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神様とその子供たち
006


走ってたどり着いた先は僕がさっきまでいたゼロの部屋だった。真っ先に可能性を排除していた場所だが、入れ違いにゼロがこの部屋に戻っているかもしれない。鍵もかけていないので賢いゼロなら自分で扉をあけることだってできるはずだ。と思ったが。部屋の扉が少し開いている。慌ててイチ様の部屋へ向かった僕が開けっぱなしにしてしまったのか、それとも。

「ゼロ!」

名前を呼んで部屋を見回すもゼロの姿はない。隠れるならきっとここだと思ったが、パニックになっていては正常な判断はできないかもしれない。

「ゼロ…いないの…?」

息を切らしながら部屋をゆっくり歩いて回る。どこにもゼロの姿はない。やはりここではなかったのかと思ったが、もう一つ奥の部屋、僕の寝室になっている場所の扉も少し開いていることに気付いた。普段ならここはいつも閉まっているはずだ。中を覗くと、そこにゼロの姿はなかったが僕のベッドのシーツが不自然に小さく膨らんでいた。

「ゼロ…?」

そっと恐がらせないように恐る恐る近づく。微動だにしないその膨らみに不安が募る。

「僕だよ。開けても良いかな」

そっとシーツをめくるとそこに目を閉じたまま小さく丸くなったゼロの姿があった。相当恐い思いをしたのだろう。その姿を見るだけで胸が締め付けられそうだった。

「ゼロ、もう大丈夫だよ。恐い人はもうゼロの前には現れないから」

そう声をかけると恐る恐る目を開いてこちらを見る。手をのばして抱っこするとゼロは迷うことなく僕の胸に飛び込んできた。これはきっと信頼してもらえてるということだ。

入れ違いになってしまったが、危ない目にあった後ゼロはここに来てくれたんだ。ここがゼロにとっての安心できる場所なのだろう。しばらくゼロを抱いたままあやしていたが、とりあえずいったんハレ達に見つかったことを知らせようとゼロをケージに入れようとしたが、嫌がって僕から離れようとしない。さすがに無理に入れることもできず、再び抱っこしながら撫でていると電話がかかってきた。ソファーに座りなんとか片手でゼロを抱いたまま通話ボタンを押した。

「もしもし」

『俺だ』

「……ハレさん? どうしました?」

『あのなぁ、連絡取り合うならお前も俺の番号必要だろうが! なのにさっさとどっか行きやがって……』

「す、すみません。それであの、今さっきゼロが見つかって」

『は? どこにいたんだよ』

「ゼロの部屋です」

『……ああ、そうか』

ゼロが見つかったことで安心したのかハレの怒りがおさまる。手が離せないので他の人達にゼロが見つかったことを伝えてほしいとハレに頼み、僕の方はセンリに電話をかけてゼロの事を報告した。センリは当然だとでもいうようにあくまで淡々と僕に礼を良い、イチ様に伝えると言ってくれた。


よほど恐かったのか、その後ゼロは僕から片時も離れようとせずずっと抱いたまま過ごすことになった。父親に似た男を見て、また連れ戻されると思ったのかもしれない。こちらの言葉は理解していてもゼロは話すことができない。けれど家族に虐待されていたゼロの苦しみは推して知るべしだ。ひたすら抱き締めて言葉をかけてあげることしかできなかった。


そしてその二日後、イチ様が四群から帰ってきた。追悼式の様子は僕もテレビで見ていたが、その時も今もイチ様の表情は変わらない。疲れている様子も苦しんでいる様子もない。しかし隣にいるセンリの重い空気から察するにイチ様の方もかなり疲弊しているはずだ。
イチ様はすぐにゼロに会いに来てくれたが、しばらく預かるという僕の提案に頷いた。その後イチ様は自室で倒れるように眠ってしまったそうなので、僕はその後もずっとゼロと共に生活していた。トイレや風呂など大変かと思ったがゼロは基本的にすごく良い子なので困ることなどなかった。今から思えば昔シロを世話していた時の方が大変だったかもしれない。でもそんなことどうでもよくなるくらいシロは可愛くて、幸せな時間だった。そしてゼロも同様に、僕を幸せにしてくれるだけの存在だった。



その日の夜、なんとなくゼロがそわそわし始めたのでさすがにイチ様に会えなくて寂しいのかと思い、イチ様が起きていることを確認してから彼の自室へ連れていった。扉を開けてくれたのはセンリで、彼の顔はとても険しかった。

「あの…大丈夫ですか。センリさん」

「…平気です。僕も仮眠をとったので、少し眠いだけですから」

とはいうもののやはり心配だ。イチ様もさぞ疲弊しているだろうと思ったが、彼はゼロの姿を見ると顔をほころばせ、僕からゼロを受け取り抱き締め頬擦りした。よほどゼロに逢いたかったらしい。

「カナタ、ゼロを見つけてくれてありがとう。任せて正解だった」

「いえ、ゼロは自分でちゃんと部屋に戻っていたので」

「君がいると思って向かったんだろう。本当に助かったよ」

自分にはもったいない言葉だとは思うものの、イチ様に褒められたことで自分が誇らしく思えた。実際はゼロがとても賢かったおかげなのだが。

「イチ様、今日はゼロと一緒に寝られますか。こっちで寝てもらっても僕はいいんですが…」

「いや、ここで寝かせるよ。ありがとう」

「わかりました。ゼロ、また明日ね」

ゼロを撫でながらお別れを言うと、突然ゼロが僕に飛び付いた。突然の事に慌ててキャッチすると抱っこされるときの所定の場所に自らおさまった。

「キャン!」

「ゼロ、どうしたの…?」

一体何事かとイチ様を見ると唖然とした表情のまま固まってしまっていた。隣にいたセンリが小さく笑いながら口を開く。

「ゼロがカナタさんと一緒にいたがるからショックを受けてるんですよ。今まで自分にしかなつかなかったのにって」

「え!?」

ゼロがイチ様を拒絶するなんて信じられない。正確には拒絶したわけではないだろうがイチ様より僕を選ぶなんて。もしかして拗ねているのだろうか。

「どうしちゃったんだよゼロ。すみませんイチ様、今だけのことだと思うので…」

「キャン! キャン!」

「ゼロ? どした?」

突然何度も吠えるので慌てていると、センリがイチ様に近づいて何やら心配そうに声をかけていた。

「どうされました?」

「ゼロが……」

「え? ええ?」

今度はセンリが目をまんまるくして驚き僕とゼロを見る。咳払いしながら彼はこちらに近づいてきた。

「あの、どうしたんですか」

「イチ様いわく、ゼロはカナタさんと一緒に寝たいそうです」

「え、あ…それはきっと、ちょっと拗ねてるのかもしれません。イチ様に会うのが久しぶりだから」

「違います。そうじゃなくて、あなたとイチ様、二人と一緒に寝たいと」

「……はい?」

呆然とする僕を尻目に尻尾を振って必死にこっちを見てとアピールしているゼロ。センリは頭を抱えながら「仕方ないですね」なんて言い出していて、僕はあまりのことに言葉も出なかった。



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