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神様とその子供たち
005


それからしばらくたったが、ロウは姿を見せることもなくセンリに言われたことを半分忘れはじめていた頃、爆発の事故現場で被害者の追悼式が行われることになった。当然イチさまも参加するので朝から慌ただしく準備をしていたが、しばらくこちらには帰れないとのことだったのでゼロはギリギリまでイチ様と一緒に過ごし、そのため僕の方は特に仕事がなく暇だった。

仕方なく部屋の掃除をいつもより入念にしてゼロが来るのを待っていたのだが、センリの方からゼロがいなくなったと知らせを受けて僕は掃除を途中で投げ出し慌ててイチ様の部屋へ向かった。



「失礼します…!」

部屋に入るとそこにはいつも以上に正装をしたイチ様とセンリがいた。しかしイチ様の顔色は悪く普段と違う様子がすぐわかった。

「ゼロがいなくなったって、どういうことですか」

「大丈夫。この部屋から逃げ出しただけで、この敷地内にいるのはわかっています。カナタさんを呼んだのは探すのを手伝っていただきたくて」

「それはもちろん……でもどうして、ゼロがイチ様から逃げ出したんですか?」

僕からならともかく、ゼロが自分からイチ様と離れるなんてあり得ないことだ。イチ様の姿を見つけるたびにたくさん尻尾を振って、いつだって少しでも長くイチ様の側にいようとする子なのに。

「アガタが来たからだ」

「アガタ…?」

イチ様が口にした言葉に首をかしげる。いつも通り通訳でもあるセンリが話を続けた。

「アガタ様を知りませんか? 一群最強の男と言われる、円陣格闘の選手です」

「……?」

円陣格闘、と言われてもピンとこないし当然アガタなる男も僕は知らないが、一群最強というからには有名なのだろう。ならば知っているふりをした方がいいだろうか。いや、センリには嘘は通用しないと考えた方がいい。僕が首を振るととくに気にもとめる様子もなく説明してくれた。

「アガタ様はたまにここにアポなしで来られるんですが、彼の容姿がチビの本当の父親にそっくりなんです。姿を見るだけでチビが怖がって逃げ出すのがわかっているので突然来ないように言ってはいたのですが……こちらの言うことを聞いてくれる方じゃないので、ついさっき鉢合わせして…」

「それで逃げちゃったんですか」

だとすればゼロは今ひとりでパニックになっているかもしれない。すぐに助けに行ってあげなければ。

「そのアガタ様はいまどこに」

「イチ様がすぐに外出すると知ったらさっさと帰っていきましたよ。そういう勝手な方なんです」

センリはそのアガタという男をあまりよく思っていないようだった。しかし帰ってくれたのならもうゼロを怖がらせる心配はない。

「センリ、やはり私が探す」

「ダメですって。もう出発しないと式に間に合いませんよ。イチ様が遅刻なんて許されないんですから」

「しかし私の方が鼻も効くし足も早い。すぐに見つけられる」

「いま総出で探させてます。見つけ次第、カナタさんに保護してもらえば大丈夫です」

「……」

会話から察するにイチ様にはもう時間がないらしい。確かにイチ様が探した方がゼロは早く見つかるだろうし、それが一番いい方法だ。けれど今日はあの事件で亡くなった人のための追悼式で、イチ様が遅れるなんてことはあってはならないことなのだろう。

「あの、イチ様! ゼロは僕が責任を持って見つけます!」

「……」

突然声を張り上げた僕にセンリもイチ様も少し驚いている。なんとか彼らに安心してもらいたいと声量を落としながら話を続けた。

「必ず僕が見つけて保護するので、イチ様は式に向かってください」

敷地内にいることはわかっているとはいえ、ここは広い。簡単に見つからないことはわかっている。けれど今役に立たなければこの仕事をやっている意味がないとも思う。確かにイチ様が探した方が早く見つかるかもしれないが、僕もある程度ゼロの考えがわかるようになっているはずだ。

「カナタ」

「!」

イチ様に名前を呼ばれ反射的に背筋がのびる。こんな風に呼んでくれると、距離が近くに感じるから不思議だ。

「……ゼロを頼む」

「は……はい、必ず」

頷く僕を見てイチ様とセンリが外出の準備を始める。僕はすぐに部屋を出てゼロを探した。走りながらゼロの名前を呼び周囲をしらみ潰しに見て回る。ここで働く人狼達も話が伝わっているのか、みな仕事を一旦やめてゼロを探しているようだった。

「あ、ハレさん!」

「うわっ、なんだよ」

「ゼロ見つかりましたか」

「まだだよ、うるせぇな」

明らかに話しかけるなという拒絶オーラが出ていたが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。僕は自分の番号を書いた紙をハレに押し付けた。

「これ、イチ様が僕に貸してくれた電話の番号なんです。ゼロが見つかったら連絡ください」 

「はあ?」 

「じゃ、お願いします!」

「あ、ちょ……おい!」

ハレを置いて僕は再び走り出した。いつもの散歩コースを中心に必死に心当たりのある場所をまわってみるもゼロの姿はない。茂みの中に隠れてしまっていたらなかなか見つけられないだろうから、一つ一つ調べていくしかないだろう。イチ様が僕を信頼してくれたのだ。約束を破るわけにはいかない。

「あ、もしかして……」

思い当たる場所を思いつき、庭からまた屋敷内へと戻る。走り回って体は疲れきっていたが、今はもうゼロの安否だけが気がかりで息を切らしながら廊下を走り抜けた。


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