神様とその子供たち 好きになっても ハレにはうまく誤魔化しておいたが、自分の気持ちは誤魔化されない。あんな夢を見てしまったショックと罪悪感で隣で眠るのも申し訳なかったが、理由も言えないのに離れる事はできず結局そのまま隣で眠らせてもらっている。問題は、あれからもそういった夢を見てしまうことだ。自分は恋愛にも性的な事にも興味がないと思っていたのに、なぜいきなりあんないやらしい夢ばかり見てしまうのか。 訳もわからず思い悩む日々を過ごしていたが、そんな悩みもふっ飛ぶ事件が起きた。その日は普段通りに起きてゼロと一緒にご飯を食べ、ゼロと散歩をしていた。もう繋がずともゼロは僕から離れたりしないので、湖の周りを散策したり綺麗な花が植えられ手入れされた中庭を歩いたり、その日によって少しずつコースを変えている。 ゼロの足を丁寧に拭いて自分の部屋に戻るため廊下を歩いていた途中、ゼロの足が止まった。 「どうしたの?」 僕が声をかけても無反応だ。完全に硬直して前だけを見ている。ゼロの視線の先を追うとそこに大きな男が立っていた。半裸で髪の毛が濡れているその怪しげな風貌の男には見覚えがある。以前に一度会ったアガタだ。 「! ゼ……」 ゼロはアガタの見た目が父親と似ているため、彼を見ると怯えてしまう。突然現れたアガタからゼロを守るためすぐに動こうとしたが、アガタと目があった瞬間身体が動かなくなってしまった。 「……っ」 「逃げんなよ」 日に焼けた肌と無精髭の男は二歩も歩けば僕の目の前にいた。見下ろす目は冷たく、身体が動かせない事もあって震えるほど恐ろしかった。 「センリとイチ様がどこにいるか、知ってるなら言え。口はきけんだろ」 アガタが僕の顎を雑に掴みそんなことを訊いてくる。幸い二人の居場所は知らなかったが、知ってたとしてもこの男に話しても大丈夫なのだろうか。 「わ、わからない、です」 「役に立たねぇな」 舌打ちして僕を馬鹿にするようにため息をつく。ゼロが怖がっていないか確認したかったが目の前の男から目がそらせない。前にセンリが言っていたように、この男と目が合うと身体がいうことをきかなかった。泣きそうな顔で震える僕をアガタがじろじろと見ながら言った。 「お前……人間の雄にしては見られる顔してっけど、イチ様と寝てんのか?」 「は……」 毎晩一緒に寝てはいるがそういう意味ではないことくらい僕にもわかる。今はへんな夢を見ているせいで意識してしまっているが、あの方と僕はそんな関係ではない。 「ちが、います…っ」 「まあイチ様は人間に手ぇ出すよーなタイプじゃねぇもんな。……まさかセンリとは何もしてねぇだろうな」 「な、ないですよ! そんなの、誰ともないです…っ」 ただでさえ低い声相手の声がさらに低くなり慌てて否定する。前に聞いた噂通り、アガタはセンリのことが好きなのだろうか。 「へえ、人狼の使用人やってて経験ないとかレアだな。さすが一貴邸、お上品なことで」 アガタが顎にかけた手を離してくれない。値踏みするような視線で僕の全身を観察しているように見える。 「わあ!」 早くゼロの前から消えてくれと思っていたが、奴は僕を片手で軽く持ち上げるとそのまますたすたと歩いていってしまう。動けるようにはなったが、捕まっているので不用意に抵抗できない。あいていた客室のベッドに放り投げられ、起き上がろうとした瞬間上から押さえつけられた。 「人狼のとこで働くなら夜の相手は必須だろ。ここでは必要なくてもずっと働ける保証があるわけでもなし、経験済みのが何かと楽だぜ」 「あ……」 また奴の目を見てしまい指一本動かせなくなる。手早く服を脱がされて自分が何をされそうになっているのが嫌でもわかり血の気が引いた。逃げたくとも身体が動かないのはもちろんのこと胸が苦しくて大声も出せない。 「や、め…てくださ」 「んー、肉付きもいいし、さわり心地も悪くない。むしろそういう商売にしちまった方が手っ取り早く稼げるかもよ」 「あっ…」 「可愛い声も出るしな」 全身をくまなく調べるように見られて触られて、こちらに人権などまったくなかった。目の前の男にとっては僕が嫌がってようがどうでもいい。足首を捕まれ無理やり開かれて人としての威厳もなにもない格好にさせられる。これから何をするのかがわかってしまい恐ろしくてたまらない。声はまともに出せないのに涙だけがこぼれ出してくる。 「いてっ」 そのとき、アガタの腕にゼロが思いっきり噛みつき彼の視線が僕からはずれた。すると途端に手足が動くようになり身体の自由が戻る。この時すぐに逃げていれば助けを求められたのかもしれないが、アガタに振り落とされたゼロが心配で逃げ出す事など頭になかった。無事着地したゼロがちゃんと動いてるのを確認してほっとした。 「このクソガキ! ぶっ殺してやる…!」 その物騒すぎる言葉にすぐアガタの身体に飛び付く。僕に妨害できるのかわからないが、この男がふざけて軽く蹴飛ばすだけでもゼロはきっと死んでしまう。 「ゼロ! 逃げて!」 へばりついた僕をアガタがいとも簡単に引き剥がす。再びベッドに放り投げられた僕は必死に叫んだ。 「お願いです! ゼロには何もしないで下さい…っ、まだ子供なんです、お願いします…!」 「………」 半分泣きながら懇願するとアガタがこちらを向き僕の上に馬乗りになる。奴にはゼロへの苛立ちより僕の方に関心を持ってくれたらしい。そのまま首筋をなめられ乳首をいじられたが身を少しよじっただけで抵抗らしい抵抗はしなかった。今度は奴と目をあわせても身体は動かせたが、大人しくしていないとゼロが狙われると思い逃げなかった。 ゼロにもしものことがあったら、きっと僕は生きていけない。ゼロは寂しくてたまらなかった僕を救ってくれた。僕はゼロの親ではないが今ではずっと一緒にいるのだ。ゼロの事は自分の子供のように愛している。アガタが怖いはずなのに立ち向かおうとしたあの子の姿を思い出すだけで涙が止まらない。ゼロさえ無事にここから逃げられるなら、僕はもう自分はどうなってもいいとさえ思っていた。 [*前へ][次へ#] |