神様とその子供たち
002※
「人間が人狼のためにここまで必死になるとか、お前も相当イチ様に毒されてんな」
アガタが笑いながら僕の片足を持ち上げ足を開かせる。心臓が破裂しそうなくらい鼓動していたが、奴がこっちに集中してくれている間は少なくともゼロは無事だと思い必死で耐えていた。ゼロが近くにいる気配はないので、多分逃げてくれたのだと思う。
「人間は、ただ俺達を怖がって敬ってりゃいいんだよ。仲良くなろうとか愛人になろうとか思うだけ無駄だぜ。気分が乗った時にヤらせてくれりゃあ、少なくとも役には立つんだから」
「アガタ様は、一群で、一番強いんですよね…」
怖くて目をぎゅっと閉じていた僕だが、ゼロがこの場からいなくなったので少し強気になって口を開いた。なんとか思いとどまってほしくて恐る恐るだが説得を試みる。
「一群で、じゃない。俺は人狼の中で間違いなく一番だ」
「なら僕みたいなの相手にしなくても、モテるでしょう」
とにかく強い男がモテるのが人狼だ。アガタの性格がどんなに悪くても相手に困ることはないはずだ。
「もちろん俺と付き合いたい結婚したいって女はたくさんいるけど、まだ自由に生きたいんだよ。男相手なら気兼ねなくやれるしな。人間なら尚更」
「でも、アガタ様はセンリさんが好きなんじゃ…」
「ああ?」
どうやら僕は彼の地雷を踏みつけたらしかった。恐ろしいとしかいいようのない顔で僕を睨み付け牙をむく。殺されるかもしれない、と命の危機を感じた。
「……決めた。お前が泣き叫ぶくらい何度も犯して、二度とそんなクソ生意気な口きけねぇようにしてやる」
「ご、ごめんなさい。怒らせるつもりは……うあ!」
指を後ろに容赦なく捩じ込まれ暴れそうになった時、再び目を見られて動けなくされる。叫ぶくらい痛いのに動けないのは想像以上につらかった。
「うわっ、いた、あ、ああ…」
無理やり太く長い指を入れられ掻き回され涙目になる。ぐちぐちと恐ろしい音が聞こえ痛みと中が切れるのではという恐怖に震える。夢でイチ様に色々とされた時は気持ちよくて幸せですらあったが、あれは所詮すべて夢だ。現実はそうはいかない。アガタが自分の性器を僕の前に出してきた時、あまりの大きさに悲鳴をあげた。
「無理!!! そんなの入れたら死ぬ!」
死に物狂いで逃げ出したいのに身体が動かないので泣き叫ぶしかない。もはや目の前の男が自分を殺そうとする猛獣にしか見えなかった。
「うるせーなぁ。いきなり叫ぶなよ」
「ふ、ふ、ふざけんな! お前、そんなことしたら、絶対許さないからな…っ」
パニックで口が悪くなる僕に驚くアガタ。僕なんかが人狼に力でかなうわけがなく、思い付く限りの悪態をつくしかなかった。無理やり口を大きな手の平で塞がれ首筋に食いつかれ尖った歯が食い込み、あまりの恐ろしさに自分の呼吸が止まった。奴の下半身についた凶器が擦り付けられ僕の中に入ろうと押し当ててくる。死の恐怖を間近に感じ子供みたいに泣きじゃくるも口が塞がれているせいで唸るような音しか出せず、ただ涙を流し続けるしかなかった。
「ん…んん…! んぅ…っ」
これからくるであろう痛みにたえられるのか、いっそ気絶してしまいたい。そう思っていた時、アガタの手が僕の口から離れ動きが止まった。怖くて閉じていた目をゆっくりと開けると、奴の頭の上に足がのせられていた。
「離れろ」
「……イチ、様……えーっと、これは…」
「手を放せ」
いつもの声より数段低いのですぐには気づかなかったが、声の主はイチ様だった。いつこの部屋に入ってきたのか、早業すぎてまったく気づかなかった。
指示通り僕を押さえつけていた手を離した瞬間、アガタの身体が横に吹っ飛び壁に叩きつけられる。彼は死んだ、と僕が確信するくらいの勢いだったが驚くことにアガタはすぐに立ち上がった。彼の身体は鋼鉄でできているのだろうか。
「不意打ちなんて随分すね。俺がこの人間と交尾しようとしたの、そんなに怒ることですか?」
「……」
「や、まあでも、イチ様に断りいれてからの方が良かったっすね。すんませんでした」
「……」
「あーなんか、殺気がおさまらねぇみてーっすけど、やる気なら受けてたちますよ。いくらイチ様でも、俺は手加減しないですけど」
その瞬間、イチ様の瞳が真っ黒に染まった。前に人狼は本気で相手を倒そうとした時、視線の移動を悟らせないために黒目が大きくなるといっていた。前にやろうとしてくれた時はできなかったのに、今は真っ黒だ。イチ様は本気で怒っている。以前テレビで見たような人狼同士の闘いが今にも始まりそうだった。
「カナタさん!!」
動けずにいた僕を呼ぶ声が聞こえ、いつになく焦った様子のセンリが部屋に飛び込んでくる。向かい合うアガタとイチ様、そして裸の僕を見て状況を察したらしく、センリはすぐに僕を抱き上げ部屋から飛び出した。
「うわあっ」
「ここから逃げます! 掴まって!」
そのままあり得ない早さで疾走するセンリに、落とされないようしがみつく。助かった安堵と、イチ様を残してきてしまった不安があったが、ただセンリにされるがままに運ばれていくことしかできなかった。
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