたが、とにかく、動物の側で働きたかった。

幼い頃と比べると人並みに同級生と接することはできるようになったが、親友と呼べる相手はいない。当然ながら彼女もいない。しかしそれで良かった。自分でもひねくれているとわかってはいるが、いまだに他人と付き合うのは苦手だった。その点、動物は人間と違って複雑でなく純粋で、触れ合うだけで心が洗われるようだった。

僕は勉強ができたので、母親の期待を背負っている事は薄々感じ取っていた。特にうるさく言ってはこないが、きっと将来は父親や兄達と同じ医者になってほしいと思っている。やりたいことを正直に話せばきっと反対されるだろう。僕も両親と同じ立場なら反対するだろうから気持ちはわかるだけに益々言い出しづらかった。

僕の事を唯一わかってくれそうな一番上の兄に相談すると、時期を見て一緒に親に相談しようと言ってくれた。けれどなかなか言い出せないまま高校三年生になり、将来の道を決めなければならなくなった今でも自分の夢を親に話せないでいた。


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